2-2
中央委員部室に向かい調書を受け取る無動と茅野。
「こちらが、調書になります」
「あの~瀬良さんは?」
「部長は別件で動いてます」
「そうですかぁ」
「あいつに何か用でもあんのか?」
調書に目を通し、鞄に仕舞い、首を摩る無動。
「強制性交等罪かぁ……」
首を捻る茅野。
「強制性交等罪!?」
バスを乗り継ぎ生徒指導館まで来ると手続きを済ませ、面会室で被告人を待つ無動と茅野。
調書や筆箱を取り出しながらも不服そうに茅野を見る無動。
「なぜ、此処にいるロリ」
ため息を付く茅野。
「また、それですか!?」
ドアが開き、看守の後に自身体躯には不釣り合いな継ぎ接ぎだらけのジャージを着た後藤が不服そうに座る。
「貴方が後藤理沙さんですね?」
貧乏ゆすりをする後藤。
「えぇ、そうよ」
調書を開く無動。
「学選弁護の無動です」
後藤が着ている古いボロジャージが小さいため、自身のプロポーションが強調され、スタイルの良さに自分と見比べ落ち込む茅野。
「そのジャージはどうなされたんですか?」
「何? これも禁止なわけ?」
「いえ、昔のジャージなので何故かと思いましてね」
「そんなの私の勝手でしょ!!」
「仰る通りです。失礼しました」
「それで、そっちは?」
後藤が下顎で茅野を指す。
茅野を見る無動。
「あ~。あのロリの事は……」
無動が話すのを遮って、茅野が名乗る。
「弁護部Dでパラリーガルをしている茅野です」
「パラリーガル?」
「ロリは無視して構いませんから」
作り笑顔を見せる無動。
「またロリって……」
「では事件の詳細なんですが……」
「あのさぁ……」
「何です?」
「私はいつここから出られるの?」
「容疑を認めるんですね?」
「早く出れるなら何でもいいの」
「でしたら、自治区を追放された時ですね」
アクリル板を叩く後藤。
「はぁ!? ふざけないでよ!!」
「ご自身が何をやったか分かってますよね?」
「たかが援交でしょ」
「たかがって、あんたねぇ」
調書で茅野の頭を叩く無動。
「黙ってろロリ」
渋々、椅子に座り直す茅野。
「何故、売春を?」
「別に……。悪い?」
「悪いから捕まったんですよ」
「皆、やってるわよぉ」
「捕まったのは貴方です」
「私だけが悪いって言うの!?」
「相手側が貴方に恐喝されて、無理やり強要をさせられたと証言されてるんですよ」
「何よそれ。ふざけないでよ!!」
「違うんですか?」
前のめりになる後藤。
「当たり前でしょ。向こうから誘ってきたのよ」
「被害者側から?」
「そうよ」
「では恐喝はしていないと?」
「する訳ないでしょう!!」
「そうですか……」
「で、いつここから出られるの?」
「現状だと、自治区追放日が出られる日になるでしょうね」
アクリル板を叩く後藤。
「はぁ!? 私の話を聞いた?」
「えぇ、聞いてますとも」
「なら、何とかしなさいよ」
「では、動機を教えて下さい」
無動から目を逸らす後藤。
「……遊ぶ金が欲しかったの」
「はい?」
「だから、遊ぶお金よ。遊ぶ」
ため息を付く無動。
「遊ぶお金ねぇ……。他には?」
「ない。無いわよ。全然……」
「本当ですか?」
爪を噛み、目線を合わせない後藤。
「本当よ!!」
「なら、出来る事は限られます」
アクリル板に人差し指の先を付ける無動。
「一つは無実だと訴える」
「そんな事出来るの?」
ニヤリとする無動。
「自供した時点で難しいでしょうね」
「はぁ!? からかってんの?」
鼻で笑う無動。
「事実ですよ。そして、もう一つ」
アクリル板に中指の先を付ける無動
「なに?」
「無罪を主張する事です」
ポカーンとする茅野と後藤。
「無動さん」
恐る恐る手を上げる茅野。
アクリル板に映る茅野に気付いて顔を向ける無動。
「なんだロリ?」
「無罪と無実は違うんですか?」
「辞書で調べろ。無能ロリ」
「私も知りたいんだけど?」
後藤の方に顔を向ける無動。
「それはですね……」
鞄の取っ手を力一杯握る茅野。
「なんで私にはあんな態度なのよ」
茅野を気にせず話を進める無動。
「無実はその事実が無い事で、無罪は犯罪を認定する事が出来ない事を言うんですよ」
「解ったような解らないような」
「まぁ、その辺は任せて貰って」
調書を鞄に仕舞い立ち上がる無動。
「では、今日はこの辺で……」
「なに? もう帰んの?」
「そのつもりですが、何かありますか?」
「だから、私をここから出せって言ってんでしょ!?」
頭を掻く無動。
「先程も言いましたが、一番早く出るのは執行委員の求刑を認めて学園自治区から出て行く事です。それならすぐにでも出れますよ」
「そんなの出来るわけ無いでしょ」
「でしたら、裁判が終わるまで此処に居るしかありません」
「ふざけんな!! 私は早く出たいんだ」
椅子に座り直す無動。
「何かあるなら言って下さい。協力出来る事はしますから」
舌打ちをする後藤。
「あんたらに頼みたい事があんの……」
茅野も座り直す。
今にも崩れそうなアパートの前に部屋の前に茅野と両手一杯に買い物袋を持った無動が立ち尽くす。
メモ用紙を見ながら部屋番号を確認する茅野。
「ここみたいですよ」
「何故、俺が荷物持ちなんだロリ」
満面の笑みを見せる茅野。
「私、女性ですから」
鼻で笑う無動。
「精々、トロール谷に住む玉ねぎ頭か個人商店で漫画を描いてる妹が良い所だな」
「無動さんはみすぼらしコートと緑色の広つば帽子でも被って、野宿してるのがお似合いです」
「色々と名言を残せそうだな」
したり顔の無動と地団駄を踏む茅野。
茅野の服を軽く引っ張る使い込まれたランドセルを背負っているには小さな体躯な後藤姫乃と姉の手を握るさらに小さな体躯の後藤元気が無動と茅野を見上げていた。
「お姉ちゃん達、だれ?」
茅野が預かった鍵でドアを開け、姫乃と元気が中に入り、靴を揃えて手を洗う。
「どこぞの誰かさんとは大違いだな」
「ご自身の事を言ってて悲しくなりません? どこぞのだ・れ・か・さ・ん!?」
干してある洗濯物を取り込もうと必死でジャンプする姫乃に気付き、慌てて駆け寄る茅野。
「いいよ、いいよ。お姉ちゃんがやるからちょっと待って」
机の上に置かれている大量の請求書の封筒に気付く和真。
「お姉ちゃん、ちゃんとお友達いたんだね」
洗濯物を取り込む茅野を見て目を輝かせる姫乃。
「っえ!?」
ガタが来てる室内を見渡す無動。
「どういう事だ?」
茅野の後ろに隠れて顔だけ出す姫乃。
「怖がってるじゃないですか」
姫乃に近づき、しゃがみこみ両手を上に広げる無動。
「食っちまうぞーーーー」
泣き出す姫乃。
無動の頭を叩く茅野。
「泣かせてどうすんですか!?」
姫乃を宥める無動。
「あのお兄ちゃん、おつむが弱いの。ごめんね」
ゴム鉄砲で無動の顔にゴムを飛ばす元気。
「痛い、痛い。痛いから止めろ」
攻撃を続ける元気。
「お姉ちゃんを虐めるな!!」
「謝る、謝るから止めて下さい」
「止めろって、言ってるだろうが」
無動が元気からゴム鉄砲を取り上げ睨みつける。
姫乃と元気が怯えていると無動の頭がずしんと重く響いた。
「ちゃんと、謝って下さい」
何事かと上向くと茅野が右手を擦っていた。
「どんだけ、石頭なんですかむどうさんは。殴った私まで痛かったですよ」
「人様に暴力を振うなって、親御さんから教育されなかったのかロリ?」
頭を擦る無動。
「私の事より、この子達に謝って下さい。そんな事も教育されなかったんですか? 無動さんの親御さんは!?」
ばつが悪そうに頭を下げる無動。
「怖がらせて悪かった」
「よろしい。姫乃ちゃんも許してくれる?」
頷く姫乃。
「さっきの友達云々って何だ?」
怯える姫乃。
「怯えちゃってるじゃないですか」
無動を睨む茅野。
「もう、何もしてないだろうが?」
「お姉ちゃんに教えてくれる?」
「お姉ちゃんねぇ、いつもお家の事ばかりしてるの」
「そうなんだ」
「うん。ごはんを作った後はすぐ何処かに出かけるの」
「出かけるって何処に?」
首を横に振る姫乃。
「わかんない。でも、姫乃と元気の為って言ってた」
「そっかぁ」
「休みの日はいつもひー達と一緒に居るからお友達いないと思ってたの」
「そっか」
「お姉ちゃん達、違うの?」
「お姉ちゃん達はお友達同士だよ」
「ひー達ともお友達?」
「もっちろん!!」
満面の笑顔で喜ぶ姫乃とお腹が鳴る元気。
「元気くんお腹減った?」
「うん」
「ちょっと、待ってね……」
買い物袋からプリンを取り出す茅野。
「これ、な~んだ?」
目を輝かして喜ぶ姫乃と元気。
「プリン!!」
「正解。これを食べて待っててね」
「うん。待ってる」
「元気!!」
姫乃が蓋を開けようとする元気を制止し、慌てる元気。
「っあ、そっか」
姫乃が両親の写真と位牌が置かれている棚にプリンを乗せると、元気も後に続き、二人で手を合わせる。
「食べよっか?」
笑顔で元気に問いかける姫乃。
大きく頷く元気。
「うん」
二人を微笑ましく見つめ洗濯物を畳む絵里。
「おい、ロリ。ここは任せる」
「はい?」
部屋を出て行く和真。
「ちょ、ちょっと、何処に行く気ですか?」
かかとが踏みつぶされがボロボロの子供靴に気付く無動。
「気になる事がある」
部屋を後にし、スマホを取り出し電話を掛ける無動。
「ちょっと、調べて欲しいんだが」
日が暮れて星が輝き始めた頃に自治区陵南高校の弁論部部室に無動が戻ると『内容証明』と書かれてる封筒が部室のドアに挟まれているのに気づき、差出人を確認すると『旭丘高校弁護部』と明記されている。
ソファーに腰掛け、封筒の中身を確認する無動。
「……ッやられた」
苦虫を噛み潰したような顔をする無動の元に段ボール箱を抱えて歩いてくる瀬良。
「はい。これが自治区内で起きた売春関係の資料って、どうかした?」
無動が読んでいた紙を瀬良に渡す。
「先手を打たれた」
無動から紙を受け取る寸前、テーブルに置いてある内容証明が目に入った瀬良。
「内容証明? なんの?」
「今回の被害者側が弁護人を立ててきた」
「それで?」
無動からの紙を受け取り、目を通す瀬良。
「この裁判が終わるまで、俺が被害者に接触するのを禁ずるだと」
一通り目を通した瀬良が紙を封筒に入れて、人差し指で封筒を軽く叩く。
「でも、これは向こうの言い分。でしょ? 正式じゃない」
「そうなんだがな、わざわざ藪から蛇を出す時間が勿体ない」
「じゃあ、被害者の証言はどうするの?」
不敵な笑みを浮かべる無動。
「目には目を。歯には歯をだ」
「それなら大丈夫そうね」
瀬良が持って来た段ボールに目をやる無動。
「あれが頼んだやつか?」
「えぇ、そうよ。最もこれは一部だけど。似たり寄ったりの事件は精査して、ここまで減らしたの」
「そんなに多いのか?」
「氷山の一角って所かしらね」
「氷山の一角ねぇ」
時間を確認する瀬良。
「もう少しだけ、此処に居させて貰うわ。手伝う事があれば言って」
瀬良が持って来た調書や資料を読み始める無動。
「何かあるのか?」
「こういう事件があった以上、巡回はしないと……」
「中央委員は大変そうだな」
ゴミ箱に空のPTP包装シートを見つけ、無動に気付かれないように拾ってポケットに入れる瀬良。
「いつ来ても汚いわね。ここ」
「大きなお世話だ」
「時間まで掃除してあげる」
立ち上がり、物を片付け始める瀬良。
段ボールに入った調書の山に深いため息を付く無動。
「自治区の闇だな。コレは」
頭を掻く無動。
「そうね。私もそう思うわ」
部室をノックし、入室する家中。
「やぁ、お二人さん」
「家中か。何か用か?」
無動と対面に腰を下ろす家中。
「進捗具合がきになってね」
「それなら見ての通りだ」
読み終えた調書を置き、別の調書を手に取る無動。
「経済的理由は学生の力じゃ厳しいよね」
俯く家中と掃除の手が停まる瀬良。
「そもそも、奨学金制度とかないのか?」
「あるよ。でもね……」
奨学金のプリントを見せる家中。
「
奨学金のプリントに印字されている貸付限度額を指指す家中。
「ほら、この金額だと月謝の1/5程度にしかならない」
「ねぇ、ここや自治区内独自の制度とかは無いの?」
空いてる一人用のソファーに座る瀬良。
「無くはないけど、定員は一人とか二人だからね」
肩をすくめる家中。
「それじゃあ、意味がないな」
「そもそも、運営側がこういう生徒達を学生としては見て無いんだろうね」
鼻を鳴らす無動。
「それでよく『世界で活躍する人材の育成』なんて大儀を掲げたもんだ」
『……』
三人が押し黙っていると、無動のスマホから着信音が部室に響く。
茅野の表示され、怪訝に思いながらもため息を付きながらもスマホを手に取る無動。
「何の用だロリ?」
「どこにいるんですか!?」
茅野の大きな声で思わず耳からスマホを放す無動。
「なんで、俺の番号を知ってる!?」
「そんな事はどうでも良いんです!!」
怒りが収まらない茅野は尚も大声で続ける。
「良くはないだろう」
「会長に教わりました!!」
家中を睨む無動と対照的に笑顔を見せる家中。
「それで、何か用か? って、その前に大声で話しかけるな。うるさい」
「それは、すみませんでした」
茅野の声が戻り、耳を傾けた無動にまたしても茅野が大声で話し始めた。
「お金、返して下さいよ!!」
空いてる片手で右耳を塞ぐ無動。
「またか……。金? なんの事だ?」
TVに夢中の二人を見つつキッチンで口を手で覆いながら話す茅野。
「夕食分と光熱費に水道代」
「はぁ?」
「後藤さんの家、全てが止まってるから私が払ったんです!!」
ニヤリと笑う無動。
「良かったじゃないか。溜め込むより使った方が経済が廻る」
「私にも生活があるんです!!」
「悪いがな、金なら無い!!」
電話を切ろうとする無動のスマホを取り上げ変わる家中。
「もしもし、茅野さん」
「あれ? 生徒会長さん?」
「話は聞いたよ。領収書はある?」
「え? はい。ありますけど?」
「なら明日、それを持って来て」
「はい?」
「学選弁護の依頼費から出すから」
驚く無動。
「本当ですか!?」
スマホを奪おうとする無動を抑える瀬良。
「勿論」
「ありがとうございます」
スマホを切る家中。
家中からスマホを奪い取る無動。
「なに、勝手な事言ってんだ」
「君が立て替えるかい?」
舌打ちをする無動。
「私はそろそろ行くわね」
「聞きたい事があるんだが?」
「なに?」
「調書は女子生徒ばかりなんだが、男児生徒はどうしてる?」
「男子生徒に限った事じゃないけど、恐喝や窃盗。それに闇バイト。多すぎて把握出来て無いのが現状ね」
口を尖らせ、ため息を付く無動。
「分かった。気を付けろよ」
部室を出て行く瀬良。
「おい、優一」
「なんだい?」
「被告の経済状態分かるか?」
「流石にそこまでは分からないけど、通学手当は貰ってはいないと思うよ」
「はぁ? なんで?」
「多分、定期代が掛かるからじゃないかな」
「あの家から此処まで結構な距離だぞ」
「そうだね」
「そこまでひっ迫してるって事か……」
「確証はないけどね」
「被告に会って確かめるしかないか」
鞄に荷物を詰めて立ち上がる無動。
「今から向かうのかい?」
「裁判まで時間がないからな」
「そうか」
二人して部室を出て、鍵を閉める無動。
「鍵は僕が返しておくよ」
「あ、あぁ」
鍵を渡す無動。
「この裁判、宜しくね」
「やれる事をするだけだ」
「健闘を祈るよ」
「じゃあな」
「あぁ、気を付けて」
無動を見送る家中。
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