第13話 棒と資源と俺丼
丁度3時を過ぎたくらいに家にたどり着いた。
「ただいまー」
「おかえりなさ~い、思ったより早かったんですね」
クッションに埋まりながらポン子は手を振っている。
俺は部屋に入り施設長の山登り棒を隅っこに転がし。
「用事は早く済んだんでな、おやつにお菓子買ってきたぞー、それと掃除はもう終わったのか?」
とコンビニの袋を掲げてみせる。
ポン子は、ばっちし終わってベットも引っ越し済みです~と言いながら、浮遊し袋の周りをグルグル回っている。
袋をテーブルに置くと、おやつですか~? とポン子も一緒にテーブルに降りる。
「何がいいか判らなかったからな、色々なお菓子が少しづつ小袋に入った、お得詰め合わせパックってのにしといた、なんでも30種類あると書いてあるな」
好きに食べていいぞと言ってやる。
ポン子はお得パックの袋を開け、様々なお菓子の入った沢山の小袋を、魔法で自身の周りに回転させながら浮かべだした。
ここはまるでパラダイスです~と呟き、うっとりとしたまなざし、まるで恋する乙女の様な顔でそれを見ている。
お前が元居た場所は違うのだろうか?
「いただきま~す」
そういってルーレットで選ぶがごとく、目の前に回って来た袋を取り、開けて食べ始めた。
「それで、プチどら焼きは中々です、どんな武器を、チョコの中のナッツがいいですねぇ、仕入れて、しょっぱい煎餅が口の中をリセットさせます~、来たんですか?」
「食べるか話すかどっちかにしようぜ?」
じゃぁ食べます~とモグモグタイム、次々と消えていくお菓子。
「イチローにもあげますね」
と三袋くれた、優しいな。
煮干しと干しコンブと梅干しだった。
星三つってか、何がやねん! 心の中でボケと突っ込みを入れておく。
これもお菓子に入るのだろうか? だが思ったより美味しい、気に入ったのでまた買ってこよう。
食べ終わって、まんぞくです~とお腹をさすっているポン子に持ち帰った施設長の山登り棒を見せる。
「施設長の山登り棒だ、軽さのわりに堅そうで微妙にしなりもあって良い感じなんだよなこれ」
施設長の山登り棒ですか、言いにくいですね棒でいいですか? と聞きながら棒を触るポン子。
俺も長いと思ってたんだ、棒にしよう。
「魔力を帯びていますね~、ダンジョン産の素材を頂いたんですか?、価値は低そうですが」
ポン子は興味なさげに言った。
「え? 魔力? 本当に?」
「ちょこっとですけどね、妖精に鑑定の魔法なんてありませんが、魔力を感じる事くらいは出来ます、ダンジョンの中とか魔力だらけなんで探索の役には立たない能力ですね」
「ダンジョン産の素材って事は、樹木系の魔物とかか」
「い~え~魔力も弱いし、たぶん魔物が居るフィールドに生えている木から取れる物ではないかな~と思います」
これくらいならダンジョン低階層の木からでも取れますよ~、ダンジョンには色々なタイプがあるのはご存じですよね~? と首を傾げて聞いてくるポン子。
「ああ、草原や森、砂漠に海に川、空中や墓場とか、永遠と続く和室とか、あーあと重力方向が一定じゃない3D型ダンジョンなんてのも聞いた事あるな」
洞窟タイプや火山や他にも色々ありますね~と、補足したポン子は続ける。
「自然を模したダンジョンだけに限らないのですが~、生えてる木も草も土も水もなんでも採取出来るものは資源として使えるようになっています、そしてなんとなんと! 一定時間で復活するという優しさ付き! こ~れはお買い得です!」
急に通販番組が始まった。
「しかも今なら資源型ダンジョンの中には魔物を出さない階もあるというサービスも、もれなくついてきます」
「え~? そんな美味い話し本当にあるのかなー? ポン子さん何か裏があるんじゃないですか?」
「はいイチローさん、確かに魔物が出ない階の資源は、お手軽な分だけ魔力付与がされていない普通の商品です、ですが! 復活サイクルが超速になるという神界の特許を利用した画期的な商品になっております」
「なるほど、それは良いですねーポン子さん、そしてそんな商品が今なら~?」
「はい、なんとなんと、この説明を聞いてから一時間以内に行くと、労働量が倍になるというおまけつき! これは見逃せませんね~」
「なるほど二倍働けば二倍収穫できる、と……なんでやねーん、もうあんたとはやってられんわ」
「てへぺろ~、ズビシッ!」
舌をちょろっと出し、右手をピースにして右目を挟むような、あざと可愛いポーズを取っていた、合体技か。
あ、〈ズビシッ〉ってそんなポーズだったのね。
「材木とかを育ててた人達は競合で大変そうだなー」
「ダンジョンで収穫する仕事に変えるだけで済むのでは? 育てる管理とか要らなくなりますし」
「それもそうか、ダンジョンの中には探索資格だけでなく協会や国に申請がいる所とかあるそうで、面倒だから即行けて安全そうなスライムダンジョンに決めてたわ、資源型のも申請が必要なダンジョンなのかもな」
イチローの過去って色々な事に興味なさげな感じですよね~、とポン子がぼやく。
「そういや学校で、ダンジョンが出来てから、世界での資源獲得戦争が減少したとか習った気がする」
「はい、元々ダンジョンには、資源を巡った醜い争いを悲しんだ神様達が、愛し子に救いの手を差し伸べる、という一面もあるんですよ」
「つまりこの棒は」
「魔物が出る階層のダンジョンに生えてる木の枝でしょうかね? 気になるなら石板に放り込んでみればいいのでは~、ダンジョン内で取れる物は大抵受け付けてくれますし、名称と変換ポイントで価値が判ると思いますよ~?」
人からの貰いものを鑑定の為とはいえ売りに出すのはちょっとなぁ……。
「魔力が宿ってると違う物なのかな?」
「魔力を持った素材は使用者の魔力を通しますからね~、魔力も何もない素材よりかはましかと、ノーマルスライムの消化液にも多少は耐えるんじゃないですか?」
イチローの魔力じゃたかが知れてますがーと続けるポン子。
「それはいいな!」
「何です急に大きな声だして」
「いや俺が使ってた武器は毎回少しづつ溶かされて、補修が面倒だったって話は前に狩りをしながらしただろう? 一日で駄目になるとかそういう話ではないんだけど」
「あ~、あの話は、そういう縛りプレイをしてるんだと思ってました」
「俺は動画投稿者かっ!? さすがに知ってたら魔力が宿った武器に変えてたわい」
踊る変態スレイヤーですもんそれくらいするかなって、とポン子が何やら言っている。
一か所誤字があるんだが。
「毎回テープを張り直したり、傘に穴があいたり、溶かされる前提でパターに棘をつけたり、重りを巻いたり、今までの苦労は……」
まったく同情をしてないような目でこちらを見ているポン子。
「イチロー」
「なんだポン子?」
「私ねハジタンQ&A集にこんな質問があったのを覚えてるの『魔物と戦うにはどんな武器がいいでしょうか?』って、まぁ冊子には公式サイトを見てくださいって答えだったんですけど、その答えの中に魔力の宿った物の話とか魔物の居るフィールドで木の枝なんかを採取出来るとかありそうだと思うのは私だけかなぁ?」
「クッ、協会の罠だったかぁ」
「探索者資格試験の時とかに判らないものですか? ほらビデオとか試験の内容とか実技講習とかの時に」
「試験は道徳に関する物が多いし、ビデオは税制や公的援助の話とか武器は予備を持ちましょうねって話がちょろっと、実技は武器の振り方とかだったかなぁ、つまり、魔力の話とかはまったく無かったな!」
「まったくもって使えないですね~」
「ほんと協会は手抜き仕事が多いよな~」
「いえ、使えないのはどっちもです」
あれ? デジャビュ?
「施設長には感謝しないとなー、しかしなんで今回ダンジョン産の物なんだろな? いつもは廃棄趣味道具なのに」
「魔物が居るとはいえ低階層でも取れるんですから、普通の新人探索者は最初に適当な武器でもあればすぐゲット出来ると思いますし~、どこぞのイチローは二年も魔力無し装備を使ってて心配したんじゃないですか?」
どこぞの誰かでは無く、普通に名前を言ってますよポン子さん。
「その新人探索者も、木の枝なんてすぐ卒業して魔力を宿した剣やら槍に変えるでしょうし、経歴二年で木の枝を装備して探索する者、ふふっ、イチローは物語の主人公にはなれそうにありませんね~」
「へいへい、どうせ俺はイモムチローですよー、いつか魔力の宿った格好いい剣とか買ってみせるからな!」
そう宣言をしつつ俺は。
「あーんんっ、それにしてもあれだな、やっぱ情報は大事だな」
やっと実感を持ちましたか~と呆れるポン子。
「情報収集用のモバ端を買う為に金を貯めるのがいいかも?」
「それがいいかもですね~」
「それなら食事代も節約して早めに――」
「ちょっと待って下さいイチロー」
俺の言葉を遮ってポン子、目の前に浮かんでくるなり、まくし立てた。
「よく考えたら私は天使、ダンジョンを制作した側、魔力やスキルについては協会とやらの知識より優れていると言ってよいでしょう」
なるほど確かに、よく考えないと忘れてるっぽいが。
そしてポン子は、まぁ私はスキルテスターがメインだったんで細かい所はあれですが、とゴニョゴニョ言っている。
「この地上世界のルールや法律なんかは判りませんが、ダンジョンや魔力等については教える事が出来ます、まずは私に聞きましょう、ご飯を削るのは後回しにしましょう、そうしましょう」
思惑が駄々洩れだが、乗っておいてやろう別に急ぐ必要もない、のんびり生きていけりゃいいしな。
「つまりポンちゃん先生の復活だな?」
「あれは顔が疲れるんですよねぇ、普通にやりませんか?」
「残念、ポンちゃん先生好きだったんだがなぁ」
「そうなんですか? イチローがやりたいならやりましょうかね~」
と何か考え込むポン子。
「前回の俺はクラスに一人はいるお調子者って感じでやったが次はどんな生徒キャラにしようかなー」
うーんと何か悩んでいたポン子が顔を上げて言う。
「じゃぁ『教えて! ポンちゃん先生』と『ポンちゃん先生の放課後補習授業』どっちがいいですか?」
なんでだろう、後ろのがすごくエチエチに感じる、俺の心が汚れているのだろうか。
「よく判らんが、悩んでるなら両方混ぜたらどうだ?」
「え、前半のは子供向けで、後半のはレディースコミックをイメージしてたんですが、混ぜたらカオスに成りませんか?」
ポン子の心も汚れていたらしい、それでいいのか天使。
「まぁ何にせよ授業は夕飯の後だな、時間もあれだし食べる物買いにいこうぜ」
窓の外を見ると、ずいぶんと日が落ちかけていた。
「あ、じゃぁ私コンビニより遠いですけど、十字路の角にある、お弁当専門店の俺にまかせて丼と恋よ屋さんの〈特盛から揚げ弁当〉と〈超デカ豚勝弁当〉の二つを希望します」
長いから俺丼屋と言いませんか?
「肉ばっかだな、野菜もちゃんと食えよ……」
「え? 野菜もいいんですか、じゃぁ〈ヘルシー野菜天丼〉追加です~」
わひょ~いと声を上げて部屋を飛び回るポン子に、そういう意味じゃねぇとは言えず。
「まぁいいか、俺は〈厚切りベーコン&出汁巻き卵弁当〉にでもするか」
「それも美味しそうですね、おかず交換しようね?」
ポン子は楽しそうだ。
立ち上がり玄関に向かうと、俺の頭にポン子が着尻した。
「じゃまぁ買い物に行くかね」
「行きましょ~」
今日の食費は予算オーバーしそうだな、と心の中で笑う。
弁当屋に向けて歩いている途中ポン子は問いかけてきた。
「イチロー、この国の人口の推移とか学校で習ってたりしますか~?」
「えーと確かダンジョンが出来てからかなり右肩上がりらしいぜ、ほらポーションとか治癒魔法スキルとかあるだろ?」
ありがとうございます、そう言ってポン子は。
「ねぇイチロー、探索はゆっくりやっていきましょう、あてになるか判らない協会の情報だけに頼らず自分達で少しづつ確かめながら」
「ん? ああそうだな」
よく判らん俺は、とりあえずそう答えておいた。
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