第310話

 雨がざあざあと降っている。ひと続きの音となって。ざあざあと、ざあざあと。


 庭のキャンプ道具も雨に濡れてしまって。そこにはもう家族の色はなくなってて。楽しい記憶も、美味しいキャンプ飯の味も。なんにも残ってない。雨が全部洗い流していった。


 なんで、こんなに悲しいんだろう。

 なんで、こんなに苦しい気持ちでいるんだろう。

 

 別に、何も変わらない日常があっただけなのに。なんで、なんで、こんなに重苦しく悲しい気持ちになってるんだろう。


 もう、小説書くのとかやめたら? って、言われたからかな。せっかくみつけた私のやりたいことだったけど。でも、それをもうやめたらって言われたからかな。だから、こんなにも雨の音が煩くて、そして悲しいのかな。


 雨が、ざあざあと降っている。

 全てを消すくらい音を立てて。


 雨には意志なんてないのに。


 雨が、降ってる。

 私の頬にも。

 雨が流れていく。


 さめざめと。さらさらと。はらはらと。とめどなく。


 雨の日って、結構好きだったのにな。

 庭の木々がみずみずしく輝いて。

 雨の日、好きだったんだけどな。


 きっかけなんて、なんでも良かったのかな。


 ただ、それが今日は雨ってことだけで。


 泣きたいって思う気持ちがなんだか湧いてて。そのなくきっかけが雨だったのかな。


 なんで泣いてるのか、よくわからない。

 でも、外には雨が降っていて、庭のキャンプ道具を濡らしていく。


 もう椅子にも座れないかな。

 ずぶ濡れになった椅子。

 ずぶ濡れになった机。

 ずぶ濡れになった焚火スタンド。


 濡れていたら、もう火も焚けないや。


 火。炎。燃える音。匂い。好きだったんだけど。

 それももう雨に流されて思い出せなくなってしまった。


 雨が降ってる。

 とめどなく。切間なく。雨が降ってる。


 子供の声。

 下手くそなピアノ。

 冷蔵庫を開ける音。


 普通の日常があるけれど、なんだか私は別空間に飛ばされてて。


 ちょっと、お母さん、じゃない私でいたい気分。

 でも。


 明日からまた学校も始まる。

 一人きりの時間が増えていく。


 書くことをやめたら、私はまた虚無の時間を生きてしまう気がする。私なのか、お母さんなのか、なんなのか、自分がわからなくなってしまう。そんな気がして、一人の時間が少しだけ怖い。


 でも、雨がもしも明日も降ってたら、そしたら音がある分だけ寂しくないのかな、なんてことも思ったりした。


 オーディブルで小説でも聞くか。

 積み上げた本でも読むか。

 掃除する場所は家の中にいっぱいあるか。


 やることは沢山あるけれど。でも。やりたいって思う気持ちがどっかに消えてしまった気がした。


 そんな、本日。

 理由もなく涙が出てきて、それで、苦しくて。だから、もう昼寝かなって思ったというそんな日曜日。雨はまだ降ってるし。心の内に入って、このなんとも言えない感情を味わってこようと思った。


 と、そういう日があったという記録の日記。




 

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