第7話 お伊勢参り 内宮編

 お伊勢参り最後は内宮。


 猿田彦神社と内宮の駐車場は目と鼻の先なので、劇場版アニメの続き、鬼の首をまさに切ろうという盛り上がりの最高潮を切れ切れに見てしまったちょっともったいない私達は、駐車場から内宮へと向かった。


 目で見たものを文章化する練習がしたいからと写真を撮っていたのだが、なぜだかこの辺りの写真がない。うん。人が多すぎて子どもとはぐれたらいけないので、おはらい町を歩く時はスマホを鞄にしまっていたのだった。


 脳内アルバムをめくってみるが、どうやら焼きガキやら松坂牛串やら、だし巻き卵やらお汁粉やらの写真しか脳内には残っておらず、これから神様にお礼参りに行くと言うのになんてやつだと自分を罵りたくなったが、人混みを避けて五十鈴川沿いの裏道へ降りたところからスマホに写真が残っていた。


 五十鈴川沿いは人も少なく、青空の下、風は凪いでいるがやはり12月。おはらい町の通りよりもひんやりした空気を感じて歩く。

 水が太陽に反射してキラキラと光り向こう岸の常緑樹がゆらゆら映る五十鈴川沿い。なんだか神聖な気分になってきた。これから神様にお礼参りに行く道々、今年あったことを思い出しながら、あぁ、今年も家族みんなが健康で、幸せだったと感謝の気持ちが膨らむ。


 一番ちゃんはテストの点数が去年よりも百点アップしました。素晴らしいです。

 

 二番ちゃんは剣道部を辞めて卓球部に入り、第二次成長期の衝動と生命の躍動を日々卓球で発散していてくれて母はとても嬉しいです。


 三番ちゃんは、・・・・三番ちゃんは、・・・・・三番ちゃんは、

 はい、健康でとてもいいと思います。


 四番ちゃんは、・・・四番ちゃんは、うん、四番ちゃんも毎日楽しそうで良かったです。


 五番ちゃん、・・・五番ちゃんもそうですねぇ、何事もなく一年過ぎてよかったです。


 うん。三番以降もおおむねオッケー! と言うことで。まぁ、いいかと。


 いや違う!

 

 この当たり前の日常こそが何より感謝しなくてはいけないことだ。そうだ。『感謝の反対は当たり前』ではないか。


 神様、今年も感謝の一年です。


 なんてことを思いながら歩いていると、多分表側は喫茶店か何かなのだと思われる建物の裏側、石垣のツタ植物に目がいった。夏にはびっしりと建物が見えなくなるくらい緑が這うのだろうその植物は、今は一部に赤く紅葉した葉っぱがあるだけ。でもそれがたまにそよぐ風にゆらゆら揺れている。なんて情緒があって素敵と見ていたらパパが近づいてきて、


 「これ、もうちょっと前は全部この色に染まってたんやろな。どっから生えてるんだろう。」


 と言いながら石垣の根の出所を探し始めた。

 

 見るものが同じ。好きな感性が同じ。

 心から尊敬していて愛する彼のそんな姿を見ながら、


 「神様、今年も愛する彼が健康で本当にありがとうございます。」


 と、私は声に出して言った。彼はそばに戻ってきて私の腰に優しく手をまわして、私をぐっと引き寄せた。幸せだなぁと思ってまた神様感謝ですと思った。



 「背中にもお肉がついてきたね」


 神様ありがとうございます。私も今年も健康ですっと。


 子どもたちは河原に降りて石投げをしていたので、呼び戻し、内宮へ向かう。


 宇治橋の大きな鳥居の前で一礼して、橋を渡る。参道の玉利道をベビーカーを押して歩く家族を見かけた。我が家はほぼ年子ばかりだったので、双子用ベビーカーを押してこの道を歩くのは本当に大変だったねなんてことをパパと話す。玉利道はベビーカーに優しくない。心の中で頑張って! と声をかけてすれ違った。


 御手洗場で清め、大きな石段を登り、御正宮へ。


 パンパン!「今年も一年ありがとうございました」


 

 帰り道、鶏を見つけてはしゃぐ子どもと42歳主婦。

 鯉が気持ち良さげに泳いでいるのを見る二番息子ちゃん。


 これも毎年の風景だなぁ。しみじみと今年ももう終わりだねなんて浸っていたら、子どもたちが喉が渇いたと言うので、休憩所に立ち寄って飲み物を買う。それお母さん持って歩くの嫌だから、飲み干して行ったほうがいいよと言ったが、案の定飲みきれない量を買った奴らが数名。


 お母さん鞄に入れてと言ってきたが、一蹴した。各自自己責任!


 こうして我が家のお伊勢参りは無事に終了し、私たちはおかげ横丁へと向かったのであった。




追記


 この後は伊勢、鳥羽旅行を満喫。次の日に行った海のお魚が釣れる釣り堀では鯛を十四匹釣りまして、そんなに食べれるわけないからといつものメンバーにLINEしたらば、大根やらチョコレートやらと物々交換していただき、感謝。でもみんな捌けなさそうだったので、一人で二時間かけて十一匹捌きました。身は湯引きして切ったらすぐに食べれるお刺身用に。あらはあら炊きように。二匹づつ五家族へ旅立って行きました。捌くのは楽しいですがさすがに十一匹は多かったです。でも大変いい経験になりましたし久々に友人とも会えましたのでそれもまた感謝だと思ったのでした。鯛、釣竿レンタル、餌代、箱代、氷代に鱗取り代金合わせまして四万五千八百円でございましたとさ。ぴえん。






 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る