4-2

 日が暮れて、帰途の中で瀬良が店員に何かを聞こうとしていたのを思い出し、コンビニに寄る事にした。


 レジには瀬良に事情聴取されていた店員が居り、無動が話しかける。


「私の事、覚えてます?」

 

「はい?」


 困惑するコンビニ店員


 瀬良に事情聴取されていた時に無動がやってきたのをを思い出すも恍けて、目線をお弁当などが置いてある棚に目を向ける店員。


「さぁ? 何か買うなら思い出すかも?」


 店員の目線を追い、お弁当などが置かれている棚に向かう無動。


「商売上手な方だ」


 適当にお弁当を手にして、レジに戻る無動。


「これで」


「あぁ、思い出したよ。あんたも居たね」


「それであの時、貴方は瀬良……。中央委員に何を聞かれてたんです?」


「万引き犯の写真を見せられて、間違えないか聞かれたんです」


 眉をひそめる無動。


「で、貴方は何と答えたんですか?」


「犯人はフードにマスク。それにサングラスもしてたから、顔は見て無いって」


「調書通りかぁ」


 唇を尖らせる無動。


「では、万引犯が柴咲さんだとおっしゃったのは……」


「生徒手帳に顔写真が貼ってあったからですよ」


「でしたね」


 無動が苦笑し、頭を掻いていると雑誌コーナーで雑談する大学生の会話が聞こえ、顔を向ける。


「今回の代返ヤバかったんだからな」


「悪かったって。何か奢るからさぁ」


「次は無いからな。教授がスゲェ目で睨んで来たんだから」


「わかったって」


 平謝りする大学生とため息交じりに雑誌をカゴに入れ、店内を物色する大学生。


「あのー、もういいですか」


 店員が背伸びをして、無動の後ろに並ぶ客を見る。


 無動も釣られて後ろ見ると不服そうに並んでいる客達。


「えぇ、もう大丈夫です」


 不敵に笑いコンビニを出て行く無動。


「そういうことか」


「あのぉ、お弁当!?」


 振り返り、口元が緩む無動。


「私ねぇ、コンビニのお弁当を食べるとお腹下すタチなんで食べないようにしてるんです」


「はぁ!?」


 無動が去った後を呆けた顔で見つめる店員を他所に並んでいた客がレジ前にやってくる。



 裁判に必要な調書や書類を鞄から取り出し、開廷時間を待つ無動。


 裁判官席のモニターが映し出され、法廷内の人間が起立する。


「執行委員、起訴状の朗読を」


「……自治区条例及び罰条。放火。刑法第百八条」


「弁護側」


「無実を主張します」


 ため息を付き、無動に嫌悪感を示す高坂。


「弁護人……」


「無動ですが、何か?」


「被告が認めているんだ、無実なわけ無いだろう」


「それはどうでしょう?」


「私は万引きをしましたと、弁護士さんにも伝えましたよね?」


「えぇ、ですが違います」


「弁護人どういう事ですか?」


「えぇ、それを証明したいので、次回は現場で検証をさせて下さい」


「何を馬鹿な!? たかが万引きなんかで……」


「執行委員、口を慎みなさい」


「申し訳ありません」


 裁判官に頭を下げる高坂。


「執行委員の気持ちも分かります。弁護側は何を証明出来ますか?」


「調書に書かれた犯行手順のおかしさについてです」

 

「犯行手順がおかしいから無実だというのか弁護人!?」


「そうです。それが証明されれば柴咲さんの万引きは無実だと証明されます」


 裁判官達がモニターから数秒消えた後に元の席に戻り、モニターに映る。


「良いでしょう。では、手配が済み次第、実施します」


「お願いします」


 柴咲が戸惑う中、休廷され次回に持ち越しになった。



 裁判から数日後、事件が起きたコンビニの駐車場に中継車・映像車・全面カーテンで覆われたワゴン車の計三台が止まっている。

 

 中央委員と書かれた腕章を付けたカメラマンやスタッフ達が中継の準備を終えるとカーテンで覆われたワゴン車から犯行当時と同じ、陸上部のフード付きジャージを着た瀬良が降りて来た。


「これで何が分かるの?」


「やれば分かる」


「その顔、何か分かったのね」


「さあな。それよりそろそろ時間だ」


 時計で時間を確認して、カメラの前に無動・高坂・柴咲・瀬良と柴咲の後ろに中央委員二名がコンビニの前に立ち、裁判長達がモニターに映るのを待つ。


「お待たせいたしました。始めて下さい」


「被告役兼進行を努める瀬良です」


「瀬良さん、お願いします」


「(頭を下げ)かしこまりました。犯行当時はこの格好にサングラスとマスクをしていましたが、進行状の都合によりマスクを外した状態で行います」


「問題あるか? 弁護人」


「まぁ、いいですよぉ」


「こんな事して何が解るんだ!?」


「では、始めます」


 瀬良がフードを被ると、中央委員の一人がやって着てグラサンと瓶のデカビタを瀬良に渡す。


「これは、犯行当時に被告が店内で落とした商品です。中身も当時と同じく空にしています」


 空き瓶を持ったまま店内に入ろうとする瀬良。


「すみません、被告はどの道から来たんですか?」


「(振り返り)はい?」


「だから……」


「妨害するつもりか弁護人!?」


「まさか」


「向かって左側です」


「(右側を指差し)あっち?」


「はい」


「あっちには商店街がありますねぇ」


「それが、なにか?」


「そのジュースはそこで買ったのかなっと思って」


「其処までは…至急、調べさせます」


 軽く片手合掌する無動。


「別に。気になっただけなんで」


 店内に入る瀬良とそれに続く高坂達。

 

 店の外に置いてあるゴミ箱に目をやり、少し遅れてから店内に入る無動。


 店内でレジに立つ店員とレジ前で作業する店員。


「今回の検証にあたり、ご協力頂いている皆さんです」


 軽く会釈する店員達。


「お二人は当時、レジ業務とレジ前の棚で品出しをされていました」


「あー、ちょっと良いですか?」


「なんでしょう?」


「(空き瓶を指差し)それ、何故捨てなかったんですか?」


「そ、それは……」


「調書に書いてあるだろう!?」


「それはそうなんでうがね、邪魔でしょう?」


「後で捨てようと思ったとか?」


「これから万引きしようって人間がそんな気を回しますかねぇ?」


「じゃあ、目に入らなかったとか?」


「外にあんなにデカいゴミ箱を見落とすとかおかしくないですか?」


「なら、ゴミ箱が店内にあると思ったとか?」


「そ、そうです。いつも行くコンビニは中にゴミ箱があったので……」


「そうですか…… どうぞ続けて」


「では、次に被告は軽く店内を一周し、店内に従業員だけになるまで待ったのち……」


 店内をもう一回りして、店員が作業してないもう一つの棚の前で止まる瀬良。


「この棚の前で……」


 空き瓶を落とすがマットを敷いている為、割れず、鈍い音がし、それを合図に瀬良の方を向く品出しをしていた店員。


「容疑者は空き瓶を落としてしまい、慌てて……」


 棚に置いてあるボールペンを手に取る瀬良。

「このボールペンを握り……」


 出口に走って向かう瀬良。


「そのまま逃走しました」


 ボールペンを元の位置に戻す瀬良。


「恐らく、盗む時の衝撃か走り出すタイミングで容疑者の生徒手帳が落ちた事により、早期解決になりました」


「気は済んだか!? 弁護人?」


「ご冗談を……」


「まだ、何かありますか?」


「勿論あります。柴咲さん」


「はい」


「貴方は多重人格障害と医師から判断された事はありますか?」


「い、いいえ」


「では、おっちょこちょい属性ですか?」


「違いますけど?」


「ふざけているのか弁護人?」


「真面目に聞いているんです」


「阿呆らしい」


「弁護人、我々に説明を」


「ではまず、そのジャージ」


 瀬良が着ているジャージを指指す無動。


「わざわざ、背中に母校の名前と所属している部の名前がプリントされているジャージを着たと思うと、フードを被り、サングラスやマスクで顔を隠す」


「そのジャージのおかげで、容疑者を絞る事が出来たんだ。違うか、中央委員?」


「えぇ、まぁ」


「次にその空き瓶です」


「蒸し返しってばっかりだな君は」


「事実が埋れていますから」


「減らず口が!!」


「空き瓶がなんでしょう?」


「店内を回って、ゴミ箱が無いのになぜ、手に持っていたんです?」


「普通、手に持つだろう? それとも君はコンビニの店内に置いて帰るのかね?」


「まさか」


 鼻で笑う無動。


「では、何故、万引きする直前に瓶から手を離したんです?」


「それは……」


「それに、犯行に及んだ後にどうして生徒手帳を落たんです?」


「それはたまたまで……」


「本当はそうせざるを得ないからではないですか?」


「どういう事?」


「あたかも万引犯は自分だと思わせる為に」


 柴咲の目が見開く。


「何故、そんな事を?」


「もう一つの事件に関わっていないと思わせる為ではありませんか?」


「もう一つの事件?」


「えぇ、事件があった時間に我々の学校の部室でボヤ騒ぎがありました」


「ほう……」


「その犯人が貴方ですね柴咲さん」


「な、何を言ってるの!?」


「空き瓶を落として、店員の目を自分に向ける用にしたり、生徒手帳を落として自分の犯行にみせたのもボヤ騒ぎの犯人として停学するより、万引きで停学した方が期間が短い為ではないですか?」


「な、何を言ってるの? 私一人ななのよ? そんな事出来ないわ!!」


「出来ますよ。共犯者が居るんですから」


「そんなの居ないわよ!!」


「もう良いですよ、出てきて」


 ワゴン車から出てきた手錠を掛けられた生徒がコンビニの店内に入る。


 驚く、柴咲。


「なんで居るのよ!!」


 数日前に闇バイトをしていいる所を中央委員に逮捕された生徒が中央委員によって柴咲の前に連れて来られた。


「貴方にバイトの依頼したのは目の前の柴咲さんですか?」


「……」


 ゆっくりと、頷く生徒。


「どういう意味です? 柴咲さん」


「陸上部が許せなかった」


「何があったんですか?」


「あいつらは練習しないクセに選手の座は欲しがった。それは実力では無く私や優亜に怪我をさせて奪いに来た。私だけなら許せた。でも、優亜には才能があった。陸上部の連中はそれを摘んだのよ!! 私はそれが許せない」


 近くで、待機していた車を降り、コンビニに植野が入ってくる。


「私は才能なんか無くても良い。私は先輩と一緒に走れたら、それだけで楽しかったし、また走りたい」


「(両目に涙を貯め)優亜……」


「先輩……」


「柴咲さん、あなたは万引きはしてませんね」


「(頷き)……はい。私は学校の部室に火を付けました」



車で裁判所に向かう途中、柴咲が植野の言葉を思い出し、自分の浅はかな行動を後悔し涙を流す。


「無動さん、私どうなるのかな?」


「そうですねぇ、教唆と放火の二つの罪を犯しているわけですからあちらは自治区追放を要求してくるでしょうね」


「私、馬鹿だなぁ。あんな連中に構ったせいで優亜との時間を失くしちゃった」


「貴方がもし、自分のしたこと後悔しやり直したいと本気で思ってるいるなら私は全力で貴方を守りますよ」


「無動さん……」


 頭を下げる柴咲。



 裁判が終わり、弁護部Dの部室で寛ぐ家中と瀬良の元にお茶と菓子受けを持ってくる茅野。


「これにて一件落着だね」


「そうね」


「お騒がせしてすみません」


 茅野の背後に立つ無動。


「おい、何してる」


「(お菓子を見せびらかし)無動さんもどうです? 今回のお詫びです」


 鞄から教科書を取り出し丸めて筒状にする無動。


「(丸めた教科書で茅野の頭を数回叩き)質問に答えろロリ」


「陸上部の件を聞いて、思ったんです。やっぱり、無動さんは無動さんなんだなって」


「はぁ?」


「無動さんたら、とぼけちゃって」


 茅野は鞄から手紙と写真を無動に渡す。


「柴咲さんは停学処分中なので部には出て来れませんけど、陸上部の子達からの感謝のお手紙と皆で撮った写真です」


「半年の停学に五年間の奉仕活動。重い判決だね」


「それを控訴せずに受け入れたのだから柴咲さんは大丈夫よ」


「そうだね。女子部も男子と合同の一つの部としての再出発。僕らも応援してあげなきゃ」


「小森さんは柴咲さんの事はかなりショックを受けているみたいですけど……」


「うん、そればっかりは当人同士でないと解決出来ないだろうね。君はどう思う?」


 机に鞄を置き、椅子に寄りかかる無動。


「俺が関与することじゃない。それに……」


「それに?」


「解決しないなら告訴でもして俺に依頼すれば寄付分の弁護はしてやるさ」


 手紙と写真を鞄に仕舞う無動。


「また、憎まれ口を。茅野さん、私が言うのもアレだけど良いの?」


「はい。お願いします」


 茅野が頭を下げると内ポケットにしまってあったプリントを取り出し、サインする瀬良。


「もう一度、ここに置いて下さい」


 無動に頭を下げる茅野。


「断る!!」


「……」


「僕はもう手続きしたから」


「一応、私が後見人としてサインしたから、許してあげたら?」


 学園自治区で弁論部・中央委員・執行委員などに所属していた者が退部し、三つの部のどれかに所属し直す場合は他の部とは違い後見人を立てなければ再入部出来ない規則が設けられている。


「またか……勝手にしろ」


「有難うございます」



 その頃、生徒指導館の一室では琴神が面会人から受け取った新聞を読み進めていると、無動の活躍が書かれている記事を見つけ、新聞を握りつぶす。


「まだ、こんな事してんかあの人殺しは!?」

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