第4話 アルス(視点切り替え)

「……起きたか」


 精神世界で3時間、シュウに勉強させられたせいで、寝起きだというのに精神的に疲れた。

 はぁ、また1日が始まるのか……


「よいしょっと」


 取り敢えずベットから降りて朝食を食べに行こうとする。

 だけど、動きが精神世界に比べて遅い。

 まあ、しょうがないか。 


「おはよう、アルス」


 今日の朝は、いつもと逆で、母ちゃんがいなくて、父ちゃんがいた。


「珍しいね、父ちゃんがこんな時間までいるなんて」


「昨日言わなかったか? 警備隊の仲間から『ベルトさん! もうそろそろ休んでください! もう連続一週間ですよ!』って言われてな。

 はは、そんなに心配しなくてもいいのに。

 徹夜で一ヶ月、魔物を討伐していたあの頃に比べれば、こんなの楽勝だよ」


 そう言って、父ちゃんは豪快に結構固い黒パンを噛みちぎる。


「だったら、きちんと休んでね。

 前みたいに、『すまん、あとちょっとでレベルが上がりそうだったんだ』とか言いながら森の奥にあるダンジョンに、入ったりしないでね」


「ああ、そう言えばそんなことあったな。

 だけど、それだと暇だしな……あ! 

 そう言えば、前に特訓してほしいって言っていたよな、な! よーし、父ちゃんが鍛えてやろう」  


「は?」


「じゃあ、街の外れにある訓練場で待ってるからな!」


 父ちゃんは、スープを一気に飲み干し、

 食べかけの黒パンを口に詰め込んで、外に出ていった。

 ……まあ、訓練になるし良いか。



「よし! じゃあ訓練を始めるぞ!」


 夏の炎天下、父ちゃんは元気に叫んだ。


「父ちゃん、訓練って何するの?」

「取り敢えず、適当に攻撃してみろ。

 武器は好きなものを使っていいぞ」


 そう言って父ちゃんが指指した先には、いくつか箱があってその中に、木剣、木槍、木盾、先が木でできた矢と弓、他にも様々な武器が雑多に入っていた。


 俺は、その中から、比較的軽そうな木剣を持つ。


 ヒュン、ヒュン


 軽く振ってみる。 

 うん。少し重いが、これなら俺でもまともに戦えそうだ。


「よし! じゃあかかってこい」

「じゃあ、行くよ」


 俺は、駆け足で詰め寄り、木剣を振るった。


 ヒュン


「甘い!」

 父ちゃんは、後転をして避けるという無駄に高度なことをやった。

 それに負けずに、また木剣を振るう。

 だけど、それも避けられる。

 しゃがんで、飛んで、回転して、様々な動きで俺の攻撃を全て避ける。

 こんな避け方をしたら、普通ならすぐヘトヘトになるはずだ。


 だけど、実戦で鍛えられた技術、レベルアップによるステータスの成長、一週間働いても疲れない超人的な身体、これらを持つ父ちゃんには関係ない。

 むしろ、このまま無駄に木剣を振るえば、ヘトヘトになるのはこっちの方だろう。


 あれを使うか……いや、まだだ。

 あれは短期決戦用。今使っても意味がない。

 そう思い、一旦攻撃を止める。


「ハハハ、どうした、もう息切れか?」


 こちらの気も知らず、父ちゃんが挑発してくる。

 だけど、何も反応しない。

 水面下で集中力を高めていきながら、父ちゃんに声をかける。


「このまま攻撃しても勝ち目ないから、そっちから攻めてきて」

「分かった。じゃあ、頑張って避けろよ!」


 シュン


 かなりのスピードでこちらに来る。 

 当たれば、悲惨なことになるだろう。

 だが、避けない。

 父ちゃんは、まさか自分の攻撃を防御するのではないかと考え、少しスピードを緩める。


 ギリギリ、ギリギリ


 避けれるギリギリではない。

 父ちゃんが攻撃を辞める瞬間と、俺の間合いに入るギリギリだ。 


 ……来た……!


 まず父ちゃんの攻撃を、間一髪の少し前で避ける。


 ギリギリ、切り札が完全に決まる瞬間、父ちゃんが油断して、手加減に手加減をして、攻撃を辞めようかというギリギリ、俺の対して威力のない木剣が当たるギリギリ、そのスキルを使う。


「《一極》」


 その瞬間、俺の動きがすごく遅くなった。

 避けれない人はいないレベルの遅さだ。

 普通なら、父ちゃんも避けて終わりだろう。

 だけど、今は木剣の当たるギリギリだ。

 スピードなんて関係ない。


 バンッッッッッ!!!


 スピードからは、考えられない威力が出た。

 俺のスキル《一極》の効果は単純。

 全ステータスを1残して、 

 残りを全て“物理”に乗せる。


 その結果、物理だけが飛び抜けるという、普通ではありえない状態になったのだ。


 だけど、もちろんデメリットもあり、

 このスキルは、1秒で1MPを消費する。

《一極》でMPは1しかないから、1秒しか使えない。


 しかも終わるとMPが0になるから、全ステータス50%低下、HP1の状態になる。 だから、一対一で、なおかつ一撃必殺を決められる状態じゃないと使えない。

 ちなみにHPとMPは、十分の一だ。 

 

 これはやりすぎたか、と思うと


 グギッ

 

 父ちゃんの首がこちらを向いた。

 魔物にのみ向ける、殺意に満たされた目だ。

 その目を見て、理解する。

 あ、死んだ。


 ブンッッッッッッッッッッッ!!!!


 俺の一撃とは比べ物にならない一撃が、木剣から振るわれる。

 剣としては、恐らく何も切れないであろう剣だが、父ちゃんが本気で振るえば、例え魔物であろうと切り裂くだろう。

 そう思う一撃だった。


 俺は、思わず目をつぶる。


 ブォォォォォォォォ!!!


 風圧だけで、首がもげそうだ。

 風圧のあとに来る本当の斬撃に死を覚悟して

 …………………………あれ?


 目を開けると、木剣は指一本位の所で止まっていた。

 父ちゃんの顔を見ると、殺意でギラギラした顔ではなく、いつもの頼りになる父親の顔に戻っている。


「すまん、ついやりすぎた」


 俺は、助かったのだ。














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