第2話

数日間、妻はポスティングのアルバイトに精を出していた。



「パパ!これいいと思わへん?」



夜、妻が私にスマホ画面を見せてきた。



ネットの求人サイトだった。妻が見せた画面の求人は、時間も時給も期間も短期で、妻が希望していた通りの条件。



翌日、早速電話した妻。



「明日、面接行ってくるわ!」



「頑張ってな!」



そのバイトは、市場での果物、野菜等の袋詰め。



そして、面接から帰ってきた妻が言った。



「明日から週5で来てくれって!」



「良かったやん!・・けど、ポスティングどうするん?あれ期間あるし、後何枚残ってるん?」



「・・・後ね、1000枚。」



「せ、せ、1000枚!後、何日で配らないかんのよ?」



「・・1週間。」



「え!配れるん?」



「1人じゃムリかも・・お願い!手伝って!」



「計画性よ!(笑)」



という訳で、1人より2人、2人より3人!



まず息子から。



「いいよ。」



へ~、てっきり金の要求があると思いきや、あっさりOKしてくれた。



きっと、家計がピンチでママもバイトに行くって事になったから彼なりに考えたのだろう。



続いて娘。



「は?ムリ!」



最近、1語か2語しか喋らん人かっ!ってくらい単語でしか喋らない。



という訳で、娘を除いた親子3人。車に乗って早速、ポスティングへ。



地区によって配るチラシが違うらしい。



最初は妻が地図を持ってナビしながら2人が配るという方式でやっていた。



配った家をチェックしながらナビ。



しかし、暫くするとここはどこ?私は誰?的な状況に陥る妻。



夕方から配り始め、段々暗くなり始める。



「ん~変われ!」



業を煮やした私が妻に言った。



先程よりもさらに暗くなる街並み。



そしてしばらくして。



ここはどこ?私は誰?的な状況に陥る私。



忘れていた。妻も私も病的な方向オンチ。



「も~俺がやるわ!」



頼もしいぞ!息子よ!



かくして息子ナビで配り始める私たち。



そもそも、妻がバイトしなければと決心したきっかけ。



娘のYちゃん。



今、中3で来年受験。



なので、ずっと塾に通っている。しかし、先日、模試で信じられないくらいの点数を取ってきた。



とくに数学、英語。



それぞれ9点、15点。



100点満点なのは言うまでもない。(笑)



「え?こんな点数、マンガでしか見た事ないわ!」



「も~だってわかんないんやもん!」



救いは娘があっけらかんとしている事だけ。



妻はやれる事を全てやって、ダメならしょうがないと考え、もう1つ別の塾に行かす事を考えた。



また、この塾代が結構高い。



模試の判定だと、今のままでは県立は難しい。となると私立という事になる。という事は授業料がべらぼうに高くなる。



という訳でバイトしなければと決心した次第。



「そろそろ帰るか。」



辺りは真っ暗になり、腹も減ったので帰る事に。



「今で何枚くらい配った?」



私が妻に問う。



「ん~200枚くらいかな?」



・・後800枚か。



最初のダブル方向オンチナビのせいもあり出遅れた間は否めない。



あらゆる反省点を踏まえ2回目に望む。



その日,私は休日。



息子は大学。なので2人で仲良くポスティング。



字面にするとほのぼのしているようだけれど、結構、悲壮感があった。



間に合うのか・・・



妻も市場のバイトが思いの外、重労働の為、連日のポスティングは出来なかった。



祝日のせいか家に人がちらほらいる。なるべく怪しまれないように立ち振る舞う。



「こんにちは!」



愛想が化け物のようにいい妻。そして傍らには坊主頭の怪しい私。



出会った住人も相反するコンビに戸惑っているようだ。



最近めっきり寒くなった。



私はお気に入りのKグループK社長から戴いたアルマーニの高そうなボアっぽい上着を着てのポスティング。



ブランド物の服を着て、1枚1円のチラシを配る男。



・・・金銭感覚おかしなるわ!(笑)



1つの道路の両サイドに別れてポスティングをしていると・・・



「アンタ、もっと歩幅大きく歩いたら?なんかちょこちょこ歩いてて何か変!」



「は?お前、誰が誰に言うてんねん!何が悲しゅうて仕事の前にポスティングせなあかんねん!(笑)」



「・・はい、ごめんなさい。」



まぁ、悲壮感が漂ってないだけましか。



そして、とうとうポスティング最終日。

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