夕方五時のトム・ソーヤ
若菜紫
第1話 夕方五時のトム・ソーヤ
「ママに関係ないよ」と言いサンタさんからの手紙を隠せしわが子
ため息と共にひとりで口ずさみ背中見送る「スタンド・バイ・ミー」
ポップコーン残るテーブルリビングで我に返りし月曜の朝
元ゆり3組を忘れし三人が並びて歩く元通園路
掌に蝦夷蟬乗せて走り寄るラジオ体操初めての朝
帰り道今日初めての蟬の声一筋響き空が近づく
我が面を打たれしような幻より覚めればせり合う子らの姿が
面一本取りし瞬間シャッター音鳴らさぬようにただ見つめたり
コロナ前食みしドーナツ同じ席かつての幼子今は少年
暗闇を抜けドーナツを頬張りし幼子すでに少年となる
四時起きの母を案じて子のくれしグミは唯一ハートの形
「嫌いじゃない」どころではない我に言う「オレ『だって』別に キライじゃないよ」
「シートンはひどいよ ロボがかわいそう」「そう言うKも 人間なのよ」
「オレがやる。座っていろよ。」食パンを浸す卵よ親子の歴史
舌打ちをする秋の虫宿題に彩られし夏追い越してゆく
秋風に小さく凛と咲き出でし青き朝顔少年の夏
五倍粥すりしすりこぎ小さき手に握りて作る誕生日ディナー
鍋ボールまな板皿に囲まれてアーモンド刻む手のたどたどし
久々の集いサブレを頬張りてギャング・エイジは元ゆり組に
再会の夜や三年の時止まり変わりしものは孫の背丈のみ
「Aの友達のカラスが駆除された」ぽつりと目を「シートン動物記」に
コロナ禍の友情転校せし友のイニシャル残る白い紙コップ
公園に若葉煌めく始業日よ桜を撒きし子は五年生
「最近はどうなの」と母の恋を問う「リア充嫌いww」をしばし忘れて
明けぬれば一際高き蝉の声湿布貼りつつ彼方に聞けり
子の膝が治りて嬉し蝉時雨求めて一人緑道をゆく
「映すな」とレンズ避けられし時のためにわかゴジラファンを我は目指せリ
幼子とギャング・エイジともう一つ三つ首竜になる淡路島
「卵焼き大好き」今は「オレのほうが上手になった」と言ひし我が子よ
贈られし手縫いのケース縫い目より覗けるペンとお喋りの声
そう言えば去年が最後サンタさん役で二度目に食みしケーキは
お弁当火傷の痕が薄くなり園に通ひし日も遠くなる
「回復もきっと近いさ」と帰り際ライトアップに優りし笑顔
それぞれの恐竜抱きてそれぞれの部屋に分かれて久しかりけり
「それいいじゃん」子に褒められしエプロンを洗い終えれば空気が香る
店じまい不意に渡されしいちご飴握るその手に秋雨ぞ降る
「出来たらば観たい」テレビを見送りて二人黙々駄菓子食む夜
病床を我が子が出て財布より消えしおみくじ「忘れ物出る」
ゴジラ・フェス前方の列の我が子より届きしLINE「イージャン」スタンプ
夕方五時のトム・ソーヤ 若菜紫 @violettarei
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