第313話 そういえば……

 一日の家事をこなし、そういえば……、と思い出したことがある。


 あれはまだ高校生の頃。私の高校生活からの10年はものすごくグレていたけれど、アルバイトは真面目にしていた記憶がある。ピザ屋さんのバイトや有名サンドウィッチ店のバイト。結構真面目に働き、夏休みには高校生としてはまあまあ稼いでいた。もちろん危ないバイトではなく、真面目に厨房でサンドウィッチやピザを作っていた。


 でもある時、アルバイト情報誌で『テレアポ』なるもののバイトを見つけた。年齢は16歳からオッケー。業務内容は簡単なテレフォンアポイントメントを取るという仕事で、内容は自宅でできる学習ツールの販売だった。


「へえ、そんなんあるんだ。しかも時給1000円プラス実績に応じたボーナス」


 簡単に考えてしまった私は電話をかけて面接をし、とりあえず働くことになった。もちろんその当時しているバイトはやめてない。余った時間でやってみる短時間バイトだった。


「とりあえずこのリストに電話して。それで話をしてみてね。もっと聞いてみたいって人がいたら上司から電話しますって言ってくれたらいいから」的な。


 そんな簡単な説明を受けてバイト一日目。ドキドキしながら電話をして、話上手な私は何件か次の約束をとった。そして、バイト先で無茶苦茶褒められた。


 馬鹿な高校生だった私は自己肯定感も低くて、褒められたことが嬉しくて、次のバイトの時も張り切った。結果、結構アポをとれた。


 なんてことを数日行い、『あんたすごいわ。今月一番アポ取ってるよ』と、また褒められた。単純で社会知らずで馬鹿な私は褒められたことが嬉しかった。で、「頑張ります!」とか言っていた。だって、純粋に紹介している商品はすごくいい商品だと信じてたから。


 ところが。


「これって、私がアポ取った後って、どういう仕組みで教育スタートするんですか? 誰が赤ペン先生的なものするんです? ほら、あの有名な赤ペン生成の塾みたいに。そんなこと知らなくて紹介できないなって思ってしまって。教えてください」


「は? そんなこと、こっちの仕事だから、とりあえずアポ取ってくれたらいいからさ」


 この会話にグレている不良ながらにも心にどこか信念がある私は「???」となり、そこからバイト先の人に質問を投げ続け、「あ、これ、胡散臭い」と思って、バイトをやめた。一週間も持たなかったと思う。


 その後、給料をくださいという私の言葉にその会社の人は「一週間以内に辞めたら出せないって言ったよね?」と言って、一円もくれなかった。そんな話、面接で聞いてなかったと思った。


「これ、マジ詐欺やん?」と思った私は当時あまり発達してなかったネットでその会社を調べて、そして警察に電話しようと思い、でも自分が不良だからと思いとどまって——。でもやっぱりほかっておけないと思った数週間後。その会社に電話をかけたらつながらなかった。


 あれは、今で言うところのオレオレ詐欺や、白昼強盗に入る類の犯罪グループだったのかもって思った。私は普通に良いものをご紹介してるつもりでいたけれど、それはまだ高校生の(多分17歳)世間知らずだったわけで。高度経済成長期をちょいとすぎて、バブルがはじけ、でも、学歴大事だと思ってる思考が渦巻く世界の中、高額な塾に行かせれない親の心情を逆手にとった詐欺集団だったのかもしれないと、今改めて思う。


 なんてバイトをしてたんだと思った。

 私の電話を受けた人に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 でも、もう遅い。


 白昼堂々と強盗に入る若者たち。


「捕まらなければラッキー。捕まっても刑は軽くね?」


 果たしてそうだろうか。その判断基準ももうないのかもだから、それで良いのかもしれないけれど。


 私は自分が昔すさんでいたから、余計に思う。その時はわからないよねって。トー横キッズの痛い動画をTwitterで見ても、私もその年齢の時にトー横があったなら、東京まで親のお金を盗んででも行き、同じようになっていたかもって思う自分がいる。


 どの時代にも、どの場所にも、そんな子供たちがいる。


 大人として、できることって少ないなって思った。行政とか、話を聞いてくれる大人がいる制度があればとか。それはほんと、正論で。でも、そういうことじゃないんだなって思うんだな。


 良い話をしてくれる大人がいたとしても、それ以上に自分を傷つけて、馬鹿になって、馬鹿なふりをしまくって、それで目の前の辛いことを忘れたいってあると思う。私も、高校生の時、解熱剤をアホほど飲んで目の前が緑と赤だけの世界のオーバードーズで、「あ、死ぬかも」って思ったことある。


 傷つけることで生きてるって実感したい。

 死ななかった、良かったまだ生きてるって思いたい。

 なんで死ねなかったんだよ! って叫びたい。


 そういうの、私は昔の自分に重ねてちょっとわかる。


 銀座の白昼堂々の強盗ニュースを見て、心底怖いなって思った。私も同じところにいた自分を知ってるから余計に。


 だって、失っても怖くないんだもん。

 怖かったらできないよ。


 何を失っても怖くないって強くて怖い。


 どうしたら良いのか、私には見えない。

 でも、まずは最小限のコミュニティである自分の家族が一番だなって思った。そしてその前に自分自身が。


 いつかわかる時が来るよ、なんて、その当時の自分の心には響かない。


 じゃ、なんて声をかけれるかな。かけれる言葉なんてないかもな。


「おばちゃんも昔そんなだったわ〜。オーバードーズとか、自傷症とかむっちゃしてたしー。でもさ、生きて今ここにおることが幸せだって思えるのってすごくね? って自分を思うわけ。でも別に最悪だって思ってそこにいても、別に悪いことじゃないかもね。だって、目の前の現状にあらがってるのも生きてる証拠だもん。何が悪くて何が良いかなんて、本人しかわかんないし、本当に立派な大人ってなんだよ? って私も大人だけど思うで?」


 そんなこと思っても、しゃあないなって思いながら本日ニュースを見てました。思い出したのは、高校生の時、『子供の学力向上のために低価格で最高の学力向上を!』とうたってテレアポしていた会社は、多分詐欺だったかなって思いました。高校の制服着たアルバイト、私の他にも結構いたんだけどな。やばい時代だったと思った。


 そんな本日。新作ネタ帳書き書き。まだまだ纏まらないと思ったのでした。



 お読みいただき、ありがとうございました。

 美味しい話には裏がある。間違いなく。

 そこなんとかならんのかー?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る