第18話 守護天使

「ええ、私はイチローの守護天使! 彼に降り掛かる災厄を防ぐ盾にして彼の歩む道を阻む闇を払う矛!、お前みたいな道端の石ころ雑魚悪魔に構ってる暇はないんですよ! とっとと退場してお家で泣いてろハゲ頭が!」


 ポン子が神聖な魔法か何かを悪魔に向かって放った、すごく眩しくて視界が光で埋まる、そして俺にも何かが当たった気がした、祈り。


 骸骨でも眩しいのだろうか? 手を顔の前に出していた悪魔に、攻撃が当たったようだが効いていないように見える。


「ふむ、神聖な魔法を食らうのは前の大戦以来か懐かしいな、だがあの時とは比ぶべくもないな、その程度か? 妖精、いや天使よ」


「今のは小手調べですよ、いきなり退場しちゃったら可哀想でしょ?」


「言ってくれるではないか、少し遊んでやろう」


 悪魔とポン子はお互いに魔法を撃ちあい始めた、悪魔は黒い弾を、ポン子は白い弾を。


「どうしたどうした天使とやら、ほらほら次がいくぞ、クククッ」


「うっさいハゲ頭、大戦に負けたんだから地獄に引きこもっていれば良いものを!」


 焦り。


 さっきからポン子の感情が流れ込んできている気がする……。


 いや、これは前から感じていた感覚だ、ポン子と一緒にいると心がポカポカと……そうだ、ポン子と会話をし笑うと嬉しさが、ご飯を一緒に食べると美味しいという気持ちが心に満ちていた。


 俺は自分の感情だと思っていた、だが、あいつの感情も俺と同じだから気づかなかったんだ、俺とポン子はずっと繋がっていたんだな、喜びも楽しさも美味しさもすべて一緒に感じていたんだ……。


 パスが繋がってポン子の位置が判るだけだと思っていた、だが今は意識をすればこんなにも悲壮な感情が流れてくる。


 くそぅ、くそぅ、どうすれば……。


「ふむ、下級の天使という程度か、つまらんな」


「くっ何が伯爵よ、実は準騎士級とかなんでしょーに!」


 ポン子と悪魔の魔法の打ち合いは悪魔が優勢に見える、ポン子は少しづつ位置を変えている、策謀。


「言ってくれるな、では伯爵級の力少しだけ見せてやろう」


 悪魔の前に黒い大きな弾がいくつも出現する。


「なっ、その力はそんな馬鹿な……」


 そして俺とポン子と悪魔が一直線になった時、悪魔の攻撃がポン子に、そして俺に当たり吹き飛ばされた、防御。


 俺は斜め後ろに二十メートル以上は飛ばされただろうか、柱に当たりすべり落ちた、だが何故かあまり痛くない、そして体が少し動かせる気がする、安堵。


「私は、私は負けない、負ける訳には~あぁぁ!」


 ポン子はあまり飛ばされず、悪魔と再度向かい合って戦っている、戦意。


 俺の麻痺が解けてきている? ポン子が回復魔法をかけてくれた? なら痛みが無いのも……、俺は賢明に考える、ポン子の行動の意味を。


「口ではなんとでも言えるな天使よ、少しづつ弱くなってないか? おぬし、存在の力を使ってるだろう、ククフハハハ哀れだな、リソースに余裕のない貧乏天使だったか」


 驚愕。


 わざと攻撃を食らって俺を少しでも入口の近くに飛ばした? 麻痺もかなり解けている、だがまだ完全に治ってはいない、今動いて目を引く訳にはいかない。


 逃げるにしても隙を見つけ完全に治ってからだ、あいつの頑張りを無駄にしてはいけない、一緒に家に帰るんだ。


 悪魔は攻撃の手を少し緩めたように感じる。


「けなげだな貧乏天使よ、どうだ? 堕天して我らの仲魔にならないか?」


「な、何を急に言い出すのこのハゲ!」


「くっ、何我らは人類を滅ぼそうとしている訳ではない、奴らは貴重な家畜だからな、欲望に塗れた酒池肉林の世界にするだけよ、地獄は自由だぞ、週休七日に美味い物も食べ放題だ、下級の天使は人に近いはず共に堕ちようではないか、それとハゲではない」


「舐めるな! 私は守護天使! 主人と人類を守る盾だ! 悪魔の誘惑になぞ屈するはずも無い! 美味しい物で釣るなら商品名くらい入れなさいこのハゲ!」


「ふんっ、さすがにそう簡単に堕ちる天使なぞおらんか、残念だよ、堕天したら我の部下として、こき使ってやろうと思ったのにな、もういい」


 悪魔の攻撃がまた激しくなってきた。


 まだ治らないのか、早く癒えてくれ、早く、早く!


 ポン子の攻撃は悪魔に打ち消され、悪魔の攻撃は打ち消せずに何度も食らっている、苦痛。


 ポン子がこちらを見た気がした、覚悟。


 まて今何を覚悟したポン子、もう少しで俺の麻痺は解けそうなんだ、あとちょっとだ、そしたら一緒に逃げようぜ、もうちょっとなんだよ……。


「なるほど、確かに貴方は少し強いハゲ悪魔のようです、ですが私も守護天使の端くれ、ハゲなんかにやられる訳にはいかないんですよ! 私のすべてを賭けます、貴方はこの勝負に乗りますか?」


 博打。


「ふん負け惜しみを、勝機がなくなって自爆特攻か、天使は本当にその手が好きだのう、まぁいいわい乗ってやろうじゃないか、それと我はハゲじゃない依り代が骸骨なだけだ!」


 勝利。


 まて、まてってポン子、やめてくれ、さっきからお前の感情が、俺に一人で逃げろと、最後にチャンスを作ると訴えてきてる、でもお前はお前はどうなるんだよポン子ぉ! 


 まだ高級弁当も一緒に食べてないだろう? 自分の部屋を格好よくするんだって張り切ってたじゃないか! 一緒に探索者として成功していくってそう言ってたじゃないか! 俺をイモムシから蝶にしてくれるんだろう? 俺だけ生き残っても……お前が居ないんじゃ意味が無いんだよ! ポン子ぉ!


「いきますよ」


 ポン子の体から神聖な光が溢れ出す、まるでロウソクの最後の瞬間のように煌めいている……まってくれって、そうだ、あの人だ大天使さん大天使さん、助けてくれ!


 あの時の感覚は俺の勘違いじゃなかったかもしれない、俺に声を届けられるなら助ける事も出来るんじゃないか? なぁ見えてないのか大天使さん! ポン子は貴方を好きだと言っていた、部下を見捨てない良い上司だとも、ならいまそれを見せてくれ、頼む、助けてくれるなら俺は何でもする、裸で踊ってもいい。


 ……たのむよぉぉ……たのむ……だれか、だれかたすけてくれ、おれじゃぁポン子が救えないんだ……。


 光が強くなっていくポン子、力を貯めているようにも見える。


「ほう、これは中々どうして」


 腕を組んで攻撃の手を止めていた悪魔が感嘆の声を漏らす、だが怯えてすらいない。


 やめてくれポン子、俺の前から居なくならないでくれ、たのむ、ただ二年間生きていただけの俺に舞い降りた守護天使、お前は俺の希望であり祝福であり、もう家族なんだよ……、俺は、俺はまた……家族を、失うのか……。


 体に麻痺はもう感じられない、きっと走る事も出来るだろう。


 力を貯めているあいつから、感謝、願い、という感情が流れ込んでくる。


 この状況でお前は何に感謝をし、何を願うというんだよぉ……


 ……判っている判っているさ、お前との暮らしは短かったが楽しかった俺も感謝しているよ……。


 そうだな、お前が願うなら俺は生にしがみ付いてやるよ、悪魔からも逃げきってみせる。


 でもなポン子、俺の心はここに置いていくからな、家族を失って、ただ生きているだけの人生になるなら、心はお前と一緒にここで死ぬ。


 これから先、笑って人生を歩めない事は謝るな、ごめんなポン子。


 その時、骸骨であるはずの悪魔がニヤリと笑った気がした。


「そうだ天使よ、我は賭けにやるとは言ったが、やるとは言ってない」


 何を、この悪魔は何を……。


 ポン子はまだ力を貯めている、途中では動けないのか? 今の俺に何ができる……くっ。


「はなむけだ天使よ、我が大戦時の経験を得て練り上げた奥義で送ってやろう、ふっ実践ではこれが始めてだな、光栄に思え」


 悪魔は両手を前に出し何か黒い力を集め。


「死ね」

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