第11話 施設にて

 ふっはっと軽く息を吐きながら、ジョギングで走る俺。


 留守番をポン子にまかせて古巣の施設に向かっている、走りながら服がツナギしか無いのはまずいかなぁ、とか考えながら。


 幸いというか、ダンジョンが沢山ある場所に探索者団地が建てられるので、周りは探索者であろう人もかなり歩いている、つなぎ姿は目立ちはしない。


 現代がすでにファンタジーともいえるが、SFやファンタジーそのものという恰好をしている人は一杯いる。


 魔法が存在しない頃からあったファンタジー系アニメとか漫画のジャンルは今も人気で、真似をしてる人も多い。


 あ、あの女性は子供達と見た魔女っ子アニメ物の恰好だ、再限度たっかいなぁ。


 装備の効果がきっちりとあるなら見た目に遊びを入れるのが、最近の流行りだとか。


 つなぎの俺がそこに混じるのは逆の意味で恥ずかしい、他のダンジョンに行くならダンジョン産の素材を使った革鎧とか着るべきだろうか。


 スライムダンジョンに来るのは新人がほとんどで、装備で遊ぶなんて余裕はまだ無いから普通の作業着が多いんだよな、たまに学校のジャージの奴とかおるし。


 パーティ組んでりゃ死ぬなんて事もないダンジョンだし、くっ……、あいつらみんな二人以上のパーティだったな……、自分の思考で攻撃を受けてしまった。


 そうしてダンジョン特区を離れ、周りが普通の恰好な人ばかりになってきた頃、施設が見えてきた。


 補修だらけの、ただ敷地面積だけは広い施設、妙に懐かしく感じる、まだ二年前の事なのにな。


 管理棟へ行き、出入口付近の受付兼事務室に居る昔なじみの職員さんに元気よく挨拶をする。


 少しびっくりしていたが、快く中に入る許可を頂き、許可証を首から下げ、施設長の部屋に向かう。


「コンコンコン、こんにちわ~」


 ノックを言いドアを開け施設長室に入っていく。


「だれだー? ん、おお! 一郎か久しぶりだな元気にしてたか?」


 壮年の背の高そうな男が、がっしりした体格を窮屈そうに椅子に収めて座り、何やら書類を見ていた、まるで偉い人の執務室のようだ。


「お久しぶりです施設長、また施設長が無駄に初めては辞めて放置してる趣味の道具を貰いにきました、出来ればもう一回釣りを始めてみませんか?」


 苦笑いしながら施設長は言う。


「おいおい、いきなりだな、だが残念ながら今の趣味は卓球だ」


「相変わらず飽きっぽいですよねぇ施設長は、ピンポン玉じゃぁスライム倒せないかぁ残念、じゃまぁ施設長が勝手に趣味用倉庫にしてる部屋漁ってきていいですか?」


「あーいやすまん、あれやこれや仕舞っていたものがドアの外に溢れ出した事があってなぁ、さすがに職員に怒られて色々と処分しちまった所なんだよ、今あるのは卓球の道具とトランポリンと水泳用の俺の水着くらいしかないな」


 トランポリンでスライムと一緒に飛び跳ねながらスマッシュで倒すイメージをしてみたが。


 だめそうだ、水着は想像すらしたくない。


 いや、横回転のサーブならワンチャン……ない、な。


「次から次へと趣味を変えるから溢れるんですよ」


 まぁ次々と変えるのも俺の趣味だしなと、ぼやきながら施設長は。


「イチローお前元気を取り戻したみたいだな、急に大人しくなって会話も単語しか返さない、単語マシーンになったのは中三の夏だったよな」


「え? あ、はい」


 そーいやそんな感じだったっけか、言われないと思い出せないって不便だなぁ。


「まぁな家族みたいに、本当の妹みたいにお前に懐いていた子が、養子に行ったあげく、養子先の本家を名乗るアホウが二度と会う事は禁止するなんて直接お前に言って来たら、そりゃショックは受けるとは思うんだが」


 施設長は立ち上がって近づき、俺の頭をがっしり掴みながら揺らしてきた。


「それにしたって卒業まで落ち込んでて、すぐ探索者として出ていっちまうとか、みんな心配していたんだぞ、施設の人間は成人する16歳の誕生日前まで居てもよかったんだぜ?」


 180㎝を超える施設長の大きな手で頭を撫でられる、いや揺らされるのは何だかすごく懐かしくて面映ゆかった。


「過去の俺は世界なんてどうでもいい、ただ薄っすらと安全に宵越しの金を持たず生きていく、そんな……、いや、まぁ中二病にかかっていたとでも思ってください」


「お、おうそうか、まぁ今が元気ならいいんだ、あれは第三次中二病だったのかぁ、設定が暗いから心配しちまっただろーに」


 だいさんじ?


「武器に使えそうな物を探しにきたんだろ?、ちょっとそこのソファーにでも座って待ってろ」


 施設長は部屋から出ていく、俺は言われた通りソファーに尻を埋めて。


「あ、大惨事?」


 首をひねりながら呟いた。






 ほどなくして帰ってきた施設長は一本の棒を持っていた、まるで山登――

「これは俺の趣味だった山登りとかにあると丁度よかった物なんだが、お前にやるよ、結構硬いし武器になると思うんだが」


 やっぱり山登り用なんですね、ただの棒だな、手首を通すヒモとかつけるといいですよ施設長。


「ちびのお前の身長に合わせてちょっと短く切ってみた、持ってみろ」


 ちびじゃないです、167㎝はあるはずです、貴方が無駄に大きいんですー、まだまだ成長期なんです。


 棒を受け取ってみた、長さは胸くらいまでかな、軽いので心許ないがゴンゴンと床を叩いてみると詰まった音が帰ってくる。


 表面もなにか艶がある気がする、防水加工? 山登り用とか、ちゃんとした製品だと硬いしっかりした木を使ってそうだし、中々いいかもしれない、これはマークⅠに近いか。


「よさそうな棒なので貰っちゃいますね、たしかえっと『もつ刀、払いは泣く泣く、床つく老人』でしたっけ?」


「いやまったく合ってないな、槍がどうして老人になる、まぁちょっと使ってみろよ、それで今日は子供らに会っていくか? まぁ養子にいっちまったのも多いから、お前を知ってるのも少なくなったけどな」


「それは……みんなに家族が出来てよかったじゃないですか」


 実家のように思っていた場所だったが、少しづつ自分の匂いが消えている事に気づくのは少し寂しい。


「山登り棒、有難う御座います、今日は帰りますね、施設長もお元気で」


「おう! またこいよー、元気でな」


 施設長の返事を受けながら、頭を下げ扉の外へ、建物入口側の受付から丁度職員さんが出てくる所だったので、許可証を返してから外にでる。


 今は無性にポン子に会って話がしたい、来た時よりも少しだけ早く駆けていく。


 急げばお昼……はとっくに食べてるか、だが三時のオヤツには間に合うだろう、何処か途中で、あいつが喜びそうなお菓子でも買って帰るとしよう。





 早く〈ただいま〉と言って家に入りたいから。

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