第96話 野営4
「そろそろ寝るかのぅ」
食事の片付けも終わりみんなでお喋りをしていたら、リリアーヌが立ち上がり言う。
確かにいつのまにか完全に日は落ちて、手元の魔導ランタンの明かり以外は完全な暗闇にのまれてしまっていた。
頷いてリリアーヌに答える。
「確かにそうだね。そろそろ寝ないと明日に響くよね」
「分かったわ。それじゃエステルちゃん、ベルトラン殿、見張りの分担を決めるわね?」
「ええ、構いません。パルフェさんに決めていただいていいですよ」
「ああ、こっちも異論無い。俺は冒険者だからな、近衛としてパルフェに決めてもらって構わない」
パルフェの言葉で、パルフェ・エステルさん・ベルトランで見張りを分担することに決まった。ボクも見張りくらいやるよ、と言ってはみたけどパルフェの一存であっさり却下された。
そして、そのパルフェの発言に噛みついたのはジゼルちゃんだ。
ボクはもちろん、ジゼルちゃん本人にだって冒険者として一人前の冒険者としての実力はある。見張りくらい出来る、という主張で、それは正直ボクも思った。冒険者としてはパーティーメンバーで見張りを分担することは普通で、見張りを任されないのは依頼主か半人前だけだ。だからジゼルちゃんが軽く見られている、と感じたとしても仕方ないと思う。
だけど、パルフェは頑として首を縦に振らない。
ジゼルちゃんは冒険者としては一人前だけど、近衛としては見習いだ。そしてボクとリリアーヌは王族。近衛がテントですやすや眠っていてそれを王女殿下が見張りするとか、ありえないでしょ、というのがパルフェの主張だ。
確かに、そう言われればそうだね……。
そんな感じで見張りはベルトラン・パルフェ・エステルさんの順で三交代に決まった。
ベルトランが剣を取り立ち上がる。
「よし、じゃあこれから見張りに入るわ。寝床も男の俺は寝袋でそのへんで寝るから、テントは女性陣で使ってくれ」
「分かったわ。じゃあ最初の見張りよろしくね」
「お願いします、時間まで寝させていただきます」
「……お願いするの」
「うぅ? よろしくなにょら? う?」
ベルトランに頭を下げて、ぞろぞろとテントに入っていく女性陣。
「よろしく頼むのじゃ。いくぞ、シルリアーヌ」
そしてボクもリリアーヌに手を引かれて、テントに連れて行かれていく。
あれ?
あれれ?
ベルトランの理論で言うなら、男のボクは寝袋でそのへんで転がって寝るはずなんだけど?
「ベルトラン、たすけ……」
思わず振り返り、ベルトランに手を伸ばす。
魔導ランタンの明かりを消して見張りの体制に入っていたベルトランは、そんなボクに気づくとにかりと笑って言う。
「ちゃんと寝ておけよ。明日も早く出発するからな?」
「いや……」
そうではなくて……。
抵抗もむなしく、テントへ引っ張り込まれる。
「わ……」
テントに入ると、そこはいい匂いがする気がした。
女の子の匂い、というのか。今みんな入ったばかりだから、気のせいかもしれない。テントという密閉空間のせいかもしれない。狭い空間に5人のきれいな女の子達と一緒にいるという、緊張感のせいかもしれない。
だけど確かにそこは、女の子のいい匂いがした。
「6人も入るとさすがに狭いのぅ」
横に慣れる場所を探しながら、リリアーヌがぼやく。
確かにこのテントは、王族が寝ることも出来るように王宮側が用意しただけあって、テントとしては破格の広さだと思う。とはいえ、所詮テント。6人も入るとさすがに狭い。
……だから緊張するんだけど。
「仕方ないでしょ。それでも野宿よりはマシよね」
身につけた簡易鎧を外しながら答えるパルフェ。
外した鎧を几帳面に折りたたむ様子に感心していると、ぱさりと響く衣擦れの音。
「ち、ちょっとパルフェ! なんで脱いでるのさ!」
目の前には、身につけたワンピースを脱いでブラとショーツのみの姿になったパルフェがいた。
「ん? なんでって、寝るからじゃない。服着たまま寝たらシワになっちゃうでしょ?」
「そ、それはそうだけど!」
腰に手を当て何を当たり前のことを、といった様子で答えるパルフェ。
下着を隠すそぶりも無い、じつに堂々としたその様子につい視線が吸い寄せられる。パルフェは自分で自分のことをかわいいと言うだけあって、めったに見ないくらいの美少女だ。そう、美少女という言葉がパルフェにはびったりくる。騎士とは思えない白い手足はすらりと伸び、無駄なお肉の無い綺麗なプロポーションは理想的とさえ言えるんじゃないかと思う。その胸とお尻もほどよい大きさと形で、しっかりと女性らしさを主張していた。
い、いや! 見てない! 見てないからね?!
恥ずかしくて思わず顔を隠してしまう。
そんなボクの耳に入ってくるのは、エステルさんの呆れたような声。
「はぁ、ここにいるのは女性だけとはいえ、はしたないですよパルフェさん。女性らしい慎みとか貞淑さを、もっと持って欲しいものです」
「なにを言ってるのよ!」
だけどパルフェは、ちっとも悪びれない。
「ほら、パルフェって美少女じゃない? スタイルにも気を配ってるしおっぱいだっていい形だし、人に見られて恥ずかしい場所なんて無いと思うワケよ。だから堂々と見せてもちっとも恥ずかしくないし、みんなだってかわいい美少女のハダカを見られて嬉しいじゃない? みんな嬉しい、なにも問題ないわね!」
その自信にあふれた言葉に思わずそうだと頷きたくなるけど……ダメだよ、それは!!
パルフェを止めなければ、と思った時、パルフェの言葉に一番に反応したのはナルちゃんだった。
「う! みんないっしょ、我もうれしいにょら!」
そしてナルちゃんは、身につけたフードとシャツと短ズボンを放り投げるように脱いでしまう。
そこから現れたのは……
「ナルちゃん! な、なんで下に何もつけてないの?」
生まれたままの姿のナルちゃんだった。
ブラはもちろんショーツさえも身につけていない、完全な素っ裸。その肌はほとんど日焼けをしておらず、パルフェよりもさらに白い。ぷにぷにの手足はとても柔らかそうで、何より目を引くのはその胸。エステルさんとかよりも更に大きく、ナルちゃんが動くたびにその双丘はぶるんと揺れた。
そんなナルちゃんが、甘えたように抱きついてくる。
「シルリアーヌ~~、我といっしょに、ねるにょら~~!」
「うわあっ?! ナルちゃん、ダメだよ、今はちょっとダメ!」
ち、ちょっと待って! 気持ちが落ち着くまで待って!
思わずナルちゃんを制止しようとするけど、そんなボクの視界のはしに衝撃を受けたように目を見開くパルフェの姿。
「ナ、ナルちゃん大胆……。そ、そうよね、見られても恥ずかしくないとか言っておいて下着は着けてるって、どういうことだって事よね? た、たしかにそうね……パルフェの覚悟が足りなかったわ……」
わなわなと震えるようにそう呟くと、両手を後ろに回す。そして、少し恥ずかしそうにブラを外すと、そのままショーツも脱いでしまう。
ボクの瞳に映る、生まれたままの姿のパルフェ。
美少女という言葉を体現したかのようなパルフェの、その扇情的な姿にくらりとする。
あうあう……。
このままだとマズいよ!
なにがマズいって……ボクがマズいことになっちゃうよ!!
「と、止めて! だれかナルちゃんとパルフェを止めて!!」
振り返ると、そこにあったのは肌色の二つの姿。
同じく素っ裸のジゼルちゃんとリリアーヌの姿が、そこにはあった。
「な、なんでぇっ?!」
「……面白くない、面白くないの。お姉さまはわたしのなの。お姉さまを一番愛しているのはわたし、あいつらに出来てわたしに出来ないことは無いの」
「……面白くないのは妾じゃ。さっきから見ておればデレデレと……言うときは言うべきじゃと、ついさっき言ったじゃろうに」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに、だけど不機嫌そうなジゼルちゃんとリリアーヌ。
胸と股間を恥ずかしそうに隠す二人は、そのままこちらにすり寄るように近づいてくる。反対側に視線を向ければ、同じく裸でこちらに近づいてくるパルフェ。視線を落とすと、裸でボクに抱きついているナルちゃん。
「あ、あうあうあう……」
だ、ダメだよ……。ダメだよ、このままじゃ。
「エ、エステルさん……」
唯一の希望、エステルさんへ視線を向ける。
エステルさんはというと、ひとりテントの隅で寝間着に着替えていた。花柄の、かわいらしいネグリジェだ。
「みなさん、悪ふざけは程々にしてくださいね? リリアーヌ様も遅くまで起きていて明日寝不足とかやめてくださいよ? では私は次の次の見張り当番なので早めに寝させていただきますね」
そう言ってどこからか取り出した毛布を被ると、ひとり横になってしまう。
マイペース!
この騒ぎの中、ひとりでさっさと寝てしまうなんて!
思わず感心してしまうけど、そんな場合じゃなかった。
「シルリアーヌ、いいにおいするにょら! いっしょにねるにょら!」
「どこを見てもかわいい美少女の裸! これはイイわね! 天国、天国はここにあったんだわ! 次はシルリアーヌ姫様の番ね!」
「……お姉さま、どこを見ているの? 他の女は見なくていいの、わたしだけを見て欲しいの」
「シルリアーヌ、お主なんだかんだ嬉しそうではないか? そ、そんな事では困るのじゃ。わ、妾が王族のなんたるかを教えてやるのじゃ」
視界にあふれる、肌、肌、肌、肌…………。
自分の顔が真っ赤になっているのを感じる。そして、股間の血が集まってはいけない場所に血が集まっているのも。
あうあうあうあうあうあう…………。
視界がぐらりと傾く。
そしてボクは、意識を失った。
◇◇◇◇◇
翌日、テントに差し込む朝日で目が覚めた。
「んん……」
昨日は大変だったな……。
周囲を見回すと、折り重なるように寝るボク・ナルちゃん・パルフェ・ジゼルちゃん・リリアーヌ。
そして奥で寝ていたエステルさんの姿は無い。外で見張りしてくれてるのかな?
「んぁ~~?」
ボクに抱きつくように寝ていたナルちゃんが、身じろぎする。
あ、起こしちゃったかな?
「ごめんね、起こしちゃったね」
声をかけると、ぱちりと目を開けるナルちゃん。
目を開けたナルちゃんはがばりと身を起こすと、不安そうにきょろきょろと周囲を見回した。まるで、初めて見た場所に戸惑うかのように。そしてその瞳からは、不安と怯えの感情を強く感じる。
「ナルちゃん?」
昨日の夜とはぜんぜん違うその様子が、意味が分からない。いま、何が起こっているのか分からない。
そんなボクに向かってナルちゃんが、怯えた様子でおずおずと口を開いた。
「……ここ、どこなにょら? おねえさん、だれなにょら?」
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