第5話 出合い

「はは、ゴメンな。

 いきなり強いのが来るからつい」


 そう言って父ちゃんは、笑いながら頭を掻く。

 ……まったく反省しているように、思えない。

 

「だが、しばらく訓練は無理だな」

「え? どうして」

「アルス、自分の足を見てみろ」


 言われた通りに見てみる。……ああ


 ガクガク、ガクガク


 俺の足は、産まれたての子鹿のように、震えていた。


「まあ、相手がゴブリンなら一瞬でビビって逃げる《威嚇》を食らったんだ。

 むしろ5歳児で気絶しないなら、上出来だ」


 そう言うと、俺の頭をグシャグシャと撫でてきた。

 前なら、嬉しかったけどこの状況でやられても、足がもっとガクガクするだけだ。


「まあ、しばらく俺には会わん方がいいだろう。あと、あの一撃は良かったぞ。

 相手がオークなら木剣でも倒せるだろう。

 じゃあ俺は、魔物を狩りに行ってくる」


 そう言って、父ちゃんはどこかに去っていった。

 ……さっきの一撃で今日が休暇だというのを忘れたのだろうか……

 まあ、この経験に見合う収穫もあった。  


 名前 アルス     レベル1

 職業   

 HP 1/60

 MP 0/15 

 物理 10 (魔力不足の為、現在5)

 防御 4 (魔力不足の為、現在2)

 魔法 1 (魔力不足の為、現在1)

 魔法防御 1 (魔力不足の為、現在1)

 素早さ 6 (魔力不足の為、現在3)

 幸運 1


 ユニークスキル 

 ステータス閲覧(一部使用可能) 

 多重人格 

 剣神Lv2 (ステータスが一定に達していないため一部使用不可)

 

 スキル 

 一極 極限集中 剣術Lv1 威嚇耐性Lv1 


 称号 ユニークスキル保持者 弱き剣神


《剣神》がLv2になり、新しいスキルが出ていた。

《極限集中》か、まあ魔力が回復したら、試してみよう。

 それと、《威嚇耐性》が出ている。

 これで、格上の人と戦うとしても、

 勝て……るかどうかはともかく、ビビりはしないだろう。


 それに、オークなら倒せると言ってたから、これから、少しは大胆な行動をしても許されるだろう。

 ステータスを見ながらそう思った。


 しばらく経って、ようやく震えが収まった頃。

 ふと、俺は後ろを振り向き、木に向かって声をかけた。


「……誰だ、出てこい!」


 木の裏に隠れている誰かは、しばらく動かず、そして出てきた。


 ん? 出てきたのは、俺と同じぐらいの身長の女の子だった。


「ご、ごめんなさい!」


 この場所は、村の外れにあるのと、魔物が出る森が近くにある事から、子供はもちろん警備隊の人ぐらいのしか近づかない。


 なぜそんな所に訓練場があるのかというと、村ができたばかりの頃に森があるから、誰も家が建てず、畑も作らなかったらしい。


 それで、「いくらなんでも、村と魔物の住む森が繋がっているのは危険だ」と言うことになって、まだ施設のなかった警備場と訓練場が作られたらしい。


 俺としては、普通に柵とか罠とか壁とか作っておけばいいと思うが、当時の状況を知らないからなんとも言えない。


 ……話が脱線した。

 そんな所になぜ女の子がいるのだろう?


「ねぇ、なんでここにいるの」


「ええと、昨日ね、魔法を使っていたのを見てね、気になって……」


 魔法? ああ、恐らくシュウが使っていた魔法を見たのだろう。

《無属性魔法》って、無なのになぜか半透明で色があるらしいからな。


「それでね、今日も見かけたからね、ついてきてね……」


 女の子は、いつの間にか泣きそうになっている。


「えと、あと、だ、大丈夫。

 ここに行ってはいけない訳じゃないし、多分……」


 女の子を励ますのなんて初めてだから、あたふたしてしまった。

 その後、しばらく話して、ようやく泣きそうじゃなくなった。


「それで、きみ誰?」


「……リリー」


 リリー? どっかで聞いたことがあるような…………


「あ! 村長の娘か!」


「うん、父さんは村長だよ」


 そうだった、そうだった。

 父ちゃんと村長は仲が良くて、よく家に来るのだが、その度に1時間ぐらい自慢していたあの人の娘か……


「それでそっちの名前は?」


「え?」


「私が名乗ったから、そっちも名乗って」


「ああ、俺はアルスだ」


「アルス……ねえ、私に魔法を教えてくれない?」


「え」


 困った。魔法を使えるのは、俺じゃなくてシュウだ。

 どうしよう……


「……ごめん、今日は無理」


「どうして?」


「ええと、母ちゃんの手伝いがあるから」


「分かった。じゃあ明日に教えてね」


 言うことを言い終えると、リリーはどっかに走っていった。

 ……アルス、ごめん。


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