閑話 ミランダ2
「あー-っ! ムカつくムカつく! どうして私があんな平民女にコケにされないといけないのよ!」
腕を振り回すと、机の上の花瓶が落下して甲高い音を立てる。
でも、そんな事は知った事ではない。メイドがやったことにでもすればいい。
「あの平民女が王女だなんて、どういう事よ!? シルリアーヌなんて王族はいなかったわ!」
私――ミランダは、ソファーの上で困ったような表情を浮かべる頼りない男――オスニエルに向かって叫ぶ。
「そうは言ってもな、ミランダ。私にもどうなっているのか分からん。確かに本物だったよ、あの手紙は」
「使えない男ね! 私はあの平民女のせいで、他の貴族の前で恥をかいたのよ?! お母様にはさんざん文句を言われるし、もうウンザリよ!」
思い出すだけで、はらわたが煮えくり返る。
いつもなんだかんだ文句を言ってくるお母様だけど、今日のパーティーの事ではいつもより増して文句――いや、罵詈雑言に近い言葉を投げかけられた。
本当にムカつく!
お父様に言って黙らせて欲しいけど、シルリアーヌに対する工作のために王城に行ってもらったお父様は、そこでなにか重要な発表があったとかでまだ帰ってきていない。お兄様もだ。
「あの手紙は偽物に違いないわ! リリアーヌ王女の力で偽の手紙を用意したのよ! そしてその事は王族の権力で握りつぶすつもりだわ、そうに違いない!」
「確かに、その可能性もあるか……」
だけど、オスニエルは言葉を濁すだけで本当に頼りない。
覇気のない男ね!
「私に考えがあるのよ」
そんなオスニエルに、にやりと笑いかける。
本当は策士気取りで男の、アンタが言うべきことなのよ?
「冒険者ギルドから仕入れた情報なんだけど、オークの大量発生はまだ収まっていないらしいわ」
「そうなのか? オークロードはミランダが討伐したんだろう?」
「ええ、だけど残党のオークたちがまだ暴れてるんだと思うわ。そしてそのためにギルドは、前回と同じく何組かの冒険者パーティーにオーク討伐の依頼を出すつもりでいるわ。そして、たぶんあの平民女のパーティーにも依頼が出されると思うわ」
「ふむ……」
なにごとか考え込むオスニエル。
「だからね、それに先回りしてオークの拠点を抑えるのよ。そして、平民女たちが来たらオーク達をけしかける。オーク達に殺されるようならそれでよし、無理そうなら、遠くからオークに紛れて術を叩き込むわ」
言うと、オスニエルがぎょっとして腰を浮かせる。
「シルリアーヌ達を殺すつもりか?!」
「人聞きが悪いわね、私たちはオークに紛れて周囲が把握できてなくて『誤って』攻撃してしまうだけ。平民女たちはあくまで『オークとの戦闘中に戦死』するだけよ。私たちは関係ないわ」
オスニエルはしばらく黙っていたけど、すとんと腰を落とす。
「……怖い女だな、君は」
「あら? でも上手くいけば戦闘不能に陥ったシルリアーヌ達を確保できるわ。そうすれば、あの女たちをあなたは好きにできるのよ? シルリアーヌも、一緒にいるシルリアーヌに似たリリアーヌ王女も。ああ、メイド女も結構キレイだったわよね?」
言うと、オスニエルの瞳がぎらりと昏い光を放った気がした。
「ほう……? 確かに、あの美貌を好きに出来るというのは魅力的だな。リリアーヌ王女殿下もシルリアーヌとはまた違う魅力があったしな。メイドは見たことは無いが、嫌がるメイドを屈服させる、というのも乙なものだな」
「そうよ、あなたは性奴隷が手に入って嬉しい。私は意趣返しが出来たうえ、聖遺物を取り戻せて嬉しい。私にもあなたにも利のある話なのよ」
ふん、単純で下劣な男だこと。
だけど、利用させてもらうわ。私をコケにしたあの平民女に復讐するために。
◇◇◇◇◇
私たちはその日のうちに出発し、オークが大量発生している森へと向かう。
次の日には森を調べて回り、オークの集落を発見。
そしてその次の日には、平民女たちが森へと入ってくるところを確認した。
森の木に隠れて街道の方を見張っている私たちの前を、平民女たちが通り過ぎていく。あの奴隷――ジゼルも一緒だわ。本当にムカつく女ね。
「ああ、私のシルリアーヌ……今日も美しい……」
隣で平民女に見とれ、うっとりとした声を上げるオスニエル。
ちっ、この男も腹立つわね。あんな平民女がなんだっていうのよ。
「いくわよ、先回りしてオークの集落に攻撃するわ。そのままオーク達を誘導して平民女たちの方へ押し付けるわ」
「ああ。……しかし、オーク達に殺されてしまわないかだけが心配だ。殺されてしまっては、私の物にならないではないか」
「ふん、癪だけどあの平民女はそれなりの使い手よ。そう簡単には殺されないでしょ」
オークロードを倒したのは本当はあの女だから、まぁそうすぐに死んだりしないでしょ。だからこそ、気付かれないように上手く術で狙い撃ちにする必要があるわ。
森の木々に紛れるように移動し、オークの集落を目指す。
そして、オークの集落に近づくほどにオークと遭遇する確率も上がってくる。
「いきなさい!
右手を振り上げると、3つほどの火球が現れオークへと飛んでいく。飛んで行った火球を確認すると次は左手。左手が振り上げられると火球がまた3つほど現れ、すぐさまオークへと降り注ぐ。
私はファイアボールをノーリスクで無尽蔵に放てる
だけど私はこれでもB級冒険者で『炎弾のミランダ』と呼ばれた女よ。聖遺物が無くとも、その真似事をするくらい造作もないわ。
そして、すこし離れた場所で術を放っているオスニエルの方をちらりと伺う。
オスニエルが向こうを向いているのを確認、腰の魔導袋から取り出したマナポーションを一気に飲み精霊力を回復させる。私がどれだけ優れた使い手でも、リンドヴルムが無い以上精霊力の消費だけはどうにもならない。お父様に言って大量に買い占めてもらったマナポーションを使って、回復させるしかない。
「ふう、やっと片付いたか。……しかし、聖遺物を失ったと聞いて少し心配していたが杞憂だったようだな。『炎弾のミランダ』は健在だな」
「ふん、当然よ。私を誰だと思ってるのよ?」
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