第46話 祈り
むかしむかし、あるところにアオイロ王国という国がありました。
アオイロ王国の王様はとてもとても国民が大好きでした。だからアオイロ王国ではみんなが幸せに暮らせるように、お金や食べるものをみんな平等にしていました。アオイロ王国の国民はみんな幸せそうでした。そして、王様のことが大好きでした。だって、王様はみんなが幸せになれるように、一生懸命考えてくれているからです。
ところが、ある日、アオイロ王国から独立したミドリイロ王国が、アオイロ王国の王様とは考え方が違う国と仲良くしていると、アオイロ王国の王様は知ってしまいました。
考え方が違う国。
それは、アカイロ王国です。アカイロ王国の王様も国民をとても愛していました。そこはアオイロ王国と同じだったのですが、お金や食べるものをみんなで平等にするのではなく、頑張った人は頑張った分だけ、ちょっと豊かになる国だったのです。アカイロ王国の国民は王様のことが大好きでした。だって、王様はみんなが幸せになれるように、一生懸命考えてくれているからです。
さぁ、困ったことになりました。アオイロ国王は、ミドリイロ国王にアカイロ王国と仲良くしてはいけない。そんなことならアオイロ王国に戻ってきて一緒にまた幸せに国民を守ろうと言いました。青色と緑色の方が、赤色と緑色よりもきっとうまくやれるだろう? と。
でも、ミドリイロ王国の王様は、どうしてもアカイロ王国と仲良くなりたかったのです。頑張った分だけ国民が豊かになれるアカイロ王国が、ミドリイロ国王には、どうやらとても魅力的に見えてしまったようなのです。
ミドリイロ国王は、お兄さんのようなアオイロ国王に、やっぱり僕はアオイロ王国ともアカイロ王国ともどちらとも仲良くしたいです、と、伝えました。
するとその時です。
深い闇の中から、闇の勢力の使者がアオイロ国王にそっと近づきました。闇の勢力の使者の姿はもちろん人間には見えません。そっと耳元で、
――だったら力づくで、アオイロ王国の考え方にしてしまえばいいじゃないか?
と、ささやきました。
さぁこれは大変です!
アオイロ王国の王様は、その声を自分の心の声と勘違いしてしまったのです!
「では、ちからずくででも、ミドリイロ王国の考えが変わるようにするまでだ!」
さらにさらに大変です! これでは戦争になってしまうかもしれません。このニュースは、瞬く間に世界中のイロイロな王国の、イロイロな王様の耳にも届きました。
もしも戦争なんてことになってしまったら、僕たちは一体どちらを応援したらいいんだ。ある国は、青色と水色は似てるから、アオイロ王国を応援しようといい、ある国は、赤色と桃色は似てるからアカイロ王国を応援しようといい、またある国は、どちらにも似ていてどちらにも似ていないから、見守ろうといいます。
そんなことがあるとはつゆとも知らぬ、アオイロ王国に住んでいるひとりの男の子がいました。男の子は家族で幸せに毎日暮らしていました。
そんなある日、『お父さんが兵士として戦争に行くことが決まった』という手紙がおうちに届きました。お母さんは泣いています。お父さんも泣いています。誰も傷つけたくないと泣いています。でも、王様のお願いは聞かなくてはいけません。だって、王様は国民のことを一番にいつも考えてくれているからです。
男の子は考えました。一生懸命考えました。どうしたらお父さんは戦争に行かなくて良くなるのだろうと考えました。小さい頭で一生懸命考えました。
そして、いいことを思いつきました。男の子は、
『みんなともだち、ケンカはやめて』
と手紙に書いて、窓辺にやってきたお友達の白い鳩さんにお手紙を託しました。
白い鳩さんは、みんなに伝えてくるから任せてね、と言って、たくさんいる友達の鳩さんにお手紙に書いてあることを伝えました。
それを聞いた友達の鳩さんは、たまたま知り合った通りすがりのワタリドリさんに男の子の伝言を伝えました。
それを聞いたワタリドリさんは、また別の海をわたるワタリドリさんに、そのワタリドリさんも、また他のワタリドリさんにと、男の子の手紙は、世界中のワタリドリさんたちによって、世界中のイロイロな国の人たちへと、伝言として届けられました。
そして、いよいよ、戦争へ兵士としてお父さんが行く日がやってきました。お母さんは泣いています。男の子も泣いています。お父さんも泣いています。
と、その時です。男の子の住んでいる町中の、いえ、国中の鳥たちがいっせいに空へ飛び立ちました。そして、口々に男の子の手紙のお返事をささやき始めました。
『みんなともだち、ケンカはやめて』
『みんなともだち、ケンカはやめて』
『みんなともだち、ケンカはやめて』
『みんなともだち、ケンカはやめて』
お父さんと、お母さんは顔を見合わせました。そして空に向かって言いました。
『みんなともだち、ケンカはやめて!!!』
お父さんはその日、戦争へ兵士としては行きませんでした。
アオイロ王国の誰もが戦争に兵士として行きませんでした。
アオイロ王国の偉い人も戦争には行きませんでした。
アオイロ王国の王様が、何で誰もいないんだ! と怒っても、誰もやってきませんでした。王様は一人では戦争をすることができません。王様は一人ぼっちになってしまったお城で考えました。
どうしてこんなことになったんだろう?
どうして誰もいなくなってしまったんだろう?
王様は考えました。
――みんなが幸せになってほしくて、やろうとしたことは、みんなにとっての幸せではなかったんだろうか?
王様がそう心でつぶやいた時、あたたかなおひさまの光が、お城の天窓から王様をあたたかく包み始め、優しく王様の周りに広がって行きました。
そして、その光の中から、すぅっと、人間には見えない光の勢力の使者が現れ、アオイロ王国の王様の耳元でささやきました。
――ケンカはやめて、みんなともだち
こうして世界は、イロイロな国がイロイロな考え方を持ち、イロイロな人たちが、あったこともないイロイロな人たちを思い合う、優しいカラフルな世界になったのです。
男の子の言葉はなぜ、イロイロな国の人たちに伝わったと思いますか?
それはファンタジーだからではありません。
男の子が書いた手紙は、あたたかい優しい光で書いた『愛の言葉』だったからなのです。
『みんなともだち、ケンカはやめて』
――祈りがひろがりますように
な、本日は、この辺りで。
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