第12話 地獄の底に見えたもの

クロエが海岸を目指して進んでいるとステイシーから連絡がスマホに入っていた。どうやら彼女はマーキングポイントで連絡をいれたらしい。クロエはスマホを取り出してメッセージを送る。ステイシーは早速ゲリラ部隊の物資集積所の破壊に成功したようだった。CIA屈指の工作員の腕前は流石といったところか。彼女は広範囲に渡る破壊工作を済ませてきたようだ。つまりクロエが破壊した補給基地以外は全てステイシー一人が破壊してくれたのだ。これは本当に助かる。敵対者の弱体化は全線で戦うクロエにとってはとても嬉しいことだ。故にステイシーの送ってきた情報には胸が弾んだ。更にステイシーは敵の武器庫から役立ちそうな武器や装備、爆薬を持ってきたらしい。スパイとしてのスキルを活用して役に立つ道具も作ってくれることだろう。サイレンサー付きの銃を持ってきたようだ。これならばジャングル全体で音もなく敵を銃撃して倒せる。潜入にはとてもありがたい銃だ。そして現地でブラックマンバなどの不穏な動きも調査してきたようだ。ブラックマンバ本部や基地、関連組織などの団体の様子などを把握したと言う。重要なデータだった。海岸で装備と情報を交換したらこれから先の戦略も練ることになる。それらの情報を照らし合わせて作戦会議だ。それともう一つ気になることがあった。本作戦にはもう一人助っ人が送り込まれたらしい。最精鋭で、それも腕利きだと言う。何者なのか。会ってみなければ何もわからない。クロエは今向かっているとメールを返信すると海岸へと急いだ。


ジャングルを走っていると波の音が聞こえてきた。潮の香りが漂ってくる。海が近いのだ。アマゾン熱帯雨林を通り抜けるとそこにはカリブ海の青い海が広がっていた。カリブの海の何と美しいことか。世界一美しいのではないかと思えるのがこのカリブ海だ。クロエは中南米の任務でアマゾンに来るとカリブ海を眺めるのが好きだった。海は良い。無心になれる。彼女には海だけが自分を解放できる唯一の場所だと決めていた。ジャングルから見るカリブ海は格別の絶景である。しかも今は夕暮れでカリブ海がオレンジ色の夕焼けに染まっており赤い輝きを放っていた。クロエはその光景に心を奪われた。南国の日暮れは良いものだった。


「カリブ海の美しさといったら色褪せることはない。流石だ。本当に何度来てもいいところだな。」


クロエはこの海が大好きだった。カモメが鳴きながら頭上を羽ばたいていく。この光景もカリブの名物だ。


ステイシーもこの景色を堪能していることだろう。彼女もロマンチストな一面があるし、心癒さることには貪欲に飛びつく気性も持ち合わせているのだ。




「私だ、聞こえるかステイシー。もう海岸線についた。これから落ち合うぞ。今どこだ?近くにいるのか?応答しろ。」




「こちらステイシー、クロエだね。私はヤシの木の近くにいるよ。砂浜に降りてくればわかると思うよ。たくさん武器装備は持ってきたよ。それともう一人紹介したい人がいるんだ。私たちと同じエリート戦士をね。彼女も君に会いたがっているよ。伝説の戦士にさ。当然だけどクロエとも面識があるあの娘だよ。楽しみにしててね。」




ステイシーの話では優秀な兵士の女がクロエを待っているらしい。知り合いは軍や情報機関に多いがはたして何者なのだろうか。一つ言えるのはアメリカ軍でもCIAでも無いのは確かだ。工作員だとは思うし、NSAの可能性が高い。NSAはCIAとは違いコンピューター技術を駆使した諜報能力が得意だ。本来は相容れない存在だがこの極秘作戦遂行のために投入されているのかもしれない。それにNSAにはよく知っている女がいるし、ステイシーとも太いパイプで繋がっている。それならば納得も行くがはたして彼女なのか。だがクロエには彼女なのだと直感していた。司令部が支援要請を出しているのはNSA所属の工作員であるあの女性だろう。だとしたら会いたい反面引くものもあった。何故なら彼女も腕は確かでクロエも高く評価し信頼しているが、ステイシー同様性格に難があるのだ。物凄い変人なのは間違いない。クロエとは相性は良いとは言えなかった。複雑な気分だ。




「なあステイシー。お前が落ち合うというサポート要員はもしやNSAか」




「大正解!クロエの察し通りNSAのあの娘だよ。そう、サマンサね。」




「やはりそうか。賑やかになりそうだな。サマンサは中南米一帯の電子画像を見せてくれるんだろうな。」




「サマンサは電子戦のプロだからね。勿論たくさん用意してるみたい。でもそれだけじゃないようだよ。」




「わかった。会ったらそっちの報告も聞く。とにかく浜についたぞ。




クロエは安堵というか読みが当たったことを笑った。本当にサマンサだったとは。自分の直感が恐ろしいくらいだ。しかし彼女はパソコンを使った戦略立案の名手であり、シギントと呼ばれる情報収集能力のスペシャリストなのだ。来たからには必ずや本作戦の心強い味方になってくれるはずだ。ステイシーもサマンサには絶大な好意を寄せている。難攻不落のジャングルを制覇するのに二大スパイが付いてくれるのは軍人としては嬉しい。スムーズな作戦遂行には常に最新情報が不可欠だ。性格の問題は別なのだが。




「えっと、大きなヤシの木は見えるかな」




「ヤシの木か…ああ、あれだな。一つだけ飛び出して大きい。」




クロエは砂浜から見て他のヤシの木よりも大きい木を見た。あそこに二人でいるのか。その木はここからは近い。急いで向かう。足取りは軽い。




「おーい!ここだよ!ここ!」




「早く来なさいよー!このデカ乳女ー!牛乳!」


ステイシーの元気の良い声に続いてサマンサの煩わしい声が聞こえた。




「相変わらず嫌な奴だ。」




クロエは二人の待つヤシの木に到着した。ここは背後のジャングルからはヤシの木の群生で死角になり敵からは見えない。砂浜も広く見渡しもいい。そして入り江のようになった海は潜入にも適した構図だった。この海岸は合流ポイントにはもってこいだ。三人はヤシの木の下で夕焼けの海を眺めながら報告をした。クロエは生き生きとした表情、ステイシーは弾ける笑顔、サマンサは気難しい顔をしている。内心では二人に会えるのが嬉しいのだろう。クロエもそれは同じだった。基本憎まれ口を叩いていても仲は良いのだ。それが特殊生体兵器なのだ。このサマンサも遺伝子改良実験で生み出された生命体である。常人を遥かに上回る身体能力と戦闘技能を併せ持つが彼女の場合は頭脳やハイテク機器の取り扱いが重要視された。そのため彼女はNSAに配属され優れたコンピューターの知識を利用してアメリカ内外で情報の保持や集積に当たっている。挙げた功績や貰った勲章は数えきれない。工作員という立場上、兵士であるクロエよりもステイシーとの付き合いが長い。どちらも最優秀なスパイだ。そしてクロエは最精鋭の戦士である。アメリカ軍もさぞかし期待を寄せているはずだ。クロエは早速本題に入った。




「ステイシー、サマンサ。ありがとう、これで益々この作戦もやりやすくなった。私の行軍をお前達が支えてくれるのは頼りになる。特にサマンサとは三年ぶりだな。変わらず生意気な奴だな。ここでもその調子でブラックマンバを倒してくれ。」




「クロエは沢山ゲリラと渡り合って来たけれど私達もその裏で助けて来たんだよ。武器の確保、爆破のデータ、情報提供…いっぱいね。でも予想以上にその資源を使って破壊してくれたよ。やっぱり流石クロエだね。」




「まあクロエは私の正確な情報のおかげでここまでこれたんだよ。この海岸だって今日には来れなかったはず。私に感謝しなさい。でも貴女自身が強いのは認めるわよ。無事でよかったわ。流石第五世代最強の女ね。」




サマンサも実力に関してはクロエの方が上だと素直に認めるのだ。熟練の戦士のプライドがあるためだろう。余計なことは言わない。自分よりも優れている人にはしっかりと敬意を表することが出来るし、ちゃんと吸収して自分自身もスキルアップしようとする。これが出来る時点で彼女もまた立派な戦士なのだ。性格的には気難しいが嫌味な奴ではない。そしてカワイイところもある。直情的で癇癪持ち、しかし筋を通せば話が分かり努力家な面は彼女の個性だ。つまりそういったところをクロエやステイシーなどの仲間は理解している。アルティメット・ソルジャーズという特殊な存在である彼女達はお互いを尊重しあうことこそが重要なのである。尤もサマンサが自意識過剰なのは誰もが認めるところだが。




「私はいつも万全な状態で任務に臨むし真面目に遂行する。だが、お前達の実力があってこそ素早く取り掛かれるんだ。礼を言うぞ。ところでブリーフィングは何だ。」


「ではブリーフィングを始めるよ。私達はこのジャングルにゲリラ部隊及び麻薬組織、そしてスポンサーのブラックマンバの撃滅のために送り込まれた。そしてクロエが戦闘をしている間に私は敵勢力の分析を開始、サマンサは電子技術を用いて周辺地域の解析に当たった。そこで得られた情報はやはりマヌエラのゲリラはブラックマンバや麻薬組織と手を組み、勢力の拡大とパワーバランスの改変、アメリカへの攻勢を目論んでいるということ。彼らの闇ビジネスは中南米でも幅広く行われていること。そしてこの三勢力が大規模な作戦を打ち立てていること。でも断片的な情報も多くまだ確信には踏み切れていない。特にブラックマンバっ関連は非常に高度な情報隔離が行われており入手は困難。これだけの調査をしても実体は闇の中。当然というか恐るべき組織だね。勿論アビゲイルの目撃情報も全くない。具体的な命令は幹部を使って出してるんだ。これは相当な難敵だよ。」


「私もあらゆる手を使って試したわ。でも、全く確信はわからなかった。それどころかまた謎が出て来たわ。ブラックマンバにこちらの情報が漏れているとしか思えないことがあったの。奴等は支配下にあるゲリラとシンジケートを利用してアメリカ軍部隊の中継基地を爆破したわ。捕虜も捕らえられているし、これで国外に売り飛ばす麻薬も運びやすくなった。この部隊は私達を補完するために投入されていたのよ。つまり彼らもまたトップシークレットだった。それなのに…。何故動きがわかったのかはわからないわ。用心が必要ね。もしかしたら我々のことも感づいているのかも。もしそうだとしたら私達がこのアマゾンで活動することを支援してくれる他の部隊にも気づいているかもしれないし、危険だわ。恐ろしいわね。」


それは恐ろしい情報だった。彼女らに情報がわかればそれは厄介なことになる。アビゲイルの裏をかくことができなくなるからだ。元々この作戦も万が一には敵に奇襲をかけられるようこちらに有利な状況で開始された。敵が存在を認知していなければ動くことも容易だからだ。何と言うことなのだろうか。もし本当に敵が感づいているのならばこれから先は危険度が増す。それが意味するものは死だ。


「ブラックマンバに我々の存在がキャッチされているのか!?何故だ?情報網に穴があったのか?」


「私達もそれを調べているんだけど、情報が敵に漏れるようなミスはなかったはずだよ。私達の存在はトップシークレット中のトップシークレット。存在を知ったものは消されるほどのね。アメリカ政府の極一部の限られた人間にしか知られていない。だからまず出回ることはない。この作戦だって存在しないことになってる。でも作戦に抜けがあるとすればそれも限られてくる。可能性があるとすればブラックマンバのスパイだと思う。あの組織は何でも出来るからね。凄腕のスパイが何処かに潜り込んでいるのかも。問題は彼女達がいつごろからこちらの動きを掴んでいるかだよ。」


「まだハッキリとは言えないけれど漏れている可能性が高いわ。」


「何ということだ…」


「それに関しては私も詳しく調査してみるわ。」


「何れにせよ、慎重にするようだね。」


「最悪な情報だな。」


「他に良い話を聞きたい?」


「とびきりのがあるんだよ!」


「何だ?」


「現在までにクロエが破壊した施設と私が工作した車両、サマンサが抜き取った情報。これで奴らはかなり戦力を削がれることになる。文字通り撃つ弾も食べるものも乗るものも全くない。少なくともこの一帯は敵の弱体化は著しい。先遣隊の侵入ルートも塞いでおいたからこの地域を正常に戻すには相当な時間がかかる。その間に我々は奥地に移動すればいい。そしてその先の情報も掴んであるよ。サマンサが敵のパソコンのネットワークに入り込み、あたかもトラブルかのように仕組んでくれたから敵側には破壊工作関連でこちらのことはわかっていない。」


「ブラックマンバは確かに強敵だけども私達に倒せない相手じゃない。特にクロエは彼女達と何度も戦ってきたベテランだしね。奇抜な作戦が得意なのは向こうだけじゃない。」


「それにこの周辺は私が完全に制圧した。安全は確保されてる。この綺麗な海は自由に入っていいんだよ。」


「誰もいないしゆっくり遊ぼうよ。」


「つまりバカンスってわけよ!」


「何を言うのかと思えばお前たちは…」


「クロエ、先行ってるよ!」


「早くしなさいよ。先に入ってるからね。」


「わかった。今行く。」


「ヤシの実なってる~。後で飲もうよ。」


「天然のジュース。自然の恵み~。」


「あまりはしゃぐなよ。」


「うわ!冷たいなー。気持ちいい~。最高。」


「あ~体の疲れが吹き飛ぶわ。この入り江は良い場所ね。」


「完全にバカンスだな…」


クロエは内心呆れていたが、過酷な任務では常に大きなストレスがかかる。彼女程の兵士でも例外ではない。不屈の精神を持つクロエでも癒しは必要不可欠なのだ。それに安全なところなら楽しんでリフレッシュしたほうがいい。羽目を外しすぎるのは勿論論外だが。節度を持って気分転換だ。クロエは戦闘服を脱ぎ捨てると二人が待つ海へと飛び込んだ。


クロエ、ステイシー、サマンサの三人は夕日が光輝く海で裸になってじゃれあった。子供のように、無垢な少女のように可憐にはしゃいだ。年頃の女の子らしいことは全く知らない三人だが、なんとなくは遊ぶ楽しさはわかっている。クロエの大きな胸が激しく弾む。ステイシーの形が良い胸が上下に揺れる。サマンサの柔らかそうな胸が交互左右に動いた。三人の体は夕日に包まれて絵画のように美しい。白人特有の白い肌が黄金色に輝いている。戦闘を離れると彼女達は普通の女の子だ。三人の若い女は乙女のように水を掛け合った。この時ばかりは皆、作戦のことを忘れて遊ぶのだ。純粋に海を楽しんでいる。


「お前の体は柔らかいんだな。余計な肉はないがただ筋肉があるわけでもない。良いぞ。」


「クロエこそ本当に素敵な体をしているよ。こんなに均整がとれた体は見たことがない。まるで彫刻だ。」


「私のからだの方が完璧よ。貴女達みたいな筋肉や柔肉だけの体よりも魅力的よ。起伏が激しい良い体をしてるでしょう。」


「お前は足も綺麗なんだな。美脚ってやつか。」


「本当だ!細いけどしんなりしていて太腿の形がいいね!」


「当たり前でしょう!私は脚も誇りなのよ」


「だが、脇はステイシーだな。中々そんな綺麗な腋は無いぞ。」


「えへへ。皆そう言ってくれるよ。良い腋だって。」


「胸はクロエ、腋はステイシー、脚はサマンサってことね。」


「何だそれは。私の胸は大きいんだから仕方ないだろう。」


「それが羨ましいんだよね~。」


「同感だわ。」


三人はそれぞれの体を思い思いに観察した。胸の大きさでは圧倒的にクロエだがステイシーのモチモチした胸、サマンサの真っ直ぐに飛び出た胸もひけをとらない。三人とも魅惑の肢体を惜しげもなく披露して水浴びをする。


クロエはアメリカ軍内部での人気が高く、しつこく交際を申し込む兵士もたくさんいる。既婚者であってもお構い無しでうんざりしている。推定100㎝以上の巨乳には皆注目していた。ステイシーもCIA内部で言い寄るものは多い。そしてサマンサも同様だ。NSAで彼女をナンパしないものはいないといわれている。勿論全て断るが。自分の体を武器に使うステイシーとは違い、クロエはそんなはしたない真似はしない。サマンサもコンピューター関連が専門なのでそんなことはしたくもない。アメリカ軍人であるクロエはともかく、サマンサはステイシーの下品な諜報手段を快く思えなかった。ステイシーは恋人のためには何でもしてきた。殺された彼氏の敵を討つために。しかし男と交際したことがないサマンサにはその気持ちがいまいちよくわからなかった。わかろうとしても元々普通の女の子ではない彼女には何もわからないのは当たり前だった。


サマンサ・デイヴィスは物心ついたころからスパイとしての厳しい訓練を受けた。生まれが特殊なのはわかっていたが過酷な運命を呪ったことも多々ある。普通の人とは違う環境で育つことがどんなに大変なことか身を持って知ることとなった。他の特殊生体兵器の兵士達と比較して機械の知識が豊富だったのでNSAの特殊工作員へと配属された。毎日世界各国の情報を探る任務に就かされた。時には現地に赴き要人暗殺を請け負うものもあった。極秘情報ばかりを握るのも疲れるものだ。他の工作員達はパソコンのことは何も知らないくらい彼女の右に出るものはいなかった。電子戦のエキスパートとしてサイバー関連の任務も多かった。勿論技術職だからとはいえ、戦闘が出来ないわけではない。格闘、射撃、破壊工作も並の戦士よりも上だ。そのためNSA内ではサイバー戦士と呼ばれた。コードネームはダイアモンドバック。アメリカの砂漠に生息する毒蛇だが奇遇なことにサマンサの生まれもアリゾナ州だ。まさに彼女を象徴する動物である。彼女はこのコードネームを気に入っていた。特殊生体兵器は全員が動物由来のコードネームを持っている。それぞれに特化した生物の名前を与えられているので、皆を象徴する名称なのだ。クロエは魚、ステイシーは鳥、サマンサは蛇といったところだ。元になった動植物の特徴を併せ持った戦士なのだ。そしてこのコードネームはアメリカ側だけではない。敵対するブラックマンバやその配下組織も同様に生き物の名前を名乗っている。アビゲイルもそうだ。彼女はクロエと同じ魚の暗号名を持っている。その名もカンディル。アマゾンではピラニアと並ぶ肉食魚でありピラニア以上に恐れられている魚だ。他の構成員達も同じような名を与えれている。クロエには宿命に思えてならなかった。ちなみにマヌエラはトカゲのサラマンダー、麻薬組織のリーダーモニカはクモのタランチュラと呼ばれている。この三人との対決も懸念する事態の一つだ。アビゲイルは特殊生体兵器第一世代の兵士であるが、ブラックマンバ構成員は模造体である。そして戦闘員は皆アビゲイルの遺伝子をベースに製造した肉体強化薬を投与された超強化兵士である。猛獣の子供はまた獰猛である。そしてゲリラの首領のマヌエラやシンジケートのモニカも特生兵程ではないが高い戦闘力を秘めている。ブラックマンバ部隊だけでも難敵なのにその他彼女達の部下達まで相手にするのだ。普通は三人でこれほどの殺戮軍団を相手にするのは不可能だろう。しかし、この三人ならばやり遂げるのだ。皆そう信じている。


三人は一夜をここで過ごすことにした。キャンプファイアーを作る。クロエはヤシの実を飲みながら二人と戦いの話をした。


「私がニカラグアでロシア人と戦った時の話だ。あの時私はロシア軍人の暗殺任務も与えれていた。ロシア軍が現地へ送り込んだ拷問専門部隊の指揮官だった。嗜虐性が強イカれた奴だった。アメリカ兵の救出のために潜入した捕虜収容所で見た女の残忍さは異常だった。彼女の使った拷問はアメリカ軍から恐れられた手法だった。電気を使うんだ。もう元の体には戻れないほどのな。拷問に関する話題ではアラブ人も良く挙がる。シリアの作戦で経験した拷問は常軌を逸していた。シリアの秘密警察は無惨にも生命を奪う。生きて捕まりたくない相手さ。私自身もベネズエラで拷問を受けたことがあるが、心の強さが如何に大切か身をもって知った。忘れたい記憶だよ。」


「私も東欧で行われた潜入作戦で危険なことはあったよ。敵側のスパイが協力者に成り代わっていたんだよ。二重スパイがいたんだ。あと少しでこちらの素性がすべて漏れるところだったし、全滅する可能性もあった。秒刻みのやり取りが作戦の成否に関わった。何とか私が取り持つことで事なきを得たけれど東欧各国のスパイ網の広さは侮れない。でもどんなに凄腕のスパイでも才以後の詰めが甘くて私にとっては難なく殺せる相手だったけどね。」


「私だって日本で情報集に当たった時に捕まりそうになった時があるわよ。東京に潜入したんだけれど公安当局に睨まれていたみたいで、上手く立ち回れなかった。背後には自衛隊のスパイ部門が関与していたんだよね。でも肝心の機密情報は入手できたわ。」


皆自分が経験した修羅場の話をしていた。戦闘分野が異なっていても危険極まりないことは同じだ。兵士は戦場で生命を失う可能性があるし、スパイは暗殺される確率が高い。そしてどちらも捕まれば何をされるかわからない。この仕事には命がいくつあっても足りない。それでも彼女達は生き抜いてきた。それが誇りであると同時に実績でもあるのだ。困難な任務をクリアすればするほど評価も上がる。クロエレベルになると伝説や神話だった。


「お前達も随分地獄を生きて来たんだな。私はまだまだこんなもんじゃないぞ。今夜はこの話だ。」


「私もクロエには負けないよ。」


「面白そうね。」


三人は海の音を聞きながら炎の周りで自分の戦歴を語り合った。数少ない安堵の時間に戦友達との会話を楽しむのもまた良いものだ。記録ではなく実際の体験を聞き出せる。


「私はこのミッションはブラックマンバ討伐だと考えていたが、どうやらとんでもない規模の作戦になりそうだ。私一人ではなく歴戦の勇士がバックアップしてくれるのは有難い。お前達のスキルを全部発揮してくれよ。」


「あのクロエにそう言われたらね。全力を挙げるよ。この仕事はとても大きいものだけど君は決して一人じゃないよ。」


「私がこの任務をこなせば更に自分のキャリアアップにも繋がるのよ。だから失敗は許されないの。まあ、失敗でもしたら私達は首を斬られるでしょうけれど。」


「存在を否定されている以上仕方がないことだ。だが必ず成功させるさ。私の帰りを待っている者がいるからな。」


単独で行動する時間が長いクロエには二人との交流は心を落ち着けられる機会だ。絶対に失敗が許されない作戦を上手く運ぶには精神面の要素も重要だ。最低限はこういうひと時も確保したい。


三人の戦闘トークは夜遅くまで続いたが、朝になる頃にはすっかり深い眠りについていた。最新の情報はしっかりとスマホに保存して共有した。ブラックマンバはアマゾン熱帯雨林に要塞を作り組織の再編を図っている。そして急成長しているゲリラサラマンダーを傭兵として雇い、麻薬シンジケートのタランチュラを資金源としているのだ。何とかしなければ。三人で何としてでもやり遂げなければならない。明日はいよいよ新エリアでの行動である。ジャングルはここで一旦少なくなり、海岸の先は標高の高い渓谷や山脈が立ちはだかっている。


ETC.....

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