第5話 脳内再生お伊勢参り 外宮編


 毎年恒例お伊勢参りに行ってきた。

 我が家の恒例行事である。新年に今年もよろしくお願いしますと願をかけるのではなく、今年もありがとうございましたとご報告と挨拶に行く。


 だが私の今年のお伊勢参りはちょっと違った。いつもは、天と繋がる気持ちで外宮、猿田彦、内宮と参拝するのだが、今回は、エッセイなるものを書き始めたせいか、この見ている、感じている世界をもし表現するとしたら?どんな文章? と脳内再生をしながら巡るお伊勢参りだったのだ。


 小説を書こうと意気込んだ小説書きたい初心者の私は、ストーリーはできてるのだけれど、いざ書きはじめよう! とパソコンに向かったら、全く手が動かない。


 見えているものの描写が文章で表現できないと書けないんだ! 

 

 当たり前だ。アホか私は。と、呆れたけれど、できないならできるようになればいいんだ。と、開き直った。


 まずは見たものを文章で表現するツールを手に入れなくては。書いて読んでの練習をしなくては。


 というわけで、お伊勢参りは例年通り行われたわけだが、私の頭の中はこれを文章で表現をするなら? と脳内再生が忙しく働いてしまうのであった。


 お伊勢お礼参り。まずは外宮。豊受大御神様。


 一般駐車場に入るための道路を車は進み、誘導に従い左に折れた。その先が一般車の駐車場だ。コロナ開けだから混んでいて停められないのでは? と心配していたけれど、午後2時を少し過ぎた駐車場はまだ数台駐車できる余裕があった。

 無事に駐車を終え、車から降りた。ふと見ると、目の前に一本の木。大きな穴、ウロがあいている。おお、これは練習題材に良さそうだと、スマホで写真をとる。

 お母さん何してるの?と聞く息子に、写真を撮って、文章化の練習をしたいのだと説明する。

 

 「ふぅん。あのさお母さん、今日は大きな木に抱きつくとかやめてね、おかしな人だから。」とすかさず息子が言った。


 「結構いるってそう言う人! 大丈夫大丈夫! 」


 そんなやりとりも毎年恒例。はいはいと家族7人で一番最初の参拝場所外宮へと進む。駐車場を抜けたところで一番目の娘が言った。


 「トイレ行ってくる。」


 長女以外そこで暇を持て余し待つ。子ども一人がトイレに行くくらいなんてことないのだけど、もし見失っては大変だ。

 子どもたちが小さい時からこの習慣は我が家の常識。トイレに行きたいと言うなら必ずわかる場所で待つ。


 御手洗をすませ、長女が戻ってきた。

 ジャリジャリっと音を立てながら、外宮の参拝場所に向かう。いつも抱きついてエネルギーをもらう木を通り過ぎる時、子どもたちが、

 

「ここお母さんが抱きつく木だよね?やめてよね、今日は。」


 と言ったけれど、私はその木の幹に触り、


 「触ってごらんよ、この幹ツルツルしてるやろ?みんな触ってるんやて。お母さんだけじゃなく、たくさんの人が木に触って話しかけてる証拠やろ?」


 と教えてあげた。それを聞き四番五番の子どもたちは、そうなんやそうなんやと幹を撫で始めた。ふふん、単純な奴らめ。子どもたちは口々に、ほんとつるつると言いながら太い幹を撫でた。


 この日はとても暖かい日で、青空が広がっていた。お伊勢さんの社の屋根が青空に映え、キリッと気持ちが引き締まる。子どもたちに100円玉を持たせ、家族7人で一列になって参拝。


 パンパン!「今年もありがとうございました」


 足早に駐車場に戻って車に乗る。早足で歩くと汗を書くくらいの気温だ。こんな日は今まで20年来てるけど初めてだね、などと夫と話しながら助手席に座った。


 外宮ミッション完了! 次は猿田彦にレッツゴー。と、駐車場から車を動かそうとした時、後ろの座席から子どもが叫んだ。


 「五番ちゃんいない。」


 「え?? 五番ちゃんいない?」


 「五番ちゃん車にいないよ?! 」


 5人目の子ども、5番ちゃんが車にいなかったのだ。

 うわー、まじないわー! 子ども置いてくなんて−! 子沢山あるあるではあるが、まさか自分がやるなんて! そして、パパも私もそれに気づかず車を出して次の目的地、猿田彦神社に何の迷いもなく向かうところだった。


 私は走った。駐車場からトイレのある場所まで。お腹をカバーするために着たドット柄のふんわりワンピースが走ることによって空気圧で身体に張り付いて生身のお腹ポッコリが分かっても構わない。

 迷子で泣いているかもしれない五番ちゃんのところへ走った。


 早く早く五番ちゃんの所に行かなくちゃ!

 これこそが私が長年見続けてきた悪夢ではないか!

 

 思い出す恐怖の日、7年前の夏、名古屋駅。

 電車慣れしていない私に友人が、ここから電車に乗ったら家に帰れるよと乗り口まで連れて行ってくれた。彼女は別の電車なので、じゃぁまたねと帰っていったその後、改札が見えているのに行けない。階段はベビーカーでは登れないのだ。エレベーターを探す私に容赦なく押し寄せる階段。階段階段階段。

 それから約一時間、名古屋駅の地下街や、ミッドランドや地上の交差点などなど、改札に行けず彷徨い歩く。

 双子用ベビーカーには三番四番。五番はスリングで体にくっついていて、一番二番が歩きでついてくる状況だった。


 この体験はその後何年も私の夢にさらに酷い悪夢で幾度となく現れる。

 

 ここで待ってね、ちょと見てくるからと言ってその場を離れ、切符を買って戻る場所は子どものいる場所ではなく、私は子どもを探して探して、何であの時離れてしまったんだろうと後悔して探し回って、見つからずはっと目が覚める。まさにそれが浮かんだ。


 「五番ちゃん!五番ちゃん!五番ちゃーーーん!」


 私は五番ちゃんの名前を呼びながら下宮の入り口に向かって走った。誰にどう見られてるかなんて関係なく、五番ちゃんを捕獲せねば。


 「ママーーーーーーーーーー!」


 五番ちゃんはトイレの前で泣きながらその場から動かず待っていた。


 「えらい五番ちゃん! 迷子になったら動かないことを覚えてたね!!」


 五番ちゃんは私にしがみ付き泣いた。いなくなって怖かったと泣いた。そして言った。


「お母さん今日ずっとしてる脳内再生っていうのやめて、私のこと見てよぉ。」


 五番ちゃんよくお母さんの脳内再生のこと知っていましたね。

うん、ごめんなさい。お母さん、ハマったら妄想から抜け出せないかもだわ。


 この後のお伊勢参りは、私のスキル向上のための脳内再生で文章化練習ではなく、家族時間を満喫! に切りかえると、心に決め、車に戻ったところで、一番から四番の子どもたちが口を揃えて5番を責めた。


「トイレに行く時は、トイレに行くって宣言しなかった五番が悪い。」


 いいえ、皆様私の脳内再生ハマってます! で子どもを見れてなかったのが悪いんです。だって、すんごい頭の中そればっかりで今日の君たちの服のチェックさえしてないんだから。

 

 と、せっかくの旅行なのに穴が空いている黒いスパッツを履いてきてる娘を見て思う母なのだった。


 あぁ、穴があったら入りたい。








 


 




 

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