第7話【閑話】神界1
side 神界
窓から暖かい光が差し込む入口に扉の無いシンプルな部屋だった。
窓を横に柔らかそうなソファーがテーブルを挟んで対面上に置いてある、テーブルにはお茶を入れるであろうカップが二つに、紅茶を入れるための各種セット、お皿に乗った様々な形のクッキー。
ソファーに座った一人の大天使が、自身の前に魔法のモニターを浮かべ操作をしている。
もう片方のソファーに座った天使が語り掛ける。
「彼女の様子見ですか?」
「一応確認しておこうと思ってね~、うん、ダンジョンを丁度出た所みたい、仲良さげにしてるし大丈夫みたいだわ」
そのまましばらく魔法モニターを操作したり見ていたりする大天使だったが、急に笑顔を浮かべたり不機嫌そうな顔になったりと忙しい。
「そういえば大天使様、彼女は出向扱いになるんでしたよね?」
大天使は魔法モニターから目を離し天使の方を見ながら答える。
「ええそうね、仕事にしておけば私もフォローしやすいし、やらかしで減った分のリソース返済も必要だしね、あの子の私物を全部処分しても全然足りなかったから」
「処分って、大天使様が全部相場より高めのリソースで買い取ってあげたんでしょう? しかも全部大事に仕舞ってある事、私知ってますよ?」
「だってせっかく揃えた漫画やアニメコレクションが無くなったら、かわいそうじゃないの、勿論タダで返したりしないわよ? 後でちゃんと相場で買い戻してもらいます」
「お優しいんですね大天使様は」
と眩しい物を見るような目で大天使を見る天使。
もじもじと居心地が悪そうに身じろぎながら大天使は口を開く。
「そんな事ないわよ普通よ普通、そ、それよりもあれよね、あの子も馬鹿よねー、いくらダンジョン実装前のデスマーチが終わりかけで朦朧としてたからって、自分のお小遣いリソースと勘違いして、テストスキル削除用のリソースでお菓子やら何やら爆買いしちゃうんだから、あの子のリソース口座なんていつもスカンピンのはずなのにね~、なんでも好きな物が好きなだけ買えるなんてこれは夢だと思ったらしいわよ、夢なら好きに買い物できるーってはっちゃけたらしいわ」
「それはなんとも彼女らしい話ですね、正気に戻った後に雷お化けのお説教を恐れて隠ぺい工作を図る部分も含めてですけど」
「まったくほんとよね~、すぐ正直に白状しておけば、ちょ~っと怒るだけで済んだのに、ここまで大事になるなんてある意味才能よね、雷の一発や二発落とされた所で天使なんだし対して痛くも無いでしょうに、ん? 雷お化け?」
「こほんっ……前大戦を終わらせた英傑の一人、
「その二つ名可愛くないから好きじゃないのよね~、あの神界ミント大増殖事件は後始末大変だったわね……、確かに私はミントティー好きだけども! よかれと思って動いた結果が必ずといってよい程事件になるってすごいわよね、それにあの子ってば何度も何度も雷を食らっているせいか、耐性がすごい上がってるみたいなのよね、あんまりにケロっとしてるんで悔しいから少しづつ威力を上げてるんだけども、最近じゃ大戦時よりも力を籠めないといけなくて困ってるわ」
「そうですね、まさか神界の空気に触れて変異したミント達があんな強敵に――」
「あ、ちょっと待って」
魔法モニターの何かに気づいた大天使は手を前に出し天使の言を止め、何やら操作をし始めた。
さすがにレアで四属性持ちは目立っちゃうわよねぇ、普通は一属性だし、あの子も正直に言う必要ないのに、まったくもう、他の場所で見れる情報をちょちょいと変更してっと。
ぶつぶつと独り言を言いながら作業をする大天使。
その作業内容を察しながら天使は語り掛ける。
「地上の情報操作ですか?」
「そ、あの子がちょっと口を滑らして余計な事をね、はいこれで終了っと」
「彼女に構いすぎて地上の者に気づかれないように注意して下さいね、不審を持たれて売り上げが落ちると地上界の活動資金にも触りがありますし」
「〈情報制御装置〉なんて商品名の方がよっぽど不審だと思うのは私だけかしら?」
「意外と思い至らない物なのですよ」
「いざとなったらクロウ資金だってあるのだし大丈夫大丈夫」
「あちらは北米管区で管轄が違うので、大義名分が無いと予算請求しずらいんですよ、地上産の美味しいお茶が買いたいから予算下さいって言うのですか? 地上産の品物が手に入らなくなってリソースの使い道がスキル使用や自身の強化だけになったら、最悪ストライキが起きますからね、バグ取りと修正一人でやる羽目になりますよ」
「うっ、それは確かにそうね、やりすぎないように気をつけるわ」
「天使達もお給料のリソースの使い道は毎回ワクワクしながら決めてるみたいですし、彼女にも少しあげたい所ですよね、食費の足しという理由なら少しくらいは心情的に許されるのでは?」
「うーんそうねぇ、返済もあるけど出向のお給料分から少しくらいなら、まぁいいかなぁ……」
天上を見上げ考え込む大天使、しかし何かを思い出し顔を戻す。
「ねぇ守護天使は一生の契約だった、つまり彼とは一蓮托生という事よね、一心同体も同然、あの子の苦労を彼も背負いこみ、彼の苦労をあの子も背負う、そうあるべきだわ、ならあの子の消費分も彼が出すべきだわね、なのであの子のお給料リソースは全部返済に回します、ええ、ええ別にね〈怒りんぼ〉とか〈おかん〉とか言われた事に怒っている訳じゃ無いのよ、あの子の消費量に驚いてしまえーなんてこれっぽっちも無いんだから、それにほら彼の塞いだ穴に残った少しの隙間を埋めるのにいくつかスキルを選ばせる権利をあげたでしょう? スキルがあれば探索者としてバンバン稼げるから大丈夫よ、始まりは貧乏から、そして二人手を取り合い成功への階段を駆け上がって行く、うーんこれは絆が深まりそうね! もしかしたら恋人になんて事も! いやーもう私ってば完璧な理屈、はいこの件の処置に関しては決定しました! もう大天使の名にかけて変えませーん」
「大天使様がそうおっしゃるのなら否やとは言いませんが……彼女、スキルの事忘れてないといいですね」
結婚式は神界でかしら、等とキャイキャイ騒いでいた大天使は動きと口をとめ、まじまじと天使を見る、そしてお茶を飲もうとするがすでに空だと気づきテーブルに置く。
天使はそんな空いたカップにお代わりのお茶を無言で注ぐ。
大天使も何も言わずにお代わりのお茶を飲み、天使も自分のカップでお茶を飲み、そしてクッキーをかじる。
「ま、その時はそれで……それが運命だったという事よね、隙間があっても少し弱くなるだけで死ぬ訳じゃないし、探索者やってればそのうち適当なスクロール使ってスキル覚えれば勝手に埋まるでしょ」
「天使として運命という言葉には逆らえないですね、これからも二人を暖かく見守りましょう、そういえば彼女って日本管区内で開催したデザート大食い大会の準優勝者でしたよね……彼のお財布にダイレクトアタック」
唐突に訳のわからない事を言う天使。
「ふ、それは予想済みよ、魔法カードオープン『プレイヤーにスキル付与』を発動」
しかし、しっかりそれに答える大天使。
「こちらも魔法カード『忘却』を発動、相手の魔法カードをフィールドから除外します」
「く、負けたかって何なのよこれ、まぁいいや、大食い大会の優勝者は貴方だったよね」
「このクッキー美味しいですよね、何処の商品ですか?」
「貴方が昔おすすめしてくれた商品よ」
「……」
「……」
神界でのお茶会は続く。
扉の無い部屋の前、廊下を歩く天使が二人、その片方が口を開く。
「大天使様と救護室長ってほんっと仲いいわよねー」
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