第4話 最高パーティ

「ほっはっとやっ、なんとー、まだまだー」


 スライムからの体当たりを連続でかわしていく、靴も履いてない状況だと激しく動くと靴下がすべってすごく動きづらい。


 いやまぁ当たったからとて死ぬ訳じゃないが痛いものは痛い。


 大天使さんに転移魔法で送られた直後にスライムに囲まれた為に武器もない、靴も履けてない、そんな状況でちょっとやばめだ、てか俺のマークⅣは何処にあるんだよ!?


 転移先の状況を確認するとか、そもそも靴を履かせてから送るとかあるだろうに。


「くそ、何が大天使さんは綺麗で仕事も出来そうだとか、誰が言ったんだそんな事」


 って俺だった!


 スライムに素手で攻撃はしたくない、靴を履いていたら踏みつぶしてもよかったんだが、それでも靴とか少し溶けるし、現状の靴下でやりたくは無いな。


 予備の武器もバックパックの中だし、マークⅣなら重り部分が溶けても新しく巻き直せば済んだのに、ちくしょう。


 そんな時に、スライムの体当たりが絶妙に届かない位置でホバリングしている妖精が目に入る。


「そうだ妖精! 妖精! ヘルプミー! 助けてくれるんだろ? 守護してくれ!」


 こちらが必死になって声をかけるも。

 余裕のある動きでふよふよと浮かびながら妖精がのたまう。


「妖精妖精ってそれ種族名じゃないですか、名前で呼んでくださいよ~ご主人様」


 のんびりと空中遊泳をしてる妖精にイラっとする。


「何がご主人様だ! 俺には山田一郎というちゃんとした名前があるんだ、そっちで呼べそっちで、様づけされるとか鳥肌たつわ! というかお前の名前を知らんのだが?」


 相変わらずスライムの攻撃を避けながら会話をする。


「普通は魔物カードの主人登録する場合には個体名をつける必要があるんですよ、私はまぁ特別制なので後付けでいいんですけど、取り合えず名付けてくれませんか? パスを主人と繋げないと魔物に攻撃とか出来ないんですよね~、細かいシステムルールとかありますので」


「んじゃポンコツエンジェルからとって〈ポコエル〉とかどうだ」


 正直動きながら考え事をするのは難しい、頭に浮かんだフレーズを伝えてみる。


「なんですかその可愛くないの! もっとちゃんと考えてくださいよ~!」


 妖精は俺の頭に乗って髪を掴みゆっさゆっさと揺らしてくる、ええい!うっとうしい。


「頭に乗るな! 髪を引っ張るな動きづらいだろ! それならお前はポンコツの〈ポン子〉だ〈ポン子〉に決定だ! どうだ可愛いだろ!」


 俺が大きな声でそう言いながら頭の上の妖精を手で払いのけると、妖精の体が光りだした。


「ちょ! まって待って今のは無しでー、ってああぁぁ、主人とパスが繋がってるという事は名前が世界に登録されたという事で……」


 光輝きながら妖精が叫んだと思ったら、ほどなく光は収まり妖精はうな垂れている。


 どうやら名前が決定したらしい、パスが繋がったとやらの影響なのか、なんとなくポン子の位置やらが感じ取れる気がする。


「ポン子~? 早く助けて欲しいんだが、そろそろ疲れて来たし」


 相も変わらずスライムの体当たりを避ける俺、動きを上手く繋げてダンスのようにしてみたりと、飽きが来ないように工夫して少し楽しくもあるのだが、終われるなら終わって欲しい所だ、正直疲れてきた。


「ふ、ふふふふふふ、ええ私の名前はポン子です、ポン子ですよこんちくしょー!」

「何か知らんが元気が出たようで何よりだ」


「誰のせいだと!? ああもう、この怒りはスライムにぶつけて晴らすしかないですね! 魔法で攻撃します避けてくださいね!」


 そう宣言したポン子が手を前に出すと、空中に浮かんだ水の塊が生まれて大きくなっていく、あれは水属性魔法?


「アクアショット、アクアショット、アクアショット、避けるなアクアショット、アクアショット、アクアショット、アクアショット、ああもう避けるなってばアクアショッート、アクアショット、そこだ~! アクアショットぉぉぉぅ、何?これも避けるの、く~~生意気な奴め! アクアショット、もひとつアクアショットぉ、ふっそれはフェイントだよ! アクアショットどうだ――」


 次々と水弾を生み出して発射するポン子、俺より高い位置から撃っている為に、角度が急で当てづらそう、当たっても倒せず弾き飛ばしているだけだな。

 

 声だけだと激闘のようにも聞こえるが、相手はスライムで数は三匹である。


 攻撃を受けて弾き飛ばされたスライム達は、少し距離を置いてこちらの様子を見ながらピョンピョンとポン子の攻撃を避ける事に集中しているようだ。


 そして最初の頃に俺に体当たりをしようとしてたスライムに向けて撃った水弾が、何度も何度も、スライムに当たって弾けて、床に当たって弾けて、と俺に水が大量にかぶさっている、ふっ水も滴るなんとやらだな。


 今はスライム三匹と距離が出来て、体当たりを避ける必要がなくなったので、息を整えつつポン子に語りかける。


「なぁポン子さんや」


「なんですか? 今忙しいんですよ、アクアショット!」


「いやね、ノーマルスライムに水属性攻撃が効きづらいのは勿論知ってるんだよなーと思ってさ」


「あ……、ももっ勿論知ってますよ、えっと、そうだ地上に降りてきて? アクアショット、初めて使う妖精の魔法の具合を試すために? アクアショット、わざと効きづらい魔法を試し打ちしてるんですよアクアショット、いやだなーもー、そろそろ倒していいですか? アクアショット」


 顔だけは真面目に、アクアショットでスライムを牽制しつつ聞いてくるポン子。


 まぁ突っ込みを入れるのも野暮なので、少し助言をしつつこの戦いを終わらせる事にする。


「その高さから攻撃すると角度が急で攻撃は当てにくいだろ?相手の動きのラインに合わせて高度を下げて平行に魔法を打つといい」


「ええ?でもそれだと相手の攻撃も私に届いちゃいませんか? アクアショット」


 なんか語尾が特殊なキャラになりつつあるポン子に向かって。


「その時は俺が守ってやるよ」


 一度は言ってみたい決め台詞だ。


 そのセリフを聞いたポン子は、何かに気づいたのか、笑いながら俺の腰の横あたりに降りてきて、手を前に伸ばし。


「じゃぁ守りはまかせましたよ!攻撃は私が風属性で行きます!」


 うん、何処かの冒険小説に出てきそうなセリフだな、こいつはネタを判っておられる、ポン子とは気が合いそうだ。


 まぁ、相手はスライムなんだが。


 ポン子の手の前に風が渦巻き、吸い込まれるように空気が流れていく、そして俺のびしょ濡れの体がその流れにさらされて冷えていく、気化熱というんだったか? すごく寒い。


「いっきますよ~! ウインドショット、ウインドショット、ウインドショットぉ」


 一匹二匹とスライムを打ち抜いたが三発目は外し、避けたスライムがポン子めがけて体当たりをしかけてくる。


 素早くポン子の前に体を出し、スライムの攻撃を重ねた腕で受け止める。


 ドンっと中々に重い一撃を受けつつ、勢いを失って落ちてゆくスライムを蹴り飛ばして距離を稼ぐ。


 後ろにかばっていたポン子が横から回り込みつつスライムに向けて手を伸ばし。


「ウインドショット!」


 その攻撃は外す事なくスライムを打ち抜き、ドロップを残して消えていくスライム達。


「大丈夫ですか?」


 心配そうに、こちらの顔をのぞき込み聞いてくるポン子。


「ああ、スライムの攻撃だからな、痛いは痛いが後に残るようなもんでもないさ」


「それならいいですけど……」


 ポン子は問題がない事に安心したようでほっと息を吐いた後、勝利の嬉しさが込み上げて来たのか、リズムよく右に左にと飛び回りながら嬉しさを語っていく。


「にしても私たちのコンビネーション中々よかったですよねー、攻撃と防御の役割をきっちりこなしてて、これはもう最強パーティの誕生というしかないのでは!?」


 スライムを倒して最強かよ、とも思ったが誰かと共闘をする楽しさもあったのも事実だ、なのでこう答えてやる。


「ああ、そうだな、俺とポン子の組み合わせは最高かもしれん」


 さすがに最強はあれなので最高に変えておいた、そしておもむろに拳をポン子に突き出してみる。


 それに気づいたポン子も小さい拳をコツンとぶつけ、笑いながら言ってくる


「一郎さんと私で最高のパーティ結成ですね!」


〈一郎〉か、そう名前を呼ばれたのは何年ぶりか、少し毛恥ずかしい。


『いっしょにあそぼう? イチローにぃ』


 ふと過去の出来事が思い浮かんだ……、あいつは今どうしているのだろうか。

 久しぶりに思い出した記憶に思いをはせる。


 黙ったまま動きを止めた俺の顔を覗き込みながらポン子が問う。


「どうしたんですか?急に動かなくなって」


「いや……、そうだな、さんはつけなくていい、イチローと呼んでくれ」


 それを聞いたポン子は。


「判りました、これからよろしくお願いしますね! イチロー!」


 ポン子は満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。


 小さな体を大きく動かしてくるくると動き回り、見ているだけでせわしないが。

 その存在が世界は楽しいのだと訴えかけてくる。


 冷えた体と心にその笑顔がしみ込んでくる。

 

 毎日が同じことの繰り返し、ただ食べて寝て働いて、そして死んでいく。


 そう思っていた俺の前にポン子は現れた。


「ああ、こちらこそよろしく」


 俺がポン子に手を伸ばすと、撫でられるのかとでも思ったのか、ポン子がこちらに頭を差し出してくる。


 そんなポン子に俺は。













 ビシっとそこそこ強めにデコピンをかましてやった。


「いたっ! 急に何するんですか~!」


「うっさいわ、俺の恰好をよく見てみろ、お前の水弾が弾けた時の余波で全身びしょ濡れ、おまけにすぐ側で風の魔法を使うから空気の流れで冷やされてすっごい寒いんだよ! もう少し周りの事を考えて攻撃しやがれ」


 おでこをさすりながら、濡れているのも構わず俺の肩に座りポン子が反論する。


「そーいうのはコラテラルダメージっていうんですよ、仕方ない物なのです、知らないのですか? おっくれてる~~」


 俺の頬を指でつつきながらイラっとする事を言う。


「これがやむをえない犠牲な訳ないだろうに、どう見てもお前の――」


「そんな事ありませんよイチローこそ――」

「おまえ、言うに事かいてそんな――」


「お前じゃないです~ポン子です~名前も――」

「んなもん判ってるわい、ポン子が――」


 スライムのドロップを回収しつつ、ポン子とギャーギャー口論しながら荷物が転がっている場所へと歩いていく、一人じゃないダンジョンも悪くはないなと思いながら。


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