第11話 アメリカの鷲
アメリカの鷲
クロエにはこの任務を完遂させる自信はある。だが不安だけは払い取れない。死神が待ち構える死の大地へと赴くことになるのだ。クロエの身体には重く大きな胸の他に自信と不安の両方が重くのし掛かる。この任務は生命の危険がある。長年の勘がそう思わせていた。今回は敵が熟練者だ。そしてあのブラックマンバがスポンサーになっている。しかも中南米のゲリラが麻薬組織と手を組んでいるとなると相当手強い相手になる。クロエは悪い知らせばかりにウンザリしながらも装備を整えていく。現地調達がメインだが今回は相手が相手だけに最低限の重装備が必要だ。そして出来るだけ身軽に動ける武器も必要になる。戦闘用の武器装備と潜入用の武器装備を運用し、使い分ける事が重要なポイントだ。用心に越したことはない。クロエは本国から支給された装備を整理して身に付ける作業をしている。
「銃撃戦の準備もしておけ。何が起きるかわからん。要注意だぞ。」
クロエは拳銃の弾薬を確認して腰のホルスターに納めた。アメリカ軍から提供された装備品のBOXは全て高性能のものばかりだった。サイレント仕様も申し分がなく、弾薬も良質な物ばかりだ。クロエが愛用するコルトの銃も存分に揃っていた。ナイフも各種揃っており医薬品も重点的に収納されている。非殺傷武器まで用意されており潜入が楽になる。これなら相当長く戦える。
「わかってるよ。CIAが持ち込んだ爆薬もたくさんある。これで連中のアジトも簡単に爆破できるよ。」
ステイシーは各種爆薬をトランクにセットし鍵を閉めた。CIAの装備は暗殺用の武器が多かったが爆薬も多かった。破壊工作を担当するステイシーのために大量に投入されたのだ。
「これだけあればゲリラ基地もろとも瓦礫の山に出来るよ」
「程々にしろよ。お前なら地下通路も木っ端微塵に出来るだろうからな。ブラックマンバもろとも吹き飛ばすこともあるかも知れん。」
「流石のブラックマンバも爆殺されたらたまらないんじゃない?」
「いや、ブラックマンバはそう簡単には死なん。不死身の死神軍団だ。武器で上回っていても油断はするな。」
「あなたがそこまで言うなら多めに装備を持っていくようね。」
クロエはステイシーとブラックマンバを相手にするのは彼女の破壊工作技術が役立つと考えていた。高度な戦闘能力を持つブラックマンバを弱体化させるにはCIA直伝の妨害が有効なはずだ。火力に物を言わせるだけではなく頭を使って制するのも大切なのだ。相手がブラックマンバの限り慎重に動く必要がある。
「ブラックマンバの動きを把握するのが先決だ。破壊工作を行い出来るだけ連中の戦力を削る。構成員がいたら各個撃破だ。」
「わかったよ。」
クロエの物凄い戦闘能力とステイシーの高度な破壊工作技術が合わさればブラックマンバと言えども苦戦は免れないはずだ。攻守共に行わなければ勝てない。ブラックマンバの精鋭部隊と凶悪なゲリラ部隊を相手に作戦を進めなければならない。強い信念が必要になる。
「クロエはアビゲイルの情報を集めて。私はマヌエラを探す。後無茶はしないでよ。」
「それは大丈夫だ。私の力は過信するためにあるのではない。戦闘のためだ。アビゲイルの手の内はわかっている。その裏をかくつもりだ。」
クロエは経験からアビゲイルの戦略を読んでいた。アビゲイルの黒魔術のような戦法は特筆に値する高度な戦闘能力だ。そして頭脳戦においても並び立てるものはいないとされている。そのアビゲイルが好む戦術はトラップを多用したゲリラ戦術である。破壊工作のプロとしての技を応用して巧みに罠を自作して大量に配置するのだ。ベトナム戦争でベトナム軍兵士やベトコン兵士が使用した戦術に似ているがブラックマンバの物はそれに世界各国の技術を組み込んでおり、原始的なテクニックも付加されている。これに万が一でもハマれば戦闘続行は不可能だ。むしろ死んでしまった方がいいとも思える状況になる。アビゲイルの手法はデジタルとアナログが融合したハイテクトラップが売りだ。このトラップには例えば落とし穴に落ちればその中に仕込まれた電子工作が待っている。手足を切り落としたり皮膚を焼いたり串刺しにしたりと様々だ。このトラップは戦場の広範囲に設置されとても探し出すのは困難である。そして奇襲や掃射などの戦略が合わさるのだ。悪夢である。捕まれば拷問だ。
「言っておくが捕まれば死ぬよりも酷いぞ。」
クロエが脅しのような本当の事を言う。
「承知してる。捕まらないのを祈るばかりだ。」
「アビゲイルはジャングルの拠点を守るように自家製トラップを仕込んでいるはずだ。そしてブラックマンバの兵士が自然に溶け込み近づくものを始末する。赤外線センサーで対象の位置はつかんでいるだろう。」
クロエとアビゲイルの戦闘能力は互角だ。だからこそアビゲイルも直接戦闘するよりはトラップを用いて戦力を削ぐことに尽力してきた。以前の戦場で渡り合ったときはそうだった。今回も自分の存在を察知すればこの方法を使ってくるに違いない。
「まだアビゲイルに接触するのは危険だ。ブラックマンバ兵士の戦闘能力は尋常ではないし、ゲリラ部隊や麻薬組織の関与もある。敵は多い。迂闊には動かずこちらもゲリラ戦術を使おう。基地中心に向かうほどブービートラップは多いはずだ。重要拠点などもそうだろう。そこで爆薬で倉庫や武器庫を破壊し戦力を削ぐんだ。必要な武器装備を回収できる。奴等は豊富な武器を隠し持っているんだろうからな。マヌエラのゲリラ部隊を主に相手にしてブラックマンバは後回しだ。とにかく連中がジャングルに築いた各拠点を破壊しながら潜入し動向をつかむ。出来るだけ戦力を分散させた方が有利だろうな。目的がわかれば敵の殲滅に取りかかる。ゲリラ部隊と麻薬組織を無力化するんだ。それにはお前の協力が不可欠だぞ。全てが終わったらブラックマンバだ。奴等だけは何としても倒さなければならん。」
「オッケー!クロエ。私の破壊工作期待しててね。敵勢力の車両は見つけ次第徹底的に破壊しておくね。それとゲリラ部隊の本拠地は私が叩く。」
ステイシーはいつになく決意を固めて言った。クロエは彼女の覚悟を察して何も言わなかったがおもむろに彼女に振り返り告げた。
「過去は変えられないが、未来を変えることはできる。お前にとっての未来は何だ。飛び立て!アメリカの鷲!」
ステイシーの目が鷲のように鋭く輝いた。彼女は鷲のコードネームを持つ工作員だった。肉食の猛禽類は狙った獲物を絶対に逃がさない。
「マヌエラを仕留めるのは私…」
ステイシーが呟く。
「いよいよジャングルへの潜入か…」
クロエもまた決意を胸に秘めていた。
アマゾンは地球が産み出した大迷宮である。未知の生物が潜む魔境。この秘境のジャングルに蠢く強大な闇に対してちっぽけな存在が立ち向かわなければならないのである。
「私はこれまでの戦闘でアビゲイルの実力はだいたいわかったつもりだが何しろ奴の強さは未知の部分が多いからな。気を抜くことはないようにしろ。」
「わかってる。」
クロエにとって頼もしい相棒の存在はとても嬉しいが相手は悪魔なのだ。クロエは数多くの戦場でで共に戦ってきたマグナムリボルバーをバッグに仕舞い終えるとステイシーも愛銃であるカスタムピストルを仕舞い終えたようだ。
「作戦が始まれば随時連絡する。背後は任せた。存在を消して動くんだぞ。」
「わかってるよ!」
クロエとステイシーは外で待機してある車両に乗り込んだ。待ちから離れると雄大な熱帯雲霧林が待ち構えている。その先に待つものは想像も出来ない程の困難な道程なのだ。
「さて、行くか…」
それでもクロエは先に進む。同胞のため、アメリカのため、世界のため。可能性がある限り戦い続ける。
ジャングルへの進撃はついに始まった。
etc.....
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