シンシア

第1話

　大型バスは、乾いた微粒子の砂を巻き上げ、永遠とエンジンをフル可動させてヨーロッパのトランシルヴァニアの山道を走っていた。

　曲がりくねった、ゆっくりと傾斜がかった登り坂を　ゆっくりゆっくりと上がって進んで行く。

　太陽の日差し、恐ろしいばかりの断崖絶壁、そこに有る緑をベースにした草木、それらは、人間の手を一切加えていない自然の美術絵画を見るようだった。

　その怪物に行き成り、飲み込まれ、日陰の暗い世界に入った。

　すると乗客の人達が、一斉に声を上げた。

「うっわぁー、寒いっ」みんなリハーサルをしたように身を縮め、肩を寄せ、周りや上の方を見渡していた。

　車内の一人が、窓の外を見上げて、また顔を車内に戻し喋った。

「気持ちの悪い山だな」

　中の女性客は、言葉を失っている様子だった。

　男女問わず、各々の心の中に不安感や恐怖心が生まれる。　

　そこにタイミングよく、目がパッチリしたぽっちゃり型の元気なバスガイド　斎藤由美　二十四歳が、ハキハキとした口調で説明し始めた。

「ここが、ドラキュラ城近くのトゥルヌ・ロシュ峠でご座います」

　窓の外に首まで出して、見上がる乗客が多く成った。

　ふと、この場面を写真に撮っていたら、何とマヌケ何だと、山を見た後で車内に戻った相沢　健　十八歳は、心の中で思い、顔を少し緩ませたのだった。

　相沢　健は、身長百八十五センチメートルの中肉中背型　短めの頭髪に油が付けられ、逆立ったハリネズミみたいなオシャレな不良っぽさを漂わせる、行動派の男だった。

　そして、有難い事に明星高校を卒業し、仲間で何か卒業祝いをしないかと、遊んでいる最中、みんなで話しをしている時に、騒がしい、目まぐるしい街の中で　偶然に目に止まったのが、上　四分の一が、真っ青な宇宙天体絵、下　四分の三が、真っ赤な構図に真っ白い吸血鬼の牙の旅行会社のポスターだった。

　相沢　健は、瞬間的に閃いた。　これだと。

　少し前のアメリカの超話題作ホラー映画 『フロム・ダスク・ティル・ドーン ∞ （無限）』を学校をさぼって見に行った。　その帰りに立ち寄った本屋で見た『ドラキュラの全貌』内の一ページの写真を見て驚愕させられた。　

　その時の衝撃的な記憶が、頭に焼き付いていた。

　このツアーを卒業祝いの旅行にしようと。　それも一人で。

　何故ならば、仲間は、このツアーに全然関心を持って無かったし、自分自身の社会勉強の為には、一人で経験をする事が、一番良い事なのかなとも考えていたし、世界の不可思議な事にも少しばかりは、関心を持っていたからだった。　（仲間と卒業旅行と、一人で旅行かな〜！？　厳しいな〜……）(・・;)

　大型バスは、謙信観光の『怖いものみたさ、ドラちゃんに逢いに行こう』ツアーの総人数　∴六十名を乗せて、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』のモデルとされるブラン城、ポエナリの展示館、ダークネスワールドへと向かって車を走らせていた。

　スナゴウの民間伝承でドラキュラの墓と云われる教会堂で、ツアー客が国内に入ってから、《死人達！？の何語だか解らない ざわめき が起こった》。

　風がコマ送りをするように　ゆっくりと地面の砂を巻き上げ、建物の周りを舞い、壁面にまとわり付き、壁と壁面の接点や接面に、若者が好んで描くような色鮮やかなスプレーと砂アートで、立体的で、右上がりの文字を創り出して来ていた。

　そこには、こう書かれていた。

《Welcome to TRANSIL VANIA （ようこそ　トランシルヴァニアへ）》と、アート文字が不気味にハデに色を点滅発光　又は、ナグリ書きされ、変色、部分変換、そして荒々しく削り取られて行く。

　濃茶の建物ダークネスワールドに、ドンドンと吸い込まれて行った。

　客は、目の前の黒いカーテンの部屋で五感の中の視覚を完全に奪われた。

「キャーッ」

「オォーオッ、オッ、オッ」

「！？何もみえな〜いっ！？」

「コ〜ワッ！？……」

　両手を伸ばして指先だけで探り始める。

（カーテンらしき物……！？）

　掻き分けて出る。

「う〜わっ」

　突然の強い光が両目を突いた。

　瞬時に目を細める。　右掌で光を遮る。

　カーテンから出ると先に出た人達が、こちらを見て楽しんでいた。

「いや〜っ、参りましたねっ」

　健もグループに加わり、気軽に見ず知らずの人と会話をし始めていた。

　そして、後から出て来た人々を笑顔で向かい入れた。

「うわ〜っ！？」

周りの色々な場所で、同じ声が上がった。

　ダークネスワールド内は、白やゴールドをベースにした中世の白を思わせる、高級感のある造りに成っていた。

　美術館と言っても、いい程だった。

　見栄えのする所で、天井絵、ステンドグラス、古めの地球儀、技術が高度な彫刻があった。

　壁や柱には、『ヴィーナスの誕生』や『最後の晩餐』や『バベルの塔』などの西洋絵画や聖書絵画が、そして中央付近には、戦国時の戦っている等身大の人形、隣には、拷問の地獄絵図の人形館、また隣には、ドラキュラに例えられた人物達の等身大の彫刻像や頭部だけの石像など歴史物件が、圧倒されるように、凝縮されて飾られて置いてあった。

　そして目的の城は、壁を隔てた一番奥の薄めの三重の黒いカーテンの、その奥に見られるように成っていた。

　健は、周りを全く気にせずに人の間をぬって一番始めに『復元されたドラキュラ城』を見に向かった。

　未知の扉、薄黒のカーテン内に恐る恐るゆっくりと歩を進めて行く。　そして……抜ける。

「オー、オオーッ。　スッ、凄いじゃん……ヘーッ」　

　そこには、右にドラキュラ城原寸大の廃墟の立体模型が、左には、本物のドラキュラ城跡の土と写真が置かれていた。

　目が止まっていた。

　魅了させられる。

　鼓動が早く成る。

しかし、時間の経過と共に脈拍が落ちていく……冷めて行く……黒い瞳孔が動く。

「ふ〜ん……。　トイレに行ってこ〜とっ」

　向きを変えて歩き始めた。

　道中　不意に非常口のノブが、目に止まった。

「開く訳が無いよな〜……！？」

　カシャッと音がした。　押してみた。

「へ〜ッ、開くんだっ。　不用心だな〜、ここの人達は」

　周りを確認してから、サッと外に出て、そして扉を静かに閉めてから、ゆっくりとタバコに火を点けた。

「あ〜うめ〜、フ〜……」　

　室内のドラキュラ城の土が、突然、生き物みたいに盛り上がる。

　コロコロコロ、ザザザザー、ポトポトポト〜……！？

　そこには、頭に曲がった二本の角、焼け焦げた体と傷口から覗くワインレッド色の赤い血、折り畳まれた怖げな翼、槍を付けた黒い尾、そして細かく充血した目があった。

　小さい動物のような悪魔が誕生し、立っていた。

　ポキッ、ポキポキッ、ポキポキポキッ、首を左右に曲げ、翼を広げ、飛び立つ。

「ああ〜、オオ〜、おもっ、少し休み過ぎて太った〜！？……」

　顔を下に向け、自らの体を見ていた。

「ダイエットをしないといけないかな〜、さ〜、さっさと仕事仕事」

　そう言い残して小人悪魔は、コウモリに変わり、スマイルマーク模様？　エクスクラメーションマーク模様？　タロットカード模様似？の三重のホログラフィーの模様にゆっくりと飛んで抜けて消えて行く。

　そして外から、帰り、隊列から、離れた健を捜して急襲したのだった。

　既に右首には、一mm程の丸い跡が二つ付けられていた。

　片方には、ピンクをベースに緑とオレンジの葉を散らしたような模様で、宝石で言えばオパールと　　　もう一方では、鮮やかな青をベースに緑の小鳥と濃い赤色の根っこ模様のトルコ石を想像させる物があった。

　六十度ずつ二つの円の左回りから、黒くカウントダウンしていく。

「キュキュッ」バタバタバタという音を残す。　チクッ。

「うわっ……！？」

　反射的に首を押さえた、そして掌を確認をしてから、健は、崩れるように床に倒れた。　

見周りに来た運転手や由実さんや展示館の人達などに声をかけられ、腕をまわして支えられてバスに乗った。

　そして酔い止めの薬を飲まされて爆睡した健だった。

　山は、雪が溶けつつあり、墨絵のように成っていた。

　休みだというのにウォーキングをしている人が多く、目に付くという感じだった。　

　人工二十七万四千人、日本海側の陽炎県稲穂地方の多可羽尾という健康推進都市をアピールしている街だった。　

　全国的には、夏・熱帯　そして冬・豪雪地域で知られていた。

　周りの山には、妙高山、火打山、焼山などが見え、名所として日本スキーの発祥の地である場所にレルヒ像、また戦国武将の上杉謙信像があった。

　そして中央付近に日本三大夜景である三千四百本の桜　ソメイヨシノが城の周りに植えられていた。

　夏には、外堀で蓮（はす）が、周りを固めていた。

　この桜　今は、ツボミながらも満開に成ると九十万人もの人を魅了し、地域や街を活性化させていた。

　お花見の時期に間に合わせるかのようにして、昔からの飲み屋街と新しい駅との間に〔レスティングガーデン（癒やされる街）〕『ニースリーデポン』が建てられ、街の繁栄が期待されていた。

　新たなるチャレンジ、つまりデパートとショッピングモールを足して良い所だけを極力　生かして　土地がない分、上に伸ばしたハイブリッド型建造物だった。

　四月二日　日曜日　十二時五十分　仕事時間！？や休み関係！？、人間関係！？等が、気に入らず、仕事を辞め失業中の身の健だった。

　周りには、求人情報誌、ノートパソコン、マウス、辞書などが整理！？されて置かれてあり、十八インチの小さなテレビや目覚まし時計もあった。

「フ〜、ここ迄にしておこ〜とっ」

　テレビのボリュームを上げる。　　本を読んでいたのだった。

　そして、ゆっくりとくつろいで座椅子にもたれ掛かっている時だった。

「んっ、お〜、自衛隊か、花見の時期か〜いいね〜シャバは、活気があって〜……」キ〜ン！？　

「また耳鳴りか〜……！？」

　このところ度々起こり、気に成っていたのだ。

　周りの雑音が少しずつ消されていく、そして全ての音が消された。　バリンッ、ミシッ、目覚まし時計のガラスが割れた。

「うっ……！？」

心臓に行き成り槍が、突き刺さったような痛さを感じた。

　手、腕、体、足、全機能が動かなく成った。

「あ〜…た・す・け・て……」

ガチャンと強制的に両目が閉ざされた。

「フフフ〜、五月蝿いんだよ……蘇らせて貰ったぜ」

　体は、蒼白く成り、体が凹凸を繰り返され、赤と緑と黒のしずく模様の瞳孔に成った。　目の周りが、濃い紫色でただれていた。

　室内も部屋の物と地獄のような尖った山々、真っ赤なマグマ、白や黄色に噴霧されたガス等が、入り混ざって見えていた、違和感のある景色。　

　ニューモンスターマスターカードが何処からともなく舞い出て来てパソコンに侵入した。

……ピコッ……。

　手や腕が千手観音に見えるくらいに高速でキーが、叩かれる。

『実行』　インターネット！？が繫がった事により、現代と暗黒の世界が開通された。

「ゴーアーキーオーアー……」

　極端な高い声と低い声の入り混じりで喋る。

「我は、食人鬼ラミアの末裔、新時代を創る。　《魅力》で獲物を捕らえる」

「エラ〜ヤッチャ〜、エラ〜ヤッチャ〜、ヨイヨイヨイヨイ〜」

　シンシアが周りで派手な日本の浴衣を着て踊る七cm位の小人妖怪型悪魔を　睨み、口に指を立てて止めた、また無音で踊り出す。

「シ〜……」

「いわゆるサラブレッド《魅惑のカリスマ》、《モンスター王》」

「通称　シンシア　マカバイ　ラミア。　全てを喰らい尽くす」

　左掌を力強く握り締める。

　母と子と妖怪！？地獄！？インターネット内と現在の会話だった。

　両目が上下、左右！？、右斜め！？、左斜め！？に、そして、また上下にまぶたが開く、首を振り、全ての画像を変えてゆく。

　タイマーのガラスも戻り、現実の世界に戻る。

「うっ、お〜おっ、俺、寝たっ、疲れているのかな〜。　それとも季節的なものか〜！？　もしかしたら、俺、三年寝太郎！？」

　ボケーとして目をパチクリさせた。

　一年経って一皮剥けた元高校の不良達が五人、居酒屋『竜宮城』でお花見と称して飲み会を始めてから一時間半。　既に出来上がっていた。

　みんながドリフの赤鬼ルック風！？で途切れ☓２　いや漫才風！？に喋り合っていた。

「あ〜あっ、酒は、上手いし、いい仲間だし、楽しいし、これって最高の贅沢っ」

「ハハ〜、あったりめ〜だよ、このメンバーだぜっ！？」

「こんな可愛らしい不良いないぜっ！？」

「ウエ〜ッ」みんなが吐いている真似をした。

「趣味　悪過ぎ〜っ、よく言うよ〜っ！？」

「な〜な〜、隣のビルくらいなら、楽に壊せるよなぁ〜！？」

「お〜…ほっほ〜、ダルマ落とし、みたいに〜」

「お前、一人でやってろっ、バ〜カ！？」

「もう、お前らバカ者達に付いていけね〜よっ…！？」

「ナニ言ってるんだよ〜、もう十分に付いて来てるよっ」

「フッ、そろそろ次に行こうぜっ」

　和人、健、悟、行ニ、大介らは、会話に花が咲き、会計を終え、外に出た所だった。

　五人が人の間を紙一重で擦り抜け、我が物顔で広いニースリーデポンの駐車場を横切って行った。

　黄色い三日月が、一瞬だけ、充血した悪魔の目に変わった。

「ンガルルル〜……。　ネーネー、一緒に遊ぼうよぉ〜。（刺激が欲しいんだろ、このザコども）　」

と怪物の叫び声の後に可愛い声が、そして囁きやざわめきが……！？　地震や豪雨が立て続けに人間を襲った。　《シャッフル》人々は、心の準備もなく、屋根を求めてビル街に入って行った。　采は、投げされゲームが始まったのだった。

　一階の奥の警備室では、たった一人残された木村　哲男　二十七歳が金髪白人美女！？と悦楽の世界に身を投げ出していた。

　愛らしい声と微笑みとセクシーな赤い唇。

　ドストライクのタイプの女性だった。

　熱いキスを交わし合う。　彼女は、白いブラウスを脱ぎ、赤いナイフプリーフスカートも脱いだ。

「オーッ、ホッホー……」

　上から下まで舐めるように見渡しニンマリする。　もう木村は、欲求を止める事が、出来なかった。

　純白のブラジャーとガーターベルトとパンティーとストッキングをゆっくりと脱がしていく。

「あっ！うう〜ん、はあっ、あアあアーっ。　あっ、はあんっ。　はあーあぁ〜ん〜……」

　豊満なバストを揉む、舐める、腰を動かす、もだえる体、SEXYな声。　脳や性器に直に伝わる。

《快感》だった。

　ソファー、座位、机上位と大勢を変えて楽しんでいく。

　正常位で導かれるようにディープキスをした時だった。

　男の頬に女の両手が、優しく触った。　木村は、視界を無くした。

　女の背中から、三メートル位の大きな赤黒い掌が二枚　哲男を包んでいった、ゆっく〜りと音を立てずにトゲトゲの傘が動き出していた。

　大型の食虫植物のハエトリソウのようだった。

「ンッ、ンンンンー、ンッ……！？」

　絶頂をむかえて行った時、木村は、困惑をした。

　口が同化し、声が出せなかった。　そして女から離れようとした時に見てしまった。

　斑点模様の内部に自分が居る事を！？

　目を見開き、暴れまくった。

　しかし、抵抗むなしく顔・胸・腹部の中央の割れ目に飲み込まれて行った。　

　内部でバタバタする……ゆっく〜りと消化していく。

　顔や口が再生する。

「ププッ、この建物、☓☓☓も〜らったぁ〜」

「エラーヤッチャ、エラーヤッチャ、ヨイヨイ、ヨイヨイ〜」

　喜びを表現するように元気に浴衣を派手に五cm位の小人妖怪型悪魔が踊り出していた、相変わらず五月蝿く、雛人形みたいに可愛いかった。

　コントロールルームの操作盤をかまい、タイマーをセットした。

　そして、数分後　全てのシャッターが下がり、外界から遮断された。　

　とどめのような小爆破の連なり、そこかしごで火花が散り続く。

　キーッ、キキッ、ガッシャーン。

　ニースリーデポンの地下駐車場で、タイヤの摩擦跡と無理をしている高音を響かせてシャッターをぶち破り、トキフネ自動車のライトゴールドの『ツタンカーメン』が、豪雨の外へ飛び出して行った。

　社会現象を起こしていたG−DMAのラップとロックの複合　《神のあやまち》が、車内の空気を切り裂いていた。

「早く走れーっ、止まるなーっ、逃げろーっ！？…」

　二十歳の四人は、慌てふためいていた。