5-1

 その日、瀬良が代表となっている中央委員第八部署では大きな揉め事や事件が無く、見回りを終えた生徒達が帰り支度を始めている。


 其処に、ドアをノックする音が二度鳴ると、ドアの隙間から封筒が挟み入れられた。


 近くに居た生徒が封筒を取り、ドアを開け顔を出すが周りには人が居らず、封筒を瀬良に渡す。


「部長、こんなのが届きましたけど?」


「なに、それ?」


「分かりません。ドアを開けたら、もう居なくて」


 封筒を蛍光灯に当て、鋭利な物が入ってないかを確認し、封筒を開けて中に入っている便箋を読む瀬良。


「……嘘でしょ!?」



 早朝、自治区陵南高校では中央委員が写真部の部室であるドアや窓を囲み、瀬良の合図を待っている。


 瀬良と数人の中央委員がドアの前で立ち止まり、瀬良が他の中央委員達にインカムで指示をし終えると、突入までのカウントを取り始める。


 それに合わせて、部室周辺を取り囲んでいる中央委員達も臨戦態勢になり、警棒に握る手に力が入る。


「ゼロ」


 瀬良と中央委員達が部室に突入し、容疑者である北村を確保しようと中央委員達が突進する。


 突入に驚き、固まる北村。


「北村友仁さんですね」


「はい、そうですが……」


 懐から、令状を取り出す中央委員。


「貴方を迷惑防止条例及び、軽犯罪法違反で逮捕します」


 部室内を捜索する中央委員。


「や、止めろ。そこだけは……」


 中央委員数人が抵抗する北村を羽交い締めにする。


「大人しく……しろ」


「やめろ、やめてくれーー」


 中央委員一が北村が使用したいている机の引き出しから盗撮写真のを見つける。


「写真、見つけました」


 他の中央委員がロッカーから現像された盗撮写真の束を見つける。


「こちらにも写真があります」


 瀬良が暗室を見て回ってると、現像中の盗撮写真を見つける。


「本当にこれを北村くんが……」


「こちらにもありました」


 深いため息を呑む瀬良。


「なにやってんのよ」


 瀬良が暗室から出ると、近くに居た中央委員に指示をする。


「中にネガがあるからそれも押収してくれる」


「はい」


 中央委員が暗室に入って行くと、北村が中央委員に連れられて行き、瀬良の前を横切る。


「(小声)……良かった」

 

 一筋の涙を流す北村。

 

 眉をひそめる瀬良。


 写真部の部室前には人だかりが出来ており、中央委員に連れて行かれる北村を見送る2年の野村浩二の姿があった。



 回想


 空き教室内に暗幕が張られ、プロジェクターに映る盗撮された女生徒達の写真を男子生徒達が盛り上がり、次々と写真を購入していく。


 男子生徒達が居なくなり、北村が売り上げをノートに記入し終わると、お金を封筒に入れて懐に入れる。

   ×  ×  ×



 生徒指導館の面会室で北村と対面した無動が調書を閉じ、ノートを開く。


「それは、事実ですか?」


 目が泳ぐ北村。


「ど、どういう意味ですか!?」


 作り笑顔で答える無動。


「聞いてみただけですよ」


「もう、いいですか?」


「もう少しだけ。売ったお金ですが、どれ位でしょうか?」


「一回で20万~30万位だったと思います」


「どれぐらいの頻度で盗撮や販売はやられていたんですか?」


「販売は月に3~4回です」


「盗撮は?」


「……」


「では、いつ頃から盗撮や販売は始めたのですか?


「……」


「これまた、黙秘と……」


 ノートに書き留める無動。


「もう、いいですか。疲れたんで休みたいんですが」


 ノートや筆箱を鞄に仕舞う無動。


「えぇ。大丈夫です。ありがとうございます」


 面会室を出る北村を見送り、無動も出て行く。


 夕暮れ時、生徒指導館の玄関前で無動が出て来るのを待つ茅野。


「この事件も引き受けるんですよね? 無動さんは」


「何が言いたい!?」


「いえ、聞いてみただけです。無動さんはそういう人ですもんね」


 笑顔で答える茅野。


「私、決めましたから」


「何を!?」


「私、無動さんを信じるって。これからは進路や就職に有利とか関係なく、無動さん為に手伝いをするって」


 鼻を鳴らす無動。


「……勝手にしろ」


「はい!!」


 歩き出す二人。

 


 バス停に着くと、無動がバスの到着時間を確認して、茅野に事件のあらましを離すと、深いため息を付く茅野。


「男子はそういう目でしか私達を見れないんですか?」


 無動を睨む茅野。


「何がだ?」


「今までの事件も全部……」


 無動が鞄から新聞を取り出し、茅野に渡す。


「これを見ろ」


「何です?」


「いいから読んでみろ」


 渋々新聞を広げる茅野。


「何々? えーっと……」


「社会面だ」


 不貞腐れる茅野。


「ご丁寧に、どうも」


 社会面を広げる茅野。


「自治区で勤務していた教師……」


「加室は外での裁判で有罪。懲役6年」


 尻窄みに答える茅野。


「刑期は短いですね。それに……」

 

 バスが停まり、乗り込み、席に座る二人。


「模範囚になれば、さらに短くなる可能性もある」


 新聞を無動に叩きつける茅野。


「そんなのおかしいですよ。それじゃあ、新たな被害者を増やすだけじゃないですか!!」


 茅野を宥め、新聞を鞄に入れる無動。


「それが、この国が決めた法律だ」


「被害者の気持ちはどうなるんですか!?」


「法律に気持ちなんてもんは無い」


「それはそうですけど」


 俯く茅野。


「被害にあった伊藤さんや他の女子生徒はこれから先も癒えない傷を負ったまま生活していくのに、加室たった6年で世の中に戻って来るなんて」


「ロリがどう思おうがこれが現実だ。変えたければ政治家にでもなるんだな」


「無動さんはおかしいと思わないんですか?」


「思わないね。刑期が云々より大切な事がある……」


「大切なこと?」


「あぁ。それはなぁ、罪を犯した者が裁かれなければならない。絶対に……」


 一点を見つめ、鞄の持ち手を千切る勢いで強く握り締める無動。


 ただならない無動の様子に少し怯える茅野。


「無動さん、何か怖いです」


 鼻で笑う無動。


「生まれつきだ」



 自治区陵南高校前でバスを降りた無動達は部室に入ると、瀬良がソファーに座り、二人の帰りを待っていた。


「待たせて貰ってたわ」


「おう。で、何の用だ?」


 鞄を机に置く無動。


 鞄を置くとお湯を沸かしに行く茅野。


「北村君に会って、どう思った?」


「どうって?」


「本当に彼だと思う?」


「自白してるし、動機もある」


「お金目的だと本気で思ってる?」


「瀬良はなんで庇う?」


「そ、それは……」


「惚れてんのか?」


「違うわよ……ただ……」


 沸騰したお湯を急須に入れ、お茶を入れる茅野。


「ただ?」


「昔、大事な物をくれたのよ」


 お茶を入れた湯呑を瀬良の近くに置く茅野。


「どうぞ」


「っあ、ありがとう」


「大事な物ってなんです?」


 苦笑する瀬良。


「それは秘密」


「知りたいなぁ」


「ロリ、そんなものより俺のは?」


「うっさいな。はい、どうぞ」


 無動の机に湯呑を力任せに置き、お茶が勢い余って無動に掛かる。


「あっつ、なにやってんだロリ!!」


「あ~ら、ごめんあそばせ」


 近くに掛かっていた雑巾を無動の顔に投げつける茅野。


「これで、お拭きなって!!」


 雑巾を手でキャッチする無動。


「こういう時はタオルだろうが」


「無動さんが顔を雑巾で拭いても変わりませんよ!!」


 右の口角が上がり、眉間に皺を寄せる無動。


「ほぅ、そうか。なら手本を見せて貰おうじゃねぇかロリ」


「はい?」


 茅野の顔を雑巾で力一杯擦る無動。


「うぎゃー。止めろ、やめ、止めて下さい。私が悪かったです。謝ります謝りますから」


 タオルを取り、顔を拭く無動と顔を洗う茅野。


「ふふふ」


 無動と茅野のやり取りを笑顔で見つめる瀬良。


「元通りみたね。二人共」


「イライラさせられっぱなしだ」


「それはこっちセリフです」


 片目に溜まった一筋の涙を人差し指で払い出て行く瀬良。


「北村君の事、お願いね」


 そう言い残し、部室を出てドアを閉め、生徒手帳から一枚の写真を取り出す。


 写真は中学の卒業式で立て看板の前で満面の笑みの家中と瀬良の間で不服そうに笑いながらもピースをしている無動で映ってる。


 写真を見つめる瀬良。


「諦めるな私……」


 写真を仕舞い、歩き出す瀬良。


 首を傾げ、茅野の方を向く無動。


「何だったんだあいつ?」


 首を傾げる茅野。


「私、無能さんじゃないので」


「無動だ。次、言ったらおたふくみたいに顔がパンパンになるまで叩いてやる」


「それ、パワハラで訴えますから」


「こっちは、暴行罪にストーカー規制法及び、名誉棄損で訴えてやる」


 身体を反らし地団駄を踏む茅野。


「いつかギャフンと言わせてやる」


 茅野の後ろ姿を見て鼻で笑う無動。


「さてと、調書でも見返すか」


 鞄から調書とノートを取り出す。


  ×  ×  ×

 

 湯呑のお茶が冷め、舟を漕ぐ茅野。


 頭を掻き、何度も調書とノートを読み返す無動。


「部室に行ってみるか」


 無動が部室を出ようと、ドアノブに手を掛ける直前にドアが開き、家中が入って来る。


「やぁ、まだ居たんだね」


「おう。何か用か?」


 家中が腕時計を見せ、指で軽く叩く。


「もう、下校時刻は過ぎてるよ」


「いつものことだ」


「君はそうでも……」


 寝ている茅野を見る家中。


 深いため息を吐き、調書で軽く茅野の頭を叩く無動。


「寝るなら家で寝ろ」


 慌てて起きる茅野。


「ね、寝てませんよ!!」


「涎の痕を拭いてから言え」


「ヤバッ」


 指で唇周辺を拭く茅野。


「もう大丈夫です。何をすれば?」


 家中を見る無動。


「だ、そうだ」


「(苦笑し)少しだけだよ?」



 外は暗く、三人が蛍光灯の明かりを頼りに写真部の部室に向かっていると、掲示板に貼られてある学生新聞の記事に目をやる茅野。


「無動さん、無動さん!!」


 振り向く二人を手招きする茅野。


「なんだロリ?」


 とある記事を指指す茅野。


「これ見て下さいよ。これ」


 無動と家中が目を向ける。


「なんだ、奨学金の事か」


「なんだって、それだけですか?」


「他に何がある?」


「後藤さんに教ないと!!」


 笑顔で答える家中。


「彼女ならもう申請しているよ」


「ホントですか!?」


「勿論、必要としている生徒には皆申請して貰った」


「後藤さんはまだ学べるんですね」


「勿論。アルバイトの緩和も進んでいるから、今後は退学者は減らせる」


 笑顔で一滴の涙を流す茅野。


「良かったね、後藤さん」


「これで、金を返して貰えるといいな」


 涙目で和真を睨む茅野。


「もう、どうしてそういう事が言えるんですか無動さんは!?」


「何度も、僕に聞きに来てたのに」


「な、何のことだか⁉」

 

 焦る、無動とにやける茅野。


「な~んだ、そうだったんですね。無動さんにも良いとこあるじゃないですか」


 肘で無動を突く茅野。


「辞められたら、弁護した意味がないからだ。それより早く行くぞ」


 足早に写真部の部室に向かう無動。


「照れてるんですか、無動さ~ん」

 

 無動の後を追う茅野と家中。



 無動達が写真部の前まで来ると明かりが点いてるのに気づき、顔を見合わせゆっくり近づく。


 物音が聞こえ、ドアをゆっくり開けて、中を覗く三人。


「泥棒ですかね?」


「金目の物なんて無いだろう」


「真犯人とか?」


「馬鹿馬鹿しい」


 部室のドアをゆっくりと、少し開けて中を覗くと瀬良が捜索し、ファイルに目を通す。


「これも違う」


 深いため息を吐き、中に入る無動とそれに続く茅野と家中。


「なにやってんだ?」

 

 驚く瀬良。


「きゃ!!」


 無動を見て安堵する瀬良。


「もう、驚かせないでくれる」


「それは、こっちのセリフだ」


「瀬良さんはどうして此処に?」


「私? 私は事実を知りたくてね」


「君は犯人は別人だと?」


「そう思いたいだけだろう」


「……」


「どういう事だい?」


 無造作に広げられたアルバムやファイルに目を通す無動。


「昔に、大切な物を貰ったんだと」


「大切な物?」


 頷く、無動。


「だから、犯人は別に居るんだと」


「他には?」


 顔を軽く左右に振った後に、瀬良を顎で指す無動。


 瀬良の方を向く家中。


「他に理由はあるかい?」


「北村君はあんな事が出来る子じゃないわ」


「人間ってのは、どんな人格者だろうと大小に関わらず過ちは起こすもんだ。それを思い込みや、決めつけで判断して、見過ごすわけにはいかないんだよ!! ましてや他人に擦り付ける事なんて有ってはならないだよ!!」


 睨む無動と目を逸らす瀬良。


「そんなつもりは……」


 二人の間に立ち、手を叩く茅野。


「まぁ、今日はこれぐらいで」


「おいおい。今、来たばかりだろうが」


「茅野さんの言う通り。もう遅い。帰ろう」


 舌打ちをして 部室を出る無動。


 茅野の肩を叩き、耳元に顔を近づける家中。


「(小声)ありがとう」


 瀬良に続いて部室を出る家中と茅野。



 学校を出て、夜の並木商店街を無動と瀬良は黙々と歩き、二人の後を気まずそうに歩く茅野と家中。


「何か、四人揃うって久々ですね」


「ロリが出戻りだからだろうが」


「そ、そうでした。えへへへ」


 苦笑する茅野。


「そういえば、茅野さんの歓迎会はしたのかい?」


「歓迎会?」


 眉間に皺を寄せる無動。


 手をポンと叩く茅野。


「私、されてない」


「歓迎してないからな。いつだって退部していいぞ」


「もぅ〜無動さんは」


 二人の間に入る家中。


「はいはい。二人共、抑えて抑えて。じゃあ、行こうか」


「行くって何処に?」


 声が揃う無動と茅野。


 並木商店街幻道店を出て、少し歩くと『幻道』と書かれたラーメン屋で止まる四人。


「ここかぁ」


「そういえば、最近来て無かったわ」


「茅野さんは此処でも良いかな?」


「っあ、はい。私は何処でも」


「なら、決まりだね」


 家中を先頭に残りの三人も店に入る。


 ドアが開くと、中から野菜を炒める音や味噌の匂いが漂い、茅野のお腹の虫が鳴る。


「食い意地が悪いロリだ」


「仕方ないじゃないですか、時間も時間ですし、こんなにも美味しそうな匂いがするんですから」


「ホント、いいコンビだ」


 家中が微笑んでいると店員がやってくる。


「いらっしゃいませ。おや?」


 人差し指で二階を指す家中。


「個室空いてます?」 


「空いてるよ」


 二階の個室に向かう四人。


 席に着き、店員がコップを注文を聞きにくる。


「珍しいねぇ、四人だなんて」

 

 手慣れた様子で水の入ったコップを置いていく店員。


「スペシャルで」


「同じで」


「私は中で」


「はいよぉ。お嬢ちゃんは?」


 メニュー表を探す茅野。


「えーっと」


「辛いのは平気?」


「はい。極端に辛くなければ」


「そう。なら、この子は控えめで」


「はいよぉ」


 厨房にオーダーを通しに行く店員。


「ここはなんです?」


「見ての通り、ラーメン屋だ」


「そういう事じゃないと思うよ?」


 何度も頷く茅野。

 

「ここは、僕らが昔から通っているお店なんだ」


「へぇ~」


「まぁ、最近はそれぞれ忙しくて来れて無かったんだけどね」

 

 店員が全員の味噌ラーメンを運んでくる。


「なんでぇ、なんでぇ、やっぱり元気がねぇのかい? おめぇらは」


 てきぱきと配膳する店員。


「辛気くせぇな。とっとと食って、元気出しな」


 無動と家中の前にモヤシが盛られ、端には極太メンマが鎮座する丼ぶりが置かれ、瀬良と茅野には赤みがかったスープともっちりとした太麺が姿を覗かせる丼ぶりの横に小皿に盛られたモヤシが置かれる。


「美味しそうな匂い」


「おうよ。これはサービスでぇ」


 店員が味玉をテーブルに置いていく。


「嫌な事はコレでも食って忘れな」


 店員が一階に戻る。


「さぁ、食べようか」


「おう」


 家中が割り箸を渡していく。


  ヘアゴムを取り出し、髪を留める瀬良。


「そうね」


「いただきます」


 それぞれが、ラーメンを食べ始める。


  ×  ×  ×


 ラーメンを食べ終えると無動がおもむろに口を開く。


「瀬良は写真部の部室で何をしてたんだ?」


 口の周りを紙ナプキンで拭き終える瀬良。


「事件の手掛かりになりそうな物を探してたの」 


「何かあったか?」


 首を横に振る瀬良。


「……何も」


「無動くんが担当する今回の事件の被告人は卒業式に僕らの写真を撮ってくれた人じゃない?」


「写真?」


「忘れたのかい? 無動くんは高校も同じだからいらないって言ったのを瀬良くんが撮るのが上手い人を知ってるからって」


「うわぁ~、無動さんらしい。それで、写真はどうなったんです?」


「撮ったよ。立て看板の前で。確か写真は……」


 家中が鞄の中に入れている写真を捜す。


「おい、もういいだろう」


 無動がそれを制止させる。


「どうせ、無動さんの事だから寝癖や隈が濃くて見せれないんでしょ?」


「ほっとけ。で、それが今回の事件に何か関係あるのか?」


 眼鏡のブリッジを中指で押し上げる家中。


「いや、どうかな。面識はその時だけだから。ただ、個人的な感想だけど僕も瀬良くんと同じようにあの人がこういう事件を起こすとは思えない」


 左の口角を上げる無動。


「揃いも揃って……」


 無動は瀬良と家中を交互に見渡し、ため息をつき席を立つ。


「お前らどう思うかは勝手だが、俺は自分のやり方をやり通すだけだ」


「ちょ、む、無動さ~ん。待って下さいよ」


 茅野が慌てて身支度を整え、財布を取りだそうとすると、瀬良がそれ止める。


「今日は貴方の歓迎会よ。私達が持つわ。それより空気悪くしてごめんね」


「い、いえ。そんなことないですよ。今度、無動さんとの写真見せて下さいね」


 茅野はそう言い残し、無動の後を追った。


「あの二人、良いコンビになりそうだね」


「そうね。それじゃ、私も行くわ」


「なら、送っていくよ」


「いいわ。まだ、調べないと行けない事があるし」


「僕で良ければ手伝うけど?」


「大丈夫よ。後輩くん達に差し入れを持って行く序でだから」


「それじゃ、誘ったのは不味かったかな?」


「そんな事は無いわ。楽しかったわ」


「それはよかった。じゃあ、気をつけてね」


「えぇ、ありがとう」


 瀬良は店を出ると、スマホを取り出し、電話を掛ける。


「もしもし、お疲れ様。瀬良だけど、告発者の手掛かりは見つかった?」


「······そう。ありがとう。皆にも休むように伝えといてくれるかしら」


 瀬良は電話を切ると、歩き出した。



 翌日、無動は授業に顔を出さずに部室で盗撮された写真の一部をコピーし、見比べていた。


「流石に、ネガは本物が必要だな」


 ため息を付き、頭を掻いてる所に授業を終えた茅野が部室に顔を出す。


「無動さん、早いですね。お茶入れますね」


「……」


 無動が徐にコピーした写真を徐にホワイトボードに貼って行き、接写とそうでない物に分かれている事に気付き、眉間に皺を寄せ唇を尖らせる無動。


「行ってくるか」


 無動は鞄に調書を仕舞い部室を後にする。


「ちょ、無動さん!! 無動さ~ん!?」



 無動は瀬良が居る中央委員第八部署の教室を訪ねた。


「何か用?」


「写真のネガを見せてくれないか?」


「写真なら、コピーしたじゃない?」


「あれじゃ、ダメなんだ。どうしてもネガが必要なんだ」


「それは北村くんが無実になる可能性があるってこと?」


「さぁな。俺は事実を捜してるだけだ」


「事実……。分かった。準備する」


 瀬良がトレース台や、ネガの準備をしていると、無動にコーヒーを出す中央委員。


「どうぞ」


「どうも」


 無動がコーヒーを飲もうと手を伸ばすのと同時に、瀬良が声を掛ける。


「無動くん。出来たわよ」


「お、おう」


  ×  ×  ×


 トレース台の前に座り、ネガを次々見て行き、無動が顔を上げた時には日が沈み教室には瀬良と茅野しか残っていなかった。


 一通りネガを見終え、首を回しながら、周りを見る無動。


「他の連中は?」


 過去の事件調書を読んでいた瀬良が顔を上げる。


「何時だと思ってるの?」


 クロック時計は23時を指していた。


「もう、こんな時間か」


「なにか発見はあった」


「さぁな。それよりネガは見たので全部か?」


「えぇ」


 下唇を尖らせる無動。


「無動くんの事だから接写のネガが無いか確認しに来たんでしょ?」


「気付いてたのか?」


「えぇ。任意で家宅捜査もしたけど接写のネガは勿論、デジカメなどで撮った事も考えてパソコンやスマホに至るまで探したけど、データすら無かった。不自然じゃないかしら?」


「まぁな。でも、立件したのはそっちだ」


「執行委員からすれば盗撮された写真とネガが揃ってるんですもの。立件するには十分よ」


「ま、その通りだな。接写のネガが有ろうが無かろうが本人も自白してるなら必要は無いか。所で其処の寝ブタロリはどうやって捕獲したんだ?」


 顎で寝ている茅野を指す無動。


「茅野さんに失礼よ。北村くんの交遊関係で貴方の耳に入れておきたい事があるみたいよ」


「自称、読モロリが掴むぐらいだ。瀬良も知ってるんだろう?」


「さぁ? 私が知ってる事と茅野さんが知ってる事が同じ事とは限らないわよ」


「なら、瀬良が知ってる事を教えてくれ」


 近くにある椅子に座り、目を瞑り睛明を摘まむ無動。


「そうね、中央委員として話すけど北村くんは同年の野村浩二っていう生徒を中心にその取り巻き達に扱き使われてたみたい」


「同じクラスか?」


「いいえ、北村君は1組で野村って生徒は7組よ」


「態々、別クラスの生徒に手を出しに行ってたのか。暇な奴も居るもんだ」


「それには原因があるの」


 瀬良が北村の入学願書を見せる。


「被告の入学願書がどうかしたのか?」


 瀬良は両親の勤め先を指指す。


「北村レンズ。北村くんの親御さんが経営する会社よ。それで、こっちは……」


 瀬良が一枚のパンフレットを取り出し、無動に見せる。 


「この企業、知ってる?」


「ノムラカメラ? いいや」


「野村浩二の父親が社長をしてる会社で、取り巻き達の両親もこの会社役員ばかり」


「被告の父親とどんな関係があるんだ?」


「パンフレットの最後を見て」


 パンフレットの最終ページに主な取引先として、北村レンズの名前が載ってあるのを見つける無動。


「つまり、ご令息に歯向かうと父親の取引が無くなるから逆らえないと?」


「憶測だけどね」


 ため息とも深呼吸ともつかない息を吐く無動。


「そんな事があるのかねぇ……」


「後は、小日向くんっていう子との関係を調査してるぐらいよ」


「誰だそいつは?」


「今の所、只の同級生よ」


「ふ~ん。そんな事より更衣室からカメラは見つかったのか?」


 首を横に振る瀬良。


「一足遅かったみたい。何も見つからなかったわ」


「そうか」

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