はじめの一歩

アパートに帰ると、お湯を沸かしてカップ麺を作り、湯たんぽにもお湯を入れた

節約のため、暖房費は抑えたい


寒い部屋にカップ麺から湯気が立ちのぼる

湯たんぽをタオルでくるんで、布団に投げ込むと自分もベッドに横になり毛布をかぶった

じんわりと温かさを感じて、圭人は少しほっとした


勢いで応募してしまった女性用風俗のセラピスト、自分なんかにできるのだろうか?


携帯で女性用風俗について見てみると、驚くほどたくさんの店が検索できた

圭人が応募したお店は、2年程前からあるようで、平均的な値段設定、圭人と同じくらいの年のセラピストが何人か載っていた


顔は半分ぼかしてあるので、はっきりとはわからないが、特別カッコいいという感じではなく、平凡な雰囲気の子が多かったので安心した


女性専用風俗 ヒーリングラブ

~貴女を愛で癒します~


トップページに、大きく店の名前が出ている

もうすぐ23才になる圭人は、そのお店では三番目に若い

圭人にあるのは、若さと色白で痩せた身体だけだ

顔は、特徴のない奥二重の目と高くも低くもない鼻と薄い唇

ブスではないと思うが、カッコよくもない、あえて表現するなら印象に残らない顔

筋肉のない細い手足、落ち着いて考えると無理な気がしてきた


携帯を見つめたまま、ぼんやりと考え込んでいたら、携帯が鳴った

見覚えのない番号

圭人は突然の着信に驚いたが、声のトーンを意識的に抑えてはい、と電話にでた


もしもし、梶原圭人さんの携帯ですか?

と、どすの効いた声がする


そうです、と答えながら圭人は本能的な危険を感じた

そうだよな、風俗なんて堅気の仕事じゃないよな、ヤバい人っぽい…


ヒーリングラブの伊東というものです

セラピストに応募された方に面接の案内なんですが、明日の夕方頃はどうですか?

声は怖いが、口調は意外に丁寧だった


はい、大丈夫です

反射的に返事をすると、時間と場所を説明され、すぐに話はすんだ


あ、履歴書が要るか聞くのを忘れた

圭人は悩んだが、一応書いていくことにした

とはいえ、本当の住所や前職を書くのはどうかと思い、適当に嘘の履歴書を用意した


応募の入力フォームに本名と年齢と携帯番号は記入してしまったので、それ以外はデタラメに書いておいた

伸びきった麺をすすりながら、圭人は不安になった

大丈夫かなー?

まあ、行ってみるしかないか…


いろいろと面接について考えているうちに、眠くなってきた圭人は、いつの間にかうとうとして寝てしまった



次の日の夕方、指定された駅のコーヒーショップ前で待っていると携帯が鳴った


昨日の怖い声の伊東さんだった

今から事務所の場所を携帯で案内するから、そこで面接は行うという


言われるがまま、道案内されて裏通りの細い道を抜けるとそこにあるマンションの3階の305号室に来るよう言われた


あまりの怪しさに、圭人は逃げ出そうかと思ったが、思いとどまると意を決してエレベーターのボタンを押した


305号室のドアのインターホンを押すと、すぐに伊東さんと思われる男性がドアを開けた

派手な上着を着て、30~40才くらいに見える

きちんとしているとは言えないが、ヤクザな感じもしなかったので、圭人は肩の力が抜けた


どうぞ、と部屋の中に通されて、ソファーに座るよう促された

圭人は腰掛けると、マスクも外した


圭人の顔をちらっと見ると、伊東さんが言う

ゴメンねー、ちゃんと面接に来ない子が多いから、ほら、と窓の外を指差す

さっきまで圭人が立っていたコーヒーショップが窓から通りの向こうに見える


ここで確認してから電話するんだよ、と伊東さんはニヤリと笑った

事務所の場所も非公開だからね、と圭人の正面に座った


近くで顔を見ると、伊東さんは若い頃はかっこよかったのだろうなと感じる整った顔をしていた


えーと、梶原くんは、22才?セラピストの経験はない?初めてだよね

今、仕事は?


働いてた会社が倒産して、今は仕事を探してるところです、と圭人が答えると伊東さんは、え!それはたいへんだったねぇと眉間にシワを寄せながら何度かうなずいた


じゃあ、お金が要るんだね、と呟くと、うちは、登録費用は無料だし、必要経費は支給するからね、と笑った



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