第3話 天職
はるか昔はまだ天職と言う物は無くて、
とはいえ、それは今は今回ボク達が挑んだダンジョンみたいな場所に限られた数が眠っているだけで、ほとんど残ってはいないみたいだけども。そして今では、この世界に生を受けた全ての人は10歳の誕生日を迎えた日、女神様から
戦闘職ならファイター、ソードマン、メイジ、クレリックなど様々な職業の名前の祝福があって、それに応じて身体能力が強化され、さらにスキルと呼ばれる不思議な力が使えるようになる。
ソードマンなら剣を使う剣技、メイジなら炎を出したりする精霊術、クレリックなら人々を癒し回復させる神聖術、など。
最下位、下位、中位、上位、最上位、と様々な天職があり、上の位の天職になればなるほど、身体能力の強化は大きくなり、使用できるスキルの威力も高くなっていく。
――と、ここまで聞くと良いことずくめな様に聞こえると思う。
でも、実はそんな事は無いんだ。
天職は、その職業に
ソードマンなら
剣を持ち、鎧を着て――と、みんながいかにも剣士だと、そう思うような恰好じゃないといけないのだ。術士が着るようなローブを着ていてはダメだし、剣以外の武器を持っていてもダメ。なんなら、戦闘中に相手に剣を奪われたりしてもダメ。その瞬間天職の祝福は失われる。
もちろん再び剣を手にすれば天職の祝福も再び効果を発揮するけども。
例外は最下位職といわれる天職のみ。
ファイターなどの最下位職は、技スキルは与えられないし身体能力の強化もほどんどされない代わりに服装や装備の制約は無い。どんな格好をしていても常時祝福を受けることができるらしい。
女神様もなんとも不便な祝福を与えてくださったものだ、正直そう思う。
でも、村にいた神父様いわく、女神様といえども何の見返りも無く力を与えることは出来ないのだそうだ。
それはそうかもしれないけど、ボクとしては罰当たりかもしれないが正直何とかして欲しい。
最低限、剣さえ持っておけばいいソードマンの天職なんかとは、ボクの天職は違うのだ。
そう
ボクの天職は
――プリンセス。
プリンスでは、ない。
上位職でもある、プリンセス。それがボクの天職だった。
剣士は剣士らしい恰好、ならプリンセスは――?
そう、
まぁそんな恰好をしたことは無いし、深夜に両親が寝た後こっそり母様の服を着てみたけど祝福は得られなかった。祝福を得られたときは感覚的に分かると神父様は言うから、やっぱり男のボクが女性の服を着たってお姫様らしい恰好になんてなるわけないんだ。
ボクは幼いころから、同年代の子供達に比べると背が低かった。
そのせいか、可愛いとか女の子みたい、などと言われて育った。
だから、あの人に会う以前も男らしい男、というものにあこがれた。
父様はしがない農夫だったが、長年農作業で鍛えた体はがっしりと逞しく、幼いころは父様こそ男らしい男だと思っていた。
いや、今でも父様の事は尊敬しているけどね。
だから、ボクがその冒険者に憧れたのは、自然な事だったのだ。
その冒険者は、ベルトランと名乗った。
普通の冒険者は冒険者ギルド、という所から依頼という形で仕事を請け負い、魔物退治や薬草などの採取へと向かうらしい。でも彼は、ボクたちの村みたいな辺境のもし魔物が出たとしても依頼を出す余裕が無いような村々を回り、魔物退治をして回っているらしい。
なんて漢らしい人なんだろう!
ボクはそう思ったんだけど、ベルトランは「冒険者ギルドってのはあれはあれで、いろいろ規則とかあってな。そうゆうの性に合わねぇんだよな」などと言って笑っていた。
剣を教えて欲しい、というボクのお願いは短期間だけという条件付きで許可された。
ベルトランはあちこちの村や街を巡っているが、魔物が出現した村では自分がいなくなっても大丈夫なように周囲を調査し魔物を退治して回るらしい。その期間がだいたい一月。だから、その期間だけならという条件付きでボクのお願いを聞き入れてくれた。
ボクの身体は、小柄で体重も軽い。だから、ベルトランは剣の中でも主にレイピアなど腕力を必要としない刺突系の剣を中心に教えてくれた。
「刺突系の剣に必要なのは速度と瞬発力。そして、相手の動きを見極める目だ」
彼に作ってもらった木剣を振り回すボクに、そう言った。
突きに力は必要ない。いや、必要ないというのは言い過ぎかもしれないけど、動きの速度と体のばねを活用した瞬発力で十分にカバーできる。そして多少攻撃を受けても平気な重量級の剣士と違い、ボクみたいな軽量の剣士は少しでも攻撃を受けると吹き飛ばされる、動きが止まる。それは致命的な隙となるだと。
幸いボクはすばしっこい方だし運動神経も悪くない方だと自分では思っている。
「思ったより悪くねぇな、才能あるかもな。もっと時間があれば正式に弟子にして鍛えてやってもいいくらいだ」
お世辞かもしれないが、ベルトランがかけてくれたその言葉は励みとなった。
「お前の天職は知らないが、正直その程度じゃ上級職ってことはねぇだろう。だが腐るなよ」
ボクはベルトランに自分の天職を話していなかった。
正直、彼になら話してもいいかと思ったのだけど、恥ずかしくてなかなか言えていなかった。そして、彼も聞いてはこなかった。
後から聞いた話では、冒険者や兵士騎士などの闘いで生計を立てている人達の間では、天職を他人に聞くことはタブーらしい。パーティーを組む相手などの場合は、お互いの戦闘スタイルを知っておく必要があるから天職を教えあうが、それ以外の人にはよほど親しい間柄でないと教えることは無いそうだ。一種の信頼の証らしい。
何故なら天職を他人に知られるという事は、自分の持つスキルや戦闘のスタイル、そして手放してはいけない武器を知られることになるからだそうだ。自分から天職を吹聴するような奴は、ただのアホか自尊心だけは高いマヌケだとも。
言われてみれば当然の理由で、まともな天職を持つ人なんていない辺境の村ではそんなこと考えたこと無かった。
……もっとも、そうは言っても戦いをすこし注意してみればだいたいどの天職か分かるそうだけど。
だけど、相手の動きを見て推測するのと、最初から分かっているのでは雲泥の差だ。奥の手を隠しておく事だって出来る。
「剣士系の天職を持つ者は剣技スキルが使えるようになるし、剣の扱いだって上手くなる。だがな、それは自分本来の力にすこぉし上乗せしてくれるだけだ。
剣の鍛錬をやっていないと天職を持っていたって宝の持ち腐れだし、きちんと鍛錬を積めば天職が多少見劣りしようが、十分な実力を発揮できる」
教えてもらった型をくりかえすボクにベルトランは言った。
「お前は真面目で素直だし、筋だって悪くない。だからこそ腐らずにずっと続けてりゃ、鍛錬にかけた時間は自分に答えてくれる。それを忘れるな」
それからしばらくして、ベルトランは村を旅立った。
ボクは毎日毎日、彼に教わった型をくりかえした。
巡回の兵士さんだっていない様な田舎の村だ。教えてくれる人なんていないし、木剣を振り回しているのはボクくらいなので比較する対象もいない。
だから、ボクは毎日毎日一人で木剣を振り回した。
……レックスやダグラスには全然及ばなくて、馬鹿にされてばかりだったけど。
「…………!」
誰かの声がする。
「……………………!!」
意識が浮上するような感覚。
ああ、懐かしいベルトランの夢もこれで終わりか。
「……………………!!」
分かってるよ、起きるよ。
そして、目覚めたボクの目に飛び込んで来たのは、銀色の髪の天使だった。
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