第15話 営業戦争

 凛々しいポンちゃん先生の表情は作るのに疲れるので、後は普通にいきましょう、とポン子が言う。


「では何か質問は有りますか? イチロー」


「質問というか魔力を犯罪者から消す話、天使ごとに対応違うとか、意外と大雑把なんだなーって思った」


 呆れた顔でポン子は言ってくる


「そりゃそうですよ、神や天使が何年生きてると思ってるんですか、イチローだって千年万年生きてみれば判りますって、細かい事に拘らず、だいたいとか、そんな感じでとか、こうフワっとした部分が合って居れば多少の事は気にしないようになりますって」


 ポン子は続ける。


「一人を助ける為に大陸を海に沈め、残虐な王族を屠るほふる為に都市を丸ごと焼き尽くす、そんな事もあるでしょうし、それに魔法世界なんですよ~? 科学や数式みたいな必ず同じ結果になる世界じゃないんですから」


 大雑把の範囲が大陸級だった。


「俺はそんなに長く生きてられんっての、てかポン子はすごい年齢って事か?」


「ああいえ、私の記憶は七十年くらいですかね、前大戦でやられちゃったらしいので」


 どうしよう説明をして貰うたびに、新しい疑問が生まれるんだが。


 ポン子の話は続き。


「人間は細かすぎるんですよー、ほら英雄や有名人の魂とか神々が取り合うでしょう?」


 初耳です。


「そんな中うちの神様がゲットした魂から天使を生み出したらしいんですが、元が芸術家なのか学者なのか、理詰めで考えようとしては挫折してたらしいですよ? 1+1の答えが〈コンニチワ〉になるような世界ですからね~、まぁ最後には女性型天使のお尻をスケッチするのが趣味の気の良い天使になったそうですけど」


「それが元英雄なのか?」


「えっと確か~、ウインチさんとか何とか?」


 何を巻き上げているんだろう、スカートかな?


「魔法がそんなに大雑把なら、バグの修正とかデスマーチとかIT系の言葉を使うのは違和感が有るんだが」


「それは、本質は違うけど表面上が似てるので説明に利用してるんですよ、数千年前とか大変だったらしいですよ? 私は覚えてないですが」


 何かを思い出しながら話すポン子。


「聞いた話ですが、昔の人類は神や天使の言葉を曲解して、百八十度別の事を仕出かし、そのくせ、これは神のご意思だーとか、そんなのばっかりで疲れたわ~って大天使様が言ってました、それに比べて今の日本は色々な知識があって説明しやすくていいですよね~」


 そんな物なのかね?


「私がする説明も表面的な事を、だいたいふわっ~と理解すれば良いと思います、本質部分を正確に天使の圧縮思念でイチローの頭に流し込むと」


 そこでポン子は言葉を止めた。


「と?」


「エチケット袋が百個以上必要になりますね~」


「あ、はい、大雑把な説明でお願いします、ポン子さん」


「では次いきましょー、質問をどうぞ~イチロー」


「えーと気になった事っていうとポン子の記憶が七十年とか、神様たちとか神々って事は神は一杯存在するの? ってあたりかなぁ」


 うーんそうですね~、とポン子は考えながら話す。


「私達のようなリソースを自分の力に出来るような存在は、基本的にやられても復活しますね~、まぁ記憶はほとんど無くなってしまうので、同じ存在と言えるかは知りませんが、自分の記憶をどこかに記録しておくとかやってる天使もいるみたいですよ」


「ポン子は記録しておかないのか?」


「イチローの遺伝子から新たに誕生させた子供にイチローの伝記が書いてある書物を読ませたら、それはイチローに成りますか?」


 真剣な顔で言ったポン子。


「いや、それは俺に似た別の人間だな」


 ポン子の顔はすぐにのほほん顔に戻った、安心する。


「ですよね、前の私も今の私も同じような考えなんでしょうね~、あ、でもそれなら性格が似てるという事だし、何か深層の部分は継承しているという事なのでしょうかね」


 正直どうでもいいです~と気軽に答えるポン子、大雑把だなぁ。


「神々についてですが~、私達の主である神様以外にも沢山、そうですね、人間に伝わっている神話やらお話やらに出てくる存在はほとんど居ると思ってください」


「それって妖怪とか悪魔とか八百万の神とかも?」


「ええ、でもまぁ人に伝わるお話が、私達の存在を模して造られたファンタジー小説みたいな物なんですけどね~、つまり間違いだらけのお話って事です、表面上は似てるのでふわっとで行きましょう!」


「了解ふわっと理解しました、エチケット袋は使いたくないしな、でもポン子の話を聞くに、今の地上はずいぶん天使が幅を利かせてる感じもするんだが」


「悪魔やら何やら負の感情をリソースにしてる勢力が地上のシェアの大半を握っていたんですが、そこを前大戦で奪い取ったのが私達天使やら正の感情を力にする勢力なんですよ~」


 お、おおー、聖と邪が戦う一大戦争が思い浮かんだ。


「今は地上で天使が好き勝手出来ますけど、でもまぁ人間は欲望に弱いからすぐ転ぶんですよねぇ……、悪魔とかもしょっちゅう営業かけてくるらしいですし、負けたんだから百年くらい自分の領域で大人しくしてればいいのに~と思っちゃいますね~」


 戦争のイメージがライバル会社の営業同士の戦いに成った。


「ま、そこでダンジョンと祝福の石板ですよ」


「よくわからん」


「イチローはダンジョンが出来てから、日本でガスを使うという文化や技術が消えたのはご存じですか?」


 あー学校で習った事あるなそれ。


「昔の日本ではガスをエネルギーとして使っていたってのは知ってる、それが魔道具に置き換わったとか、それがどうかしたのか?」


「まずはガスが魔道具に置き換わり、そして次に電力、最後は水道に下水、そしてダンジョン産の美味しい魔力を宿した食材で日本を満たします、どうなりますか?」


「便利な世の中で美味しい飯が食えるな、ポン子も飯が美味いのは嬉しいだろ?」


 良い事じゃぁないか。


「魔道具は魔力が無いと起動出来ません、魔力食材は魔力を持った人間でないと美味しく感じません、そして神の祝福を利用して人に恐怖や絶望を与える様な人間からは魔力を剥奪しています、どうなりますか?」


 えっと……。


「そ、それって――」

「なんちゃって~ドッキリ大成功~! ドンドンパフ~パフ、ま、冗談ですってば、イチローをちょっとビックリさせようとしただけですよ、人類の生活を便利に快適にして幸せを感じて貰おう、ただそれだけですよ」


 ちょっと昔読んだミステリー漫画に釣られましたかね、怖がらせてごめんなさい~、ポン子は笑いながらそう言っている。


 ま、まぁそうだよな。


「そ、そうだよなー、びっくりさせないでくれよポン子」


「ええ、神様は人間の愚かさすら愛しているそうですよ、シェアの奪いあいも寄せては返す波のごとく、昔から永遠と繰り返している事らしいですしね~」


「演技力あるからドッキリしたわ、あーそれじゃぁ人類の生活を便利にって言うけども、石板でDコインを対価に買える素材やら低級ポーションやらの値段が変わるのは、やっぱ探索者の買取量によって変わるのか? 学者さんがTVで予想してたんだが」


「そうですね、探索者等がダンジョンから採取して石板で売った物は在庫になりまして、その在庫分は売った値段とほぼ同じで買えます、回復用のコモンやアンコモンポーションは無限に買えますけど、在庫分の値段よりそこそこ高く設定してるはずですね~」


 ダンジョンから資源が取れて、石板からも資源が買えるから、資源輸入がかなり減ったとか学校で聞いたっけか。


「他にもダンジョン階層転移用アイテムや、服や紙に使う繊維植物や木材や鉱石やら生活に必要そうな資源なんかも無限ですが、無限分はちょっと高めに設定してますね、まぁダンジョンに取りにいけば済む話ですし、スクロールとかは買い取った在庫分だけです、甘やかし過ぎても堕落しますし」


 日本管区内の石板なら全部情報連結してますので、何処で売っても在庫は一か所に纏められる感じですかね~、ポン子はそう続けた。


「管区?」


「国というか文化圏ごとに管理区域が分割してるんです、日本管区とか北米管区とか他色々ですね~、文化や常識も違えば管理の仕方も変わってきますから、石板の売買が通じるのは管区が同じである必要がありますよ」


 俺が東京のダンジョン特区で売った物が沖縄の石板で買えたりするのかな?


「俺が小学生の頃かな、石板にハイレアポーションが在庫にいくつかあったとかで、すごい騒ぎになってた事があったなぁ、高く売れるので探索者は儲かるみたいな話をしてたし、海外のバイヤーがしばらく日本に居たとかもTVでやってたな」


「イチロー、地上だとポーションの扱いってどんな感じになってるんですか?」


「えーとコモンが軽い切り傷が治るし、飲めば二日酔いくらいなら即治る、アンコモンが深めの傷が治って手術なんかにも使うとか? 飲むと体調がよくなるとかで、お金持ちはアンコモンを毎日一本飲んだりしてるそうだぜ」


「レア以上の効能の話は?」


 ポン子が聞き返すも。


「TVとかでは詳しい情報は出てこないんだよなぁ、買取が高額とかって話は流れるんだけど、まぁ施設の共用TVなんて子供らがアニメとか見てるから、ニュースとかあんま見ないしな、あ、後ポーションやスキルスクロールなんかは協会の買取の方がお得っぽいんで石板で売る人はほとんど居ないんじゃないかな? ハイレアの騒ぎの時もそこが不思議だったとか」


 買取はしてる流通はしてる効能の情報は無しで高額で煽る、と……つぶやくポン子。


「どうしたんだポン子」


「い~え~、人類は本当に愚かで神の愛はそんな者達を包んでいるんだなと思っただけですよ、そろそろ遅い時間だし一旦終わりにして寝ませんか?」


 愚か? 魔力剥奪される人の話かね?


「もうそんな時間か~、明日もスライムダンジョンで頑張ろうなポン子」


「ええ、続きは明日狩りをしながらにでもしましょうかイチロー」


「おやすみポン子」

「おやすみなさいイチロー」


 ポン子はロフトに飛んで行き、俺は布団を敷いて毛布を被る。








「あれ? 石板の販売リスト見れば、安めの魔力を帯びた枝の在庫くらいあったのでは~?」


 そんなポン子の声が聞こえてきたが、俺は寝たふりしてやりすごすのであった。


 羽毛の掛布団とか欲しいなぁ。


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