第6話 お伊勢参り 猿田彦編
毎年恒例のお伊勢参り。続いて向かうは猿田彦神社。
先程の五番ちゃん置き去り事件は我が家の車の中ではもうすぎた話となり、当人の五番ちゃんも車内で流れる人気アニメの劇場版に釘付けである。ちょうど猿田彦神社の駐車場の入り口付近で、アニメの主人公がド派手な演出とともに、電車内にすくう鬼の首を今まさに切ろうとしている。
いよいよクライマックスか! と思うところで、ぶちっと、切れ、車内にあぁーもうーいいとこなのにぃ!!! と子どもと私の声が響く。
あんたたち、この映画何回目? こないだリアタイでアニメでも見てただろうに私もだけど。と言いながら車を降りる。
置き去りな子どもがいてはいけないので! 全員降りたことを確認し、歩き始めようとした時、私の脇を丸坊主の可愛い4歳くらいの男の子が走り去った。七五三の時のようにきちんとしたブレザーを着ていて可愛い!
「あの子見て! 超可愛い!」
と言った私の声に、家族全員が前方を見た。すると、次から次へと言う表現がまさにぴったりなほど、年子かと思うような年齢の子どもたちが猿田彦神社へ向かう道の川の橋に走っていく。ひとり増え、二人増え、三人増え、四人になり、ついには五人の子どもたちが橋に集まった。
子どもらは橋の手すりにつかまって一生懸命背伸びして川を覗き込んでいる。危ないよ、落ちちゃうよ、大丈夫かな、うちもそんな時あったよ、年子ばっかで大変だけどすぐ大きくなっちゃうから頑張ってね、この子達のパパさんママさん♪ なんて先輩ヅラを下げながら、にこやかに橋を渡り、猿田彦神社へと向かった。
おみくじーと言いながら社務所に向かおうとする子どもを制し、七人が一列になってお参りしようと順番待ちの列に並ぶ。
階段を一段、一段と進んで、ん?
なかなか進まない。あれっと思って前を見たら、お賽銭箱の前にモデルか? というくらいスタイルのいいとても綺麗な女の人がいて、熱心にお祈りをしている。賽銭箱の前ど真ん中に一人たってるその人の後ろで、七人一緒に並んでお参りしたいから、後ろの人にはお先にどうぞと言って待った。
待った。
待った。
いや、長すぎやしないか? もう数分待ってる気がするぞ!?
何をそんなにお願いするのかと思った瞬間、先程封印したはずの脳内再生が始まった。
「神様、お願いです。私から彼をとらないでください。彼は私と別れて彼の愛する彼と一緒になりたいと言いましたが、そんなことは一時の気の迷いです。どうか、どうか、彼の目を冷まさせてください。私と彼が今までどれだけ幸せだったのかを、今から神様に全てお話しいたします。私と彼との出会いは、私がまだ男性だった頃・・・・」
彼女はスッと立ち去った。
うおー! 意味深なところで終わっちまった! あぁ、だめだだめだ。気になる。気になるぞその脳内再生! でももうお参りの順番が来てしまった。この脳内再生モードで神様にお礼参りなんてできない! いつか妄想し直してやる! 覚えとけよ私!
気を取り直して、
パンパン! 「今年もありがとうございました! 」
猿田彦神社お礼参りミッション完了!
はい終わったー! おみくじ! お母さんお金お金と言うので財布を出す。猿田彦神社の普通のおみくじは100円。恋おみくじは300円。
ん?合計400円。かける五人で2000円、結構するのね!? 五人分!
「五番ちゃん好きな子いるの?」
「え?いないよ。」
「四番ちゃんもいないよね?」
「え、でもやりたいやりたいー」
「好きな子いないのに、どうして恋おみくじするの? もったいないでしょ?」
「好きな子できるかも知れんやん」
「ないない。好きな子いないのにいらないから! もったいないから恋おみくじは五年生からです!」
2021年12月某日。
『恋おみくじは5年生から』法案可決。
「私大吉!」
「俺中吉!」
「あ、私は小吉?って中吉とどっちがいいの?」
そんな子どものやりとりを聞いていたら、いつもはやらないけど私もなんだか無性にやりたくなってきた。エッセイ書き始めてはや3日。自分のやりたいこと発見してはや二ヶ月。こ、これは、私の今後一年はどうなるのか、神様に聞いてみたいではないか。
お母さんもやってみるわ! と100円玉を入れて、おみくじの入った木の箱を持った。結構重いのねなんて言いながら、思いっきりおみくじの箱を上下にブンブン振ってみたが出てこない。もう一度とさらに大きく上下にブンブン振ったと! その時!
ゴツン!
「痛いよぉ〜ううううう。」
きゃー!
五番ちゃんが私の下にいたらしく、思いっきり木の箱がおでこに当たったらしい。おでこはちょっぴり赤く腫れていて、五番ちゃんがわんわん泣き始めた。
「ごめん、ごめん、五番ちゃん見えなかったぁごめんねごめんね」
「もうママやだ。五番ちゃんばっかりなんでこんなことになるの! 」
「外宮では置き去りにされかけて、猿田彦ではおでこにおみくじの箱が当たって、さて、内宮はどんなことが起きるんでしょうねぇ」
「ひどい!五番ちゃん何にもしてないのに、お母さんひどい〜」
「大丈夫大丈夫五番ちゃんおみくじの箱大当たりだから、五番ちゃんのおみくじも大当たりのはずだよ!」
「えぇ? ほんとぉ?」
と開いた五番ちゃんのおみくじは大吉!
「お母さんこれなんて書いてあるの?」
と『大』の文字を指差す五番に、こんな漢字も読めんのか! 小学校一年生からやり直してこいと言いたくなったがぐっと堪え、大吉で一番いいやつと言うと五番ちゃんはニコニコ機嫌が治りましたとさ。おしまい。
追記
年子の子沢山、大変ね、頑張ってねと先輩づらして見ていた子ども達はどうやら三家族集まってのお参りだったことがわかりました。私は勝手にうちと同じと思い込んで先輩づらしたのがちょっぴり恥ずかしくなりました。夫に6年2ヶ月で5人出産する家はそうそうないからと。みんな自分と同じだと思うといつかひどい目に合うぞと。間違っても知らない人に声かけたりするんじゃないぞと念を押された私のおみくじは中吉でございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます