第20話 戦いの後そして

「あれ私操作してないのになんで急に?」


 ポン子が呟く。


 ポン子は魔法モニターを操作している、俺の気持ち悪さもほとんど消えていた。


 つなぎの胸部分に穴が空いてる、買ったばかりなのになぁこれ。


 モニターから顔を上げたポン子は。


「大天使様からの連絡です、上の許可を取り、助けにいこうとしたら、カニ歩きと逆転劇が始まってた、だそうです」


 そうか助けようとはしてくれてたのか、間に合わなかったけど、そうか……カニ歩きを見られていたのか……。


「後追加でイチローの中に潜り込んだ悪魔は消滅した様だけど、力がまだイチローに残ってるみたいで、神界で調査と治療もしたいらしいです、悪魔が関係しているので神界に呼ぶ許可も出たそうです、それと私には、お菓子とお説教だそうです」


「今からか? なんでお菓子とお説教がセットなんだ……?」


「判りませんよ、今日の夜頃に家に居てくれたら転移魔法で運んでくれるって」


「そうか判った、なんとか生き残ったな」


「そうですね、イチローはちょっと無茶をしましたけど」


「まて、無茶をしたのはお前だろう!」


「いいえ、私は守護天使だからいいんで――」


 ポン子は言いかけて少しふらつき高度を落とした、俺は咄嗟に手で受け止める。


「っと、大丈夫か?」


「さすがにちょっと疲れました、イチロー頭貸してください」


 ポン子を俺の頭に乗せてやる。


「存在のリソースとやらは大丈夫なのか?」


「だるいけど消滅する程ではないです、まぁ、神界に呼び出されたら土下座でもしてリソースを少し借りる事にしますので大丈夫です」


 それは大丈夫とは言わんだろう、が今それも言ってもどうにもならんか。


「ならさっさと荷物取って帰ろうぜ」


「はい、リッチのドロップも忘れないでくださいね、後、コアの後ろの壁に入口が出来てます、コアガーディアンを倒すと奥の部屋に入れて、お宝と帰還用の魔法陣があるはずです」


 ほんとだ入口出来てるな、靴を履いたり装備を整えたり、棒は無事に転がっていたのを回収、リッチのドロップもバックパックに仕舞いこみ、奥の部屋へと向かう。


「コアを破壊したけどダンジョンはどうなるんだ?」


「お宝が手に入るだけです、時間がたてばガーディアンもコアも宝も復活しますが、元に戻るエネルギーの消費分だけ、通常のスライムのリポップ時間が伸びたりアイテムドロップ率が落ちたりするでしょうね」


 それだとフィーバータイムはどうなるんだろな。


 そこそこ長い通路を通り部屋の中に入ると、四人の男女が寝ている側に、コウモリの形だが向こうが透けてみえる羽を生やしたポン子と同じくらいの大きさの、恐らく妖精がこちらに背を向けて浮かんでいた、気配を感じたのかこちらを向きながら。


「は、伯爵様、御免なさい! ま、まだ暗示は終わってません、もう少しお待ちを……って、あれ? どちら様ですか?」


 そういえば部下がいるって! 俺は棒をかまえ、ポン子が水魔法を撃つ、頭の上から飛び立たないのはそれだけ辛いのだろう、早く終わらせねば、でも悪魔の部下に勝てるか?


 と、ポン子の撃った魔法がそいつの顔に直撃して床に落ちる、ウキューとか言いながら、あれ? こいつすっごい弱い感じ?


 ちなみにバニーガールみたいな恰好をしてる。


 油断をせず床に落ちている妖精に向け棒を振りかぶる、それに気づいた妖精が身をすくませて頭をかばう素振りを見せる。


「イチローちょっと待ってください」


 ポン子が止める。


「どうした、なんで止める」


 油断をして、また家族を失う様な事はしたくない。


「どうもすっごい弱そうなので、少し話をさせてください」


 そう言って床に降り立つポン子、俺は横から棒をかまえ、いつでも攻撃できるようにして、ポン子にまかせる。


「こんにちわ、貴方は悪魔の部下という事でいいですか?」


 妖精はすごく焦ったようにアワアワと答える。


「にゃんの事ですか探索者の妖精さん、私は無害な妖精さんですよ~、貴方のお仲間です、えーとえーと」


「次に嘘をついたら、私のご主人様の棒で叩き潰します」


 俺は棒を少し振り上げる。


「ごめんなさいぃ私は伯爵様の部下です、許してください、ところでその伯爵様はどちらに?」


「あのハゲなら倒しましたよ」


「本当ですか! 有難うございます! あのハゲ上司から解放されるなんて、今日は最高の日です、では私は地獄に帰りますね」


「待ちなさい、貴方には情報を吐いて貰います、まずそこの寝ている四人に何をしたんです? 今度ふざけたら潰します」


 やっぱ無理ですよねーと呟き妖精は答える。


「この四人は寝ているだけです、ハゲ上司に暗示をかけるように言われて、まず男から夢の中を少し探ってみた所でした、まだ暗示などはしていません」


「この四人はどういった状況で連れてきたのですか?」


「中ボスを倒すと発動する罠の転移陣によってです、伯爵様が即座に麻痺&スリープをかけたそうです」


 あの麻痺を食らったら終わりだろうなぁ。


「なるほど、悪魔の事はばれてなさそうですね、貴方は伯爵のように魔物を依り代にした存在ですか? それとも自身を変化させている?」


「後者です……」


 やられると記憶を失うって事かね?


「私と同じという事ですね、では、ここに来ている悪魔は貴方と伯爵だけですか?」


「はい二人だけです、あの伯爵は人望がないので部下は居ません! 私は伯爵から援助要請を受けた氏族の中で、一番成績が悪いからと送り込まれました、みんなには虐められてましたし……」


「それは……かわいそう大丈夫? っではなく、コホン、貴方、私達に服従するか潰されて記憶を無くして地獄で甦るか選びなさい」


 あの伯爵悪魔の部下にされ、しかも周りから苛めにも合ってたって……、俺は戦闘態勢を解除し妖精を憐みの目で見てしまう。


「ええと、記憶は失いたくないですが服従って……それは?」


「自らの意思でカード化しなさい、うちのご主人様と契約すれば嘘をついているか判るでしょうし、情報をきっちり吐くなら悪いようにはしないわよ」


「あーうう、わわ、はいぃ判りました……服従します」


 妖精はしょんぼりしている、なんか可哀想だな。


「ではカード化を」


「はぃ」


 妖精の姿が薄くなり消えた後にはカードが一枚、カードの絵柄を見ると、頭にはウサミミ、髪はピンクブロンドでツインテール、自前のとがった耳、目の周りに隈があるのが可愛さを台無しにしとる。


 黒のバニーガールさんなのに、全体的にエロティックというより疲れきった美少女という絵柄だ、体育座りをしてて、なぜか哀愁を感じさせる。


「とりあえず、この子の事は後回しにしましょう、カードから自力で戻る事は出来ないでしょうし、この四人を連れて帰りましょうか、正直疲れました」


「了解だ、ポン子は休んでろ」


 カードをポケットに入れる。


 はい、と言って俺の頭に乗るポン子、そこに居ると作業しづらいんだがなぁ……。


 部屋にはお宝が無かった。


 上層階のドロップ率をあげるのに余計な物を削ってそれをあてたんでしょうね、とポン子が言っている。


 ダンジョンに使われる力の総量を変えない事で、天使に気づかれないようにしたのではないかとも。


「尋問してる時ずいぶん厳しい感じだったな」


「あれは日本の漫画を真似してみました」


 まじか、日本の漫画すげぇな。


 四人の探索者を帰還魔法陣に放り込み、俺も乗り一階の転移陣部屋へ。


 一階についた時、四人のうちの一人が目を覚ましそうになっていたので、一旦部屋の外に出て入口横から様子を伺う、目を覚ました女性は最初意味が判らないのか狼狽うろたえていたが、仲間を起こしだした。


 俺はそっと離れて入口から外に、おばちゃんもスルーして家に帰る事にした、ポン子が頭にいるからなのか、周りに見られて居たが知った事か、今は急いで家に帰る。


 ――


「ただいま」

「ただいまです」


 頭の上のポン子の声に元気がない。


 部屋のクッションにそっとポン子を置き。


「何か俺が出来る事はあるか?」


「休んでいれば大丈夫ですよ~、イチローは心配性ですねぇ、でもそうだ、ご飯買い忘れてますよ」


 そうだった、帰る事しか頭になかった。


「急いで買ってくるから待ってろ! サンドイッチとかパンでいいか?」


 慌てて外に出ようとするが。


「イチロー、ツナギの胸に穴が空いたままですよ、外でも目立ってましたし、着替えましょうよ」


 と上品に笑うポン子、お前のいつもの笑い方はそうじゃないだろう……。


 予備のTシャツとツナギに着替え家を出る。


「すぐ帰ってくるからな! いってきます」


「いってらっしゃい、私パン屋さんのパンがいいです」


 なんでコンビニより遠いパン屋に、しかもこの時間混んでてレジ待ちするのに、少しでも早くと駆けていく。


 ――


 やっぱり混んでいた、適当に買ったパンを片手に家に入る。


「ただいま!」

「おかえりなさーい」


 ポン子は魔法モニターを閉じて迎えてくれる。


「大天使さんからか?」

「そんな所です、さて食べて迎えを待ちましょう」


 美味しいですと笑顔で言うポン子、だがお前が一人前でお腹一杯なはずないだろう?


 お前の感情が判る俺が気づかないはずが無いだろうに……。


 何もできずにポツポツと会話をし時間が来るのを待つ。


「時間ですね」


 とポン子が呟き。


 俺とポン子を魔法陣が包む。


 そして何度めかの浮遊感――

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