第21話【閑話】ポン子記す

「いってらっしゃい、私パン屋さんのパンがいいです」


 そう言ってイチローを送り出す。


 すごく辛い、だるい、気持ち悪い。


 ちょっと無理をしすぎたみたいだ。


 私は魔法モニターを開きそして、記憶保存用の外部ストレージを開く。


「こんなのは柄ではないんですけどね」


 そしてモニターに手を伸ばす。





 ――


 私、守護天使ポン子がしるす。


 私が守護をする事になったイチローはすごく変な人だ。


 スライム相手に踊ったり、自分の部屋の惨状に自分で驚いたり、イモムシになったり、遊び人系生徒になったり、変な武器の事を熱く語ったり。


 一緒に居て飽きないし楽しい。



 そしてすごく優しい人だ。


 初めて行ったコンビニでお金がないとガックリしていた私、私の体の大きさを考えれば、お弁当を二個買うだけでも優しいのに、レジ前の良い香りのせいでお腹がキュルルと鳴ってしまった私を見て、笑いながら、からあげを一つ買って渡してくれた、美味しかったなぁ。


 優しいのでついお弁当を一人前多めに要求してみたら、仕方ないなとやっぱり許してくれる、パスから伝わる感情に怒りは無く、むしろ私と一緒に食べる喜びのような物を感じる。


 貴方と一緒に食べると、すごくすごーく、ご飯が美味しく感じる。


 貴方の頭の上に私が居ると、なるべく揺らさないように歩いてくれる。


 頭に本を乗せ姿勢を保つ訓練をして歩く令嬢のようで、つい笑いをこらえてしまう。


 それでいて、たまに頭をわざと振って私を楽しませてくれる。


 ほんとにほんとうに優しい人だ。



 私はねイチロー、漫画が大好きでアニメも大好きです、小説もドラマも映画も、だからいつもね、少し、少しだけ演技をしているの、いつか見たり読んだりした楽しい世界に、自分も入ってみたいと願っていたから。


 イチローはそんな私に合わせてくれる、おおげさな演技にも演技をネタにネタを返してくれる、自分も楽しいのだと貴方の感情が教えてくれる。


 すごくすごく嬉しい。


 たった数日一緒に居ただけなのに、イチローは私にとって弟のような兄のような家族になっているんだよ?


 天使に家族なんて存在しないのにね、おかしいよね。


 私はこの想いを無くしたくない。


 悪魔と戦う事になり、勝ち目が見えなくなった時、私はなんの躊躇ためらいもなく、すべてを賭ける決心が出来た自分に、少し驚いてしまった。


 そして、神界で復活した時は貴方の事を忘れてしまっているのだと。


 そんな事を考えて恐怖を覚えてしまった。


 故に、ここに書き示す。


 私、守護天使ポン子はイチローの盾であり矛であり家族であると。


 次に同じ様な敵に対したら、私は、またすべてを賭けて貴方を守るでしょう。


 勿論、そう簡単に負ける気はないけれども。


 私の感情を、想いを、残しておきたくなってしまったのも、全部イチローが悪い。




 イチローは人間、せいぜい百年か、スキルを一杯覚えても二百年は生きてはいけないでしょう。


 その短い生を私と一緒に駆け抜けようね。


 貴方に恋人が出来たら私が審査します。


 貴方に子供ができたら遊び相手になってあげます。


 貴方が寝たきりになったら私がおむつを替えてあげます。


 貴方が天国に行くのなら……私が送ってあげます。


 貴方が居なくなっても、私はこの記録を何度も何度も読み返すでしょう。



 ねぇイチロー。


 このダンジョンのある現代を、私と一緒に沢山の幸せを、楽しさを、美味しさを、一杯経験していこうね。







 地上世界 ×月×日 ポン子 一回目を書す


 ――






「ただいま!」

「おかえりなさーい」


 私は魔法モニターを閉じてイチローを迎え入れる。


 息が荒い、急いで走ってきたのだろうなぁ。


「大天使さんからか?」

「そんな所です、さて食べて迎えを待ちましょう」


 正直味はよく判らないけど、美味しいですと笑顔で言っておく。


 イチローの心配する感情が流れ込んでくる、まぁ判っちゃうよね。


 ポツポツと会話をし時間が来るのを待ち


「時間ですね」


 とイチローに声をかける。


 私とイチローを魔法陣が包む。



 ◇◇◇


 ダンジョンのある現代編 完

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