第6話 おばちゃん

 ◇◇◇

 注) おばちゃんの長い台詞は読まなくても大丈夫です。

    後に続く主人公の返事に内容が要約されています

 ◇◇◇


 以下本文

 ――



「はぁ?」


 六日ってどういう事だ、いや言わんとしてる事は判るが理解したくない。

 それでもやっぱり聞かないといけないだろう。


「えっと、今日って何月何日ですか?」


 何をいってんだいとばかりに、おばちゃんは返す


「そんなの×月×日に決まっているでしょうに」


 あうち、やっぱりか……、どうやら俺は神界で何日も寝ていたらしい、そうだよなぁ神界とやらに呼び寄せる事態なのに一時間かそこらで治って、はいもう帰っていいですよーなんて。


 今日日そこらの病院だってもっと時間かかるわな、待ち時間とか、いやまぁ病院なんてガキの頃以来行った事ないからよく知らんけど。


「どうにもご心配? おかけしてしまったようで、その、ごめんなさい」


  ペコリと頭をちょっとだけ下げる、ポン子が落ちないように。


 さらに何か言いかけたおばちゃんだが目線を上にあげた、ポン子を見てるっぽい。


「あらあらあらあら、また可愛らしい妖精だねぇ~フェアリー妖精ってやつかい? 生で初めて見たわぁ~はー小さくてめんこいねぇ私も若い頃はこれくらい可愛かったもんだよ写真が残ってたら見せてあげるのに残念だわぁ妖精お嬢ちゃんこっちおいで飴ちゃんいる?」


 俺の中の記憶である俺がおばちゃんのエンジンが温まる前に早く換金して帰れと言ってるような気もするが、理由がどうにも判らない。


 おばちゃんとの過去の話の内容などは覚えているのだ。


 差し歯の話、同居している娘夫婦がケンカして居心地が悪い話、仲直りした娘夫婦がイチャイチャ甘々ラブラブで居心地が悪い話、内容は覚えているが実感がない。


 まるで誰かに記憶を薄く削られたかのような、どうにもむず痒い。


 ポン子が頭から滑り落ち、もらいます~~と返事をしながら、受付の台の上に飛び降り着地、そして両手を斜めにYの字に伸ばしフィニッシュポーズ。


 体操選手かな? とりあえず拍手をしておく。


 そして俺の頭に滑り台の属性が加わった。


 俺と一緒に拍手をしていたおばちゃんが、自前のバックであろうものを横の棚から取り出し、中に右手をいれ飴を掴みだして、受付の受け渡し口に置いてあるトレーの中にぶちまける。


 どうみても5個以上あるんだけど、ワーイと飛びつくポン子、大きい飴だとお前の口にすら入らなそうなんだが、舐められるのだろうか。


 がさがさと飴を物色しているポン子と楽しそうに会話をするおばちゃん。


 そう~ポン子ちゃんって言うのね~山田ちゃんがご主人なの? え?もう正式な主従契約を結んでいるの? じゃぁポン子ちゃんが正式な名前なのね、はぁレア度がRなの? それはすごいのねぇ~いつから契約したのかな? あらまぁついさっきなのね、じゃあまだまだヒヨッコパーティじゃない、え?最高の?ふふそうなのね、それはおばちゃん期待しちゃうわ~じゃぁ使える魔法は――。


 なごやかな会話をしているように見えるのだが、おばちゃんの右手が協会買取所御用達の情報制御装置、通称ハレレジとか魔道レジとか言われてるものを操作しているのが見える。


 あれって確か買取や販売は元よりアイテムの鑑定や事務手続きやデータ連結やらなんでも出来ちゃう魔法の道具ってキャッチフレーズで売りにだされてたような。


 たしかエンジェル印の〈ハレルヤ魔道具販売商会〉の〈情報制御装置〉だったかな? 商品名が味気ないので逆に覚えてる。


 日本の協会だけでなく色んな場所で使われてて公的機関のシェア率9割超えてるとかなんとか養護施設のTVで見た気がする。


 独占がどうの不正がどうのと解説者と専門家が会話をしてて。


 最終的には専門家が『じゃぁお前がこれよりも性能の高い魔道具を作ってシェアをぶち壊してみせろよ』とプロレスが始まったので。


 子供らの教育に悪いとチャンネルを回しちゃったんだよね。


 何故か男の子達からブーイングをされたので、君たち見るならちゃんとした興行のプロレスを見なさい素人のはダメ、と説教したんだったっけなぁ、なつかしい。


 ポン子ちゃんお話有難う楽しかったわ~、じゃぁおばさんちょっと山田ちゃんともお話あるからまた後でね~と、ポン子に向かって手をふっているおばちゃん。


 どうやら終わったようだ、ポン子はハーイと返事をしながら、選別したらしい顔が隠れるまで山盛りになった飴を腕に抱え込みながら、受付台の隅っこに向かって移動していく。


 前見えてるのか? それ。


 足元気を付けて落ちるなよ、ふとトレーを見ると、寂しそうなのど飴が一つ。


 手に握ったままだったコイン三枚と、ポケットの中のコモンポーションを取り出しトレーに置きつつ、その動きの中に紛れ込ませて、そっとのど飴を右ポケットに仕舞う。


 おばちゃんがこちらを見つつ口を開く。


「ほんとうに無事でよかったわよ山田ちゃん、おばちゃんすごーく心配してたんだからね!、んもーう5日前にここに来て未帰還リストがあることにびっくりしたんだから、最初はね何かの間違いかと思ったのよ? ほらここって十八時半には閉めちゃうでしょう? いつも十七時過ぎに帰ってくる山田ちゃんが来ないから心配はしつつ閉めたんだけどもうちで買取できなくても黒自販機はあるしゲートを通って普通に帰ったと思ってたのよー、そ、れ、が、次の日来てみれば未帰還の印が端末に出てくるし、なーにやってるのよあなたはーダンジョン内で泊まる時はちゃんと協会の受付でその事を言っておかないといけないでしょー! もう成人してる大人の17歳なんだからしっかりしなさいねよねぇ~、あ、飴ちゃんいる? 後数日遅かったら山田ちゃん貴方失踪認定されてる所だったんだから、そうなったら戸籍剥奪に情報削除されて例え後で戻ってきても元に戻すのがすごくすんごー-く大変なんだからね! さすがに罰則は無くてもダンジョンボランティアで駆り出されるわよ? あんなのボランティアの名を借りた搾取なんだから気をつけないと、ただでさえ山田ちゃんは公的児童養護施設の出身で上のやつらに軽視されるんだからなおさらよ? あ、飴ちゃんいる? ったく今の社会が誰のおかげで成り立ってるって思ってるのかしらあの上層部のハゲ共、なんでハゲもポーションで治っちゃうのよ! あんな奴ら全員ハゲたままでいいのに! 今度おばちゃんあいつらぶん殴ってやろうかしら、そうそう殴るといえば最近腰回りがちょっと重いからシェイプアップにヨガとシャドーボクシングしてるのよ、これが中々よくてねぇなんとウエストが2㎝も引き締まったのよぉ~、いやーもーほんとおばちゃんこれ以上美魔女になったら困っちゃうわね、飴ちゃんいる? ほんと端末で見た広告に嘘偽りなしだったわぁ~、あ端末といえばね山田ちゃんを見かけなくなってから今日まで心配はすれども私に何が出来るかなーって思ってたのよぉ でもほらスライムダンジョンで行方不明なんておかしいでしょう? 出てくるのはスライムだけで直進すれば次の階に行けちゃう超簡単なダンジョン、罠の報告もなければノーマルスライム以外の報告も無し、階層転移もタダじゃないから三百階くらいで調査が打ち切られたけど奥までずーーっとノーマルスライムのみだったっていうじゃない、そんな所から山田ちゃんが帰ってこなくなるわけないじゃない、あ、飴ちゃんいる? それでねこれはおかしい、何かおかしいなと思ってね、ダンジョンに何か変化が起きているんじゃないかとこうビビビッとおばちゃんの探偵センサーが反応したのよ、なので端末でずっと情報収集をしてたのね、ほらさっきも山田ちゃんが声をかけて来た時も端末操作してたでしょう? まぁ特に変わった事もなかったんだけどもねぇ、せいぜいが私の端末に出てくる広告がダンジョン食材を使ったお取り寄せグルメの紹介やらから、やれポーションはダイエットに効くだの高性能体重計だの〈私が痩せた百の理由〉だのの本の広告に変わったくらいだったのよ、本は買おうかどうか迷っちゃったわぁ、あ、飴ちゃんいる? そうそうそれでさっき山田ちゃんが声をかけてくれた時は誰かとおもっちゃったわね、いつもは〈買取〉とか〈あざす〉とか〈値段は?〉とか単語しか話さないのに、〈買取お願いしまーす〉だの〈買取額教えてくださいな〉なんて軽い言葉で語り掛けてくるから、新人さんが来たのかと思ったのにびっくりしちゃったわ、ふふ、三月も終わるし新人さんが来るのももうすぐだしね、なつかしいわね貴方が来た二年前の事は今でも思い出すわぁ不愛想でテープでぐるぐる巻いた妙な棒を持って毎日毎日スライムダンジョンに入っていくんだもの、ここのダンジョンなんて新人さんでも数回きたらもう他に行くっていうのに、飽きもせず通って、妙な棒から傘を持ち込んでみたりトゲトゲのついたゴルフのパターだの最近はバックパックから飛び出た釣り竿? あの子はダンジョンに何をしにいってるのかとほんと考えるだけで楽しいったら、あ、飴ちゃんいる? そしてドロップの買取額がぐんぐん上がっていって今じゃ一日一万円は軽く超えるでしょう? 内緒だけどここの日帰りの稼ぎでのトップは山田ちゃんなんだからね、そんな山田ちゃんが元気よく話しかけてきてくれるなんて、ふふーふ貴方が変わった理由に気づいてしまったのよーおばちゃんは! そこのってあら寝ちゃってるみたいねポン子ちゃん、まぁいいわポン子ちゃんに一目ぼれしたんでしょ! いーのいーの否定しなくてもおばちゃんは異種族とのラーーブィーにも寛容だから、ダンジョンでカードテイム出来る知性体と結婚する人だっているんだからフェアリーと人間なんて有りよ有り、子供はねぇほら貴方の後輩とかを養子にするとかあるじゃない? ようは幸せな家庭が築かれればいいのよ、もうまんたいもうまんたいよ! あ、飴ちゃんいる? ああそうそうポン子ちゃんはダンジョンの外にも連れ歩きたいだろうし知性あるフェアリー族ならここでもテイマー登録出来ちゃうのでしておくでしょ? もう情報入力は済んでるし後は探索者カードだけ頂戴? はい有難う、ピポパと登録完了っと、ついでに買取処置も済ませちゃうわね今はコモンポーションもDコインも買取値段が高止まりしてて千円と1D十円なのよ、やったわね山田ちゃん、四千円をカードにっとはい、カード返すわねー、しかしまぁレア級のフェアリーで4属性持ちなんてすごいわよね、しかも主人登録済みって事はもう他人に譲渡不可、ふふふもう貴方を離さないって事なんでしょう? ロマンチックだわぁー、あ、飴ちゃんいる? でもフェアリーカードだなんてスライムダンジョンの奥で隠し部屋でも見つけたの? ああ、いいのいいの言わなくて、探索者には秘密の一つもあった方が箔が出るってものよね、おばちゃんは職業倫理しっかりしてるから守秘義務もばっちりだし詮索するような事は一切しないから! 大丈夫よおばちゃんは岩よりも口が堅いしお隣のヒヨさんくらいにしか話さないし、ヒヨさんもノイジーウーメンなんて呼ばれてるのよNOが言える女性なんてカッコイイわよねぇおばちゃんにも何かあだ名がつかないかしら、あ、飴ちゃんいる? ラブラブな主従契約はもうしてあるみたいだけれども、まさか主人未登録でいたかったなんて言わないわよね、ダンジョンの中だけの関係にしたいとかそんな都合のいい関係はおばちゃん許しませんからね! 

 ふうっ、なんだかんだでいつもおばちゃんの話を最後まで聞いてくれる山田ちゃんはほんとに優しいわよね、不愛想な頃からずっと二年間も見てきたけどその優しさは変わってなさそうで安心するわ、あなたはもう家族に思えてくるの、そうだ私の孫娘と結婚しない? かわいいわよー、ねぇ山田ちゃん、あなたが無事に姿を見せてくれておばちゃん本当に嬉しいわ、私は貴方の味方だからねこれからも頑張って生きるのよ」


 おばちゃんは口を閉じてまっすぐ俺を見つめてくる。

 こんなにも俺を思ってくれている存在が近くに居たことに今まで気づいてなかったのか……。


「はい、これからも頑張りますのでよろしくお願いします」


 俺はゆっくり頭をさげ、そしてゆっくりと頭をあげる。


 おばちゃんは笑っている。


 帰る前に伝えるべき事を伝える。


「これからはダンジョン内の宿泊登録はちゃんとしますし、上に目をつけられないように気をつけます、ダイエットの啓発本は大抵が読み終わったら『え、意外と普通?』みたいな感想になると昔、妹みたいな子が言ってました、その探偵センサーは優秀なので大事にしてください、中学卒業した新人が一杯来るならここもまた混みそうだし時間ずらすかな?、俺の武器は字面だけみるとレンジャーで無くレジャーですねぇ、稼ぎの額は内緒で、ポン子の事はおばちゃんの勘違いです、もうまんたいって二回続けるとなにか負けそうな気が、テイマー登録ありがとうございました、フェアリーの入手先は内緒で、というかヒヨさんには絶対に絶対に言わないで下さいね! ラブラブでは無いですが主人未登録で使い捨てになんて俺はしませんよ、おばちゃんの孫娘まだハイハイしてる赤ちゃんだよね?そりゃ可愛いんだろうけども、残念ながら年が合わなそうです、飴八個は貰っていきますね」


 トレイに乗った八個の飴を右のポッケに。


 じゃぁまた、とおばちゃんに手をあげ、お腹をぽっこり膨らませて仰向けで豪快に両手両足を広げて寝ているポン子を、ってか美少女がしていい寝かたじゃないなこれ。


 ポン子を足から胸のポッケに入れる、羽はまったく邪魔にならないな、魔力で出来ている?


 飴の包み紙なんかゴミを左のポッケに入れ。


 無人のゲートに向かって歩き出す。


 今日の売り上げでなんの飯を買おうかと考えながら、ああ、二人分だからいつもより質素になるな、と。


















 そういや、おばちゃん若い頃の写真が残ってないって言ってたが。


 ダンジョンが出来てすぐ後に発売されたモバイル情報端末が、それまであったパソコンだとかスマホとやらが不必要になるくらい性能が高く。


 写真や動画も高画質で大量に残せるものだったとか聞いた事あるんだがなぁ……。


 未だに当時とほとんど性能が変わらないとかなんとか、うーん持ってないからよく判らん。


 モバ端末の基幹魔道部品を提供している〈エンゼル・クロウ〉さんは億万長者だってさ、施設の子供と一緒にあやかりたくてTV画面を拝んだもんだ。


 バブみの〈ガイド音声さん〉

 ツンデレ黒自販機〈ハンコちゃん〉

 ボクッ娘〈モバタン〉


 が鉄板だとか中学の時のよく知らんクラスメイトが大声で話してたっけ。

 

 今まではちっとも欲しいとも思わなかったが、ネットにも繋げて情報も見れるし。


 俺もモバ端買おうかなぁ、でも先立つ物がな~、うーむ。


 結局カネか、せちがらいねぇ世の中は。

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