第9話 真の憎悪 5
木曜日、午前5時半。
僕、風見亮介が死ぬまで2日。
「死神さん、学校をサボりたいです。」
「なにを言っている?」
昨日と同じ時間に家を出て、学校に行く予定だったが、出る少し前に、僕が死神さんに話があると言って、引き止めた。
「言葉の通りです…今まで一度も学校を休んだ事がなかったので、最初で最後の『学校に行く時間に、それ以外の事』をやってみたいんです。」
「私は構わないが、いいのか?無断欠席をすれば、間違いなく、君の親に連絡がいくぞ?」
「大丈夫です」
「……」
しばし、僕と死神さんの間に言葉はなかった。
「まぁ、君がそれでいいのなら、私に異論はない」
「ありがとうございます」
「それで?」
「はい?」
「ただ学校を休むという訳ではないのだろう?君はなにを望む?」
「そうですね…」
「裏山…学校の後ろの裏山に行ってみたいです」
そうして僕たちは、家を出た。
あの二人は連日、大麻に溺れていたため、顔すらも合わせずに済んだ。
学校を越し、裏山へと入った。
この裏山はしっかりと整備されていないせいか、普段は誰も入らない。
「ちょっと開けたところまで進みましょうか」
「私は問題ない」
道筋などは全くないが、周りの草木を避けながら、僕たちは山の奥へと進み続けた。
「あ、ここ良いですね」
しばらくすると、木もない、広い平地へと出た。
「死神さん、ここで少し休んでも良いですか?」
「君のやりたいことをやればいい」
「ありがとうございます」
ざっと、数十メートルもある平地。草木を抜けて、すぐの位置に僕は座り込んだ。
死神さんも静かに隣に座った。
「本当にこんなのが君のやりたいことなのか?」
一呼吸ほど置き、死神さんが僕に質問を投げる。
「…きっと、今までの僕にとって、心を落ち着かせる時間は屋上での、あの昼休みだったんですよ」
「でも、その時間もすぐに終わって、現実がやって来る。だから最後くらい、学校とか、勉強とかも忘れて…ただ、こうしていたいんです」
「そうか、『こんなの』なんて言って、すまなかったな」
「大丈夫ですよ」
そのあとから耳に入る音色は、風で草が揺れる音、鳥の鳴き声。それらのみだった。
でも、多分僕はこういった落ち着いた場所で、優しい音を聞くのが好きらしい。
なぜか眠くもなってくる。
「もしかして、眠いのか?」
「え?」
「瞼が重くなってきてるように見えたからな」
「よく分かりますね…実は少し」
「連日、早起きだったしな、無理もない」
「ちょうどいい、この子も眠いらしいからな。一緒に昼寝でもするが良い。
カゥー、、
掛け声とともに、死神さんの肩にカラスが現れる。
いつもの勢いがなく、確かに眠そうにしている。
「じゃあ…少し仮眠しますね」
そうして、胡座状態から、寝転ぼうとすると、
「なにをしている?こっちに来い」
ぽんぽんと、自分の膝を叩く死神さん。
「い、いや、それはちょっと…」
「最後くらい、そして私くらいには甘えてもいいんだぞ?」
ずるい…そんな事言われたら…
眠気もあったせいか、適切な判断が出来ず、死神さんの提案に乗っかってしまう。
「では、失礼します…」
すぐ隣に座ってる死神さんの膝に自分の頭を乗せる。
「よろしい」
そう言いながら、僕の頭を撫でてくれた。
普通なら恥ずかしいが、今はなぜか、不思議と気持ちよくってさらに眠気が増す。
カゥン…
カラスも僕の顔の前にきて、体を丸めて寝てしまった。
柔らかい毛が頬に当たる。モフモフなものは、癒し効果があるとどこかで聞いた事があるがまさか、ここまでとは…
「君を見ているとな、なぜかこう、甘やかしたくなる」
僕の頭を優しく撫でながら、話しかけてくる。
でも、その声すらも、心地良くって…
「でもそれは、君を決して憐れんでいるからではないぞ。君の頑張りや優しい一面を…ってもう、寝ちゃったか」
「君の憎悪は特殊だが、それもあと少しで抹消される…」
。。。。
カーカー!
そんな音が耳に入ってくる。
徐々に瞼が開いていき、その音の正体が明らかになる。
カァー!
「やっぱり、君か…」
顔の目の前にはカラスが元気良くいた。昼寝する前とはまるで違う。
回復出来たのならよかった。
「よく眠れたか?」
頭上からも声がするが、上は向かない。
こないだも、後ろにいたので、反射的にそちらへ向うとしたら、止められた。そのため、今回は向かずに、膝から離れる。
「はい、ありがとうございます」
「気にするな」
「だいぶ暗くなっちゃいましたね、」
「ああ、そうだな」
辺りを見回すともう夕方くらいになっていた。
そして、周りを改めてよく見ると本当にとてつもなく広い。
「それにしても、不思議ですよね。山の中にぽつんと開いた平地」
僕は立ち上がり、端から中の方へと、歩いていく。
「私もそう思っていた」
死神さんも僕の後に続く。
その刹那──
ビリッ!!
「え?」
背後から電気音のような音がし、振り向く。
「し、死神さん?…」
すぐ後ろまで着いてきていたはずの死神さんがだいぶ離れた位置まで飛ばされていた。
「ど、どうしたんですか?!」
「落ち着け。これはきっとあれだな」
「あれ?…」
「結界だ」
「け、結界って…」
死神さんはまた僕の方へと歩み始め、説明してくれた。
「私たち死神は、江戸時代から多くの人間を誘ってきた。医療が発展していなかったその時代では、流行病で亡くなるのを、妖怪や死神様の仕業だと騒ぎ立ててたようでな。そこで金を持っていた偉い先人どもは、霊媒師やら術師を使って、結界を生成した。そして、それが運悪く、私たちにも効いた。っと言った話があるらしい。私も詳しくは知らないが」
「じゃ、じゃあ、ここには昔、偉い人が住んでいたって事ですか?」
「かもしれない。こういった結界はあっちこっちにあるらしい。私は初めて目の当たりにするが」
ビリッ、
「おっと、どうやらここまでのようだな」
目の前で、歩みを止め、手のひらを出してきた。
「ここから先へは行けないみたいだ」
「そんなこともあるんですね…」
僕も手のひらを突き出し、死神さんの手と重ねる。
自分は結界なんて関係ないのに、無意識のうちに手を止めてしまう。手と手の間の隙間が壁を感じさせる。
体が妙に重く感じる…苦しい牢獄にいるような気分…
昔、病気で苦しむ人の怨念か…まさか、死神さんが言う『憎悪の悪影響』って僕たちの世界にも影響を及ぼすとでも言うのか…
「少年、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「は、はい…もう、戻りましょう」
「分かった」
死神さんは一歩引き、僕は自分には見えない壁の外に出た。
すると、
ぎゅっ、
急に死神さんに抱きしめられる。
「あ、あの…?」
「触れられる。ここは結界の外らしいな」
「みたいですね…」
「よし、では一旦戻ろうか」
そうして、僕たちは家へと戻った。
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