第19話 はげしい戦い

「死ね」


 そういって悪魔は呪文らしきものを唱えだす。


「我が前の敵を蹂躙し黒き神の贄となせ、黒騎雷千こっきらいせん


 悪魔の両手から黒い雷が流れ出しポン子に向けて伸びていき、そしてポン子に直撃する、悪魔の両手からは常に黒い雷が流れ出ていて帯のようにポン子に繋がっている、ポン子が貯めていた白い輝きは弾き飛ばされてしまった。


 ポン子!


 ポン子は悲痛な声を上げ。


「あああああああああああああぁぁっぁぁぁ……ああ、あ、あ、あ?」


 ポン子が叫んで痛みの感情を送ってくる、痛みの、いた、んん?


 困惑。


 ポン子は顔を俯かせ何かに耐えているようにも見える、あいつの周りには悪魔から伸びた黒い雷が渦巻いている。


「ククッどうだ痛いか? 苦しいか? これはまだ手加減をしているのだぞククッ」


 悪魔は嬉しそうに語る。


 俺には感情が流れてきているから判る、ポン子は痛みをまったく感じていない? 混乱、ひらめき、下を向きながら俺の方をチラっと見た、そして悪魔に対して語る。


「くっこの力は、さすが伯爵級、でも私は負けません!」


 ポン子の女優魂が燃え出したのが判る。


 そして思いが伝わり理解してしまった、そうポン子は俺にイモムシになれと心で言っている。


 悪魔の攻撃は終わらず、両手からずっと川のように流れが止まらず黒い雷がポン子にまとわりつく、しかも何故か周りの光を吸収するのか部屋がうす暗くなっている。


 俺はイモムシ、イモムシだ、空を飛ぶ鳥に見つからないように、周囲に擬態をする、そんなイモムチローに俺は成る!


 部屋がちかちかと光が揺らめき暗くなっているおかげで俺は目立たない、黒のつなぎ万歳、はいつくばった姿勢で、一センチ二センチと柱の陰に向けて進んでいく。


「くあぁぁぁ私は負けないって言ってるでしょー--」


 ポン子が攻撃を食らいながら水弾をいくつも悪魔に撃ち相手の注意を惹く、その瞬間に柱の陰に転がり込む。


「どうした神聖力はもうお預けか? フハハハ」


 悪魔は嬉しそうだ。


 バックパックにサイドポーチを外し、歩く時音を立てないように靴を脱いで靴下に。壁側に近づき顔を壁に向けて両手で顔の横を覆いカニ歩き、人の顔は白くて目立つと聞いた事がある。


 慎重にばれないように進んでいく、そう、ダンジョンコア方面に向かって、ポン子からそっちじゃないと感情が伝わってくる、逃げた所で上手く行くか判らんだろ、それならチャンスにかける、そしてお前も一緒に帰るんだよ!


 ポン子の仕方のない人だという感情が伝わる、喜びも少し。


 顔を壁に向けているせいでポン子や悪魔の声しか聞こえない、俺はカニのようにゆっくり横に動く。


「おうおう、下を向いて震えておるのう、どうした天使、負けないのではなかったか」


「くっ、私がまさかこんな、なんでこんな所にあなたのような強い悪魔がいるのですか!」


「フフッ大戦で我らが負けたとはいえ天使どもが地上で好き勝手にやっているのが我慢できなくてな」


「条約違反ですよ」


 条約なんてあるのか。


「ふんっそんな物は建前だと誰もが知っている、お主だって判っているから声高に叫ばんのだろう? 天使も大戦前には地上でこそこそ動いていただろうが」


「それは……、まさか神界に攻撃を仕掛けるつもりですか」


「さすがに悪魔の勢力もそこまでは回復しておらんわい、人間どもの欲望を煽りリソースを悪魔側に傾ける、それはもう始まっているのだよ、お前は何も出来ずに死んでいくのだクハハハ」


「そ、そんな、ではこのダンジョンの変異も……」


「その通りだ、何故か知らんが最近このダンジョンに一瞬だが歪みが出来たらしくてなぁ。システムにハッキングを仕掛けコアガーディアンの体を依り代として顕現する事に成功したのだよ、ガーディアンはコアと繋がっているからなドロップ率を弄るのも簡単だったぞ、まぁそのせいでコアを壊されるとまずいが、人間の探索者ごときに負ける訳もないしな、フハハハ」


 上手い事話をもっていくなぁポン子、コアを壊せばいけそうだな。


「欲望に釣られた人間を集め何をするつもりですか!」


「少しづつ捕まえて暗示をかけ欲望に素直にさせて地上に帰すのだよ、人間はすぐ転ぶからなぁ無理をせずとも素直にさせるだけでいい、楽な仕事だ、天使にばれないようにゆっくりと浸食していくのだよ」


 帰す前に玩具として少し遊ぶ予定だがな、と悪魔は楽しそうに話している。


「そんな恐ろしい計画を遂行してるとは……もう何人も毒牙にかけたのですか、この悪魔め」


「我は悪魔だからな、フハハハ、まだ始めたばかりだが二組目で天使に会うとは思わなかったわ、今はまだ使えない部下一人しかいないが、これを成功させて俺の事を認めさせてみせる! 大戦で逃げた卑怯者などともう言わせない、言わせはせんぞ」


 部下が一人いるのか、柱の陰にいたら終わってたな。


「そのような恐ろしい計画を貴方以外の悪魔もやっているというのですか……」


「他の悪魔が何をしてるかなんて知らんわ、悪魔がお互いに協力なぞするか、これは我が個人で始め手柄もすべて我の物よ」


 個人的な行動で、他の悪魔の動きは判らずか。


「く、まだ攻撃が終わらないのですか、ですがこれが途切れた時が貴方の最後です」


「ふむ、我の攻撃が終わったら最後か、プッ、クフフッフッ、ハハハ」


「な、何がおかしいのですか」


「これが笑わずにはおられるか、この魔法は奥義だと言っただろうが、相手が死ぬまで途切れんのだよ、フフハハハハ」


「そんな馬鹿な、そんな理不尽な魔法が……リソースの消費量だって……」


「普通ならありえんだろう、しかしこれは制約を利用しているのでな、デメリットをつける事で魔力消費を極限まで減らし、魔法の形状はあまり変えられなくなるが、その代わりに相手が死ぬまで攻撃がまとわりつくという画期的な奥義なのだよ」


「デメリットなんて貴方は問題なく立って居るでは……、はっ! まさかハゲになるデメリットが!」


「そんな訳あるか! 相手が死ぬまで攻撃が止まらんし、我も動けんし勝手に攻撃を止める事ができんだけだ! 我はハゲではないと言っておろうに!」


「だそうですよ~、イチロー!」





「了解」


 すでにコア横の柱まで到着していた俺は、そう言って柱から飛び出して一直線にコアに向けて走る。


 悪魔は俺に気づき両手を必死に動かそうとしている、ポン子に向かっていた雷の帯がカーブを描き壁際の柱を壊す。


 うわやべ途中で気づかれていたらアウトだったな。


 コアに辿り着き、ツナギの道具ホルダーに刺さっていたトンカチを抜き出し両手で持ちコアの上に振りかぶる。


 悪魔とポン子が同時に叫ぶ


「や、やめろー!」

「やっちゃえイチロー!」


 役に立たないなんて思っててすまんなトンカチよ。


「お前は今日から俺の、マークⅤだぁぁぁぁ!」


 コアに向けて思いっきり叩きつける。


 ガコンッ!


 一撃では壊れない、くそ、思ったより硬いのか! 二度三度と叩きつけていく。


 悪魔は慌ててポン子の方を向き。


「くそ、何故死なない天使よ、さきほどより威力を上げているのに何故だ!」


 ポン子の周りは黒い雷ですごい事になっているが、そういや、あいつなんで平気なの?


「いやー効いてますよ? 私の豊満なナイスボディーのせいで肩が凝ってたので、ピリっとして肩のマッサージに丁度いいなぁくらいには、ね?」


「ふざけるな~! お前のようなペタンコ、肩が凝る訳ないだろうが! いや違う我の奥義が効かないなんて事があるわけないだろうに!」


「失礼な! 妖精の体のせいでそう見えるだけで、人間サイズまで大きくなれば、Bカップにもうすぐ届くんですよ! たぶんきっと」


 俺は女性のサイズには詳しくないんだが、B弱って豊満なのか? ガコンガコンとコアを殴りながら。


 ペッタンと言われてむかついたのか、ポン子は腰に手をあててお尻をふりふりさせて悪魔を煽る、コアまじで堅いなヒビは少しづつ入ってきているが、魔力の宿ってないトンカチだからか?


「へいへいへ~い、どうしたどうしたハゲ悪魔、こんな攻撃じゃポン子ちゃん眠くなっちゃいますよ~『黒騎雷千こっきらいせん、相手は必ず死ぬ!』でしたっけ? クスクスクスッ」


 なんでだろう、俺には今のポン子が悪者に見える、ガコンガコン。


「おのれ~! ふざけるな! 我が負けて撤退したあの大戦、必ず復讐してやると誓って練り上げたこの奥義がなぜ、くぅ、我らを蹂躙したあの白雷を倒すはずの奥義が! こんな所で」


 はぇ~例の前大戦の話かぁ~、ガコンガコンッ。


「んん? 白き雷ってそれ……、あーあーはいはい、……ふっざけるなですよ悪魔! 大天使様の雷をなめるな、こんな鼻くそみたいな雷で倒すとか、冗談はハゲだけにして下さい! 私が大好きなあの人の雷はねぇ! すっごい痺れるんですよ! あなたの雷では比べるのすらおこがましい、その程度ですか? 骸骨、いえハゲ悪魔」


 焼き尽くされるとかじゃなく痺れるだけなんだな、しかもさっき言われたお返しまでしてる、ガコンガコン、ガッバキ。


 あ、コア壊れた。


「我の計画が、馬鹿にした者どもを見返し……くっまたやり直しか……」


 骨の手足が端の方から崩れ始めている、攻撃も止んでいた。


 終わったか、ポン子が近づきながら、ってちょっとふらついてるなあいつ、何故か悪魔をなぐさめている。


「判ります、判りますよ~、私もよく失敗するんです、うんうん誰にでも失敗はありますよね、地獄で怒られてまた出直せばいいじゃないですか、それも経験です何度でも失敗するといいですよ」


 俺には煽っているようにしか聞こえない、が本気で慰めてるんだろうなぁこいつ。


「ヌヌヌっクソッ、我はこんな下級天使に、そしてなんの力も無さそうな人間に――」


 悪魔はポン子から俺の方に顔を向けて言葉を止める。


「貴様、アストラルに開いているな? ククッ地獄に帰ろうと思ったが止めだ、今度は我が全てを賭けてお前らに仕返しをしてやろう!」


 リッチの体から黒い霧のような物が湧き出し、それは一人の悪魔を形作る、山羊のような少し巻いた角、背中には蝙蝠羽青黒い肌、髪型でごまかしているが薄い髪の毛。


 すでにリッチは崩れきって床に粉になって落ちている。


 霧のような悪魔が俺に向かって飛び込んでくる、咄嗟に腕を前に出したがトンカチは切り裂かれ、ツナギも破れ、そいつは俺にぶつかり……なんの衝撃もなく消えた、何処にいった?


「イチローッ!」


 ポン子がこちらに飛んでくる、速度は遅い、疲れた気持ち悪いという感情が伝わってくる。


 俺は手に持っていた柄だけになったマークⅤをポイッと捨てると、破れたつなぎの中を覗く、肌が見えるが傷のような物はな――


『思ったより狭かったな、まぁよい、ではお前の体を貰うぞ』


 俺の中から声がする。


『さて、む熱いな、なんだこれは、まて熱い痛い熱い、これは神の……ぬおぁ、まさか……罠だったというのか、おのれ~すべてを賭けたというのに、く、我が溶けていく、我は、名誉を取りもど……し……』


 声が消えた、と思ったら何かすごく気持ち悪くなってきた、あの異常なスキルを覚えた時を思い出す、その場に座り込みそれに耐える。


「大丈夫ですか? リッチから霧状の悪魔が飛び出てイチローに当たったように見えましたが、体に何か異常はありますか?」


 ポン子はふらふらと辛そうに飛びながら、ツナギに空いた穴を心配そうに見ている。


 そんな時ポン子の前に魔法のモニターが出現する。


「あれ私操作してないのになんで急に?」


 ポン子が呟く。

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