第3話 ファイナル

そして、とうとう迎えたポスティング最終日。



残200枚。



最後は3人で決める!



誰も異論はなかった。私の仕事終わりの17時半から開始。



「いくぞ!」



最早、プロといっても過言なきくらい個々がテキパキとした動き。自分がやるべき役割を淡々とこなす。



思えば、慣れない当初。



チラシとマグネットタイプの小さなチラシを持ち配っていた時。



「あっ!」



私が欲張り過ぎてチラシを大量に持っていた時。不揃いな大きさのせいで、手を滑らせ50枚くらい落っことした。少し風が吹いていた事もあり、チラシがセグウェイのように移動する。



それを小走りで追う私。



そんな私を見て息子が笑いながら一言。



「みじめさがハンパねー!」



「アホ!お前も手伝えや!(笑)」



あくまでも悲壮感はゼ~ロ~!(笑)



そんな事も今は良き思い出。






「じゃあママ、その筋行って!」



「分かった!」







でもね。








皆、分かってるんだ。









「パパはその筋!」



「分かった!」










娘が幼い頃、やっかいな病になった事。











その病の副作用でね。










お医者さんから知能に影響が出るかも知れないと言われた事。










でも皆、彼女にそれは絶対言わないって決めたから。











「あ!そこ行ってるわ!隣の筋!」



「分かった!」











何かの成分を血中濃度ギリギリまで高めないと抑えられない症状。









幼い身体にとっては考えられない負担がかかる。









「後何枚?」



「後100!」










でもね。









パパもママも知ってるよ。










彼女は口が悪く、それが原因で君とケンカばかりする。








でもね。









お兄ちゃん。










どんなにケンカしても妹の事、絶対“ちゃん”付けで呼んでいること。









知ってるからね。










君は妹思いの優しい男だって事。










「めっちゃ犬に吠えられたんやけど!」



「パパが怪しい動きするからや!(笑)」











受験に向けて待ったなしなのに、彼女は依存症?ってくらいスマホ触りたくて仕方ない事。











でも、いいんだよ。










「後何枚?」



「後50!」












私立行こうが県立行こうが。












私立行くとお金がたくさんいる?











でも、彼女なりに一生懸命頑張って生きているんだ。









お金なんて生きてさえいれば何とかなる!









生きてさえいれば・・・











無責任な言い方かもしんないけど、なんとかなっちゃうんだよ。











私の人生、綱渡りだったかもしんないけど、そうやって今まで生きてこれた。












だから君が元気で笑ってさえいれば、ただそれだけでいい・・・










命さえあれば・・・











「よっしゃ!ラス1っ!」










症状が酷かった時は、生きた心地がしなかったって妻は言った。










確か、あの時も私が会社の社長と揉めて、突然、クビになった。












“まあ見とけって!”











“私、ず~っとアンタの事見てんやけど!”











君のあの言葉は効いたな~・・・・









そして、大昔の社長に助けてもらい20年振りに単身赴任という形でお世話になった。










だから、私が単身赴任で不在の時。











「アンタ!Yちゃんが意識なくなって倒れた!」










妻からの突然の電話。












“なんやねん!何で俺ばっかりこんな目にあわないかんねん!”














そう言って天を睨みつけ神を呪ったっけ。














小学5年生だった息子の君。












不安でパニックになっているママに「大丈夫!大丈夫だから!」って、不在だった私の代わりに支えてくれた事。











ありがとな、息子よ・・・・










「終わったーー!」



やっと・・やっと戦いが終わった。何なんだろうこの達成感。



このポスティングの報酬は3000円弱。



しかし、その価値。







プライスレス!







銭金じゃない、それ以上の価値は絶対にあったといえる。家族の団結力が前より強まった気がする。



因みに、最後の地区に入れていたチラシ。



何のチラシか配る前に見た。







“ポスティングスタッフ募集!”







誰が誰の為にポスティングしてんねん!(笑)



そして近くの吉野家で家族揃ってお疲れ会を兼ねての夕食。会計3000円オーバー!



なに小さなコップの中で経済回しとんねん!ってね。(笑)











でもね。











妻よ。












ゴメンな、こんな浮き沈みの激しい人生に付き合わせてしまって・・・











「君は仕事なんかしなくていいから!」











そう言って君と結婚したのに約束破るはめになってしまって・・・











でも、これだけは絶対言える。












“あ~楽しかった!っていう人生にしてあげるから!”












でも人の歩幅にダメ出しって。(笑)



あ、全米が泣いたってのも勿論ウソ。





<fin>

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全米が泣いた!ポスティング家族 絶坊主 @zetubouzu

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