第4話 我が家には小さいおじさんがいる説


 我が家には小さなおじさんが住んでいるのではないか?


 これは常々私の脳裏をよぎっては去っていく疑惑である。

 なぜそう思うのか? と言うと、、、、


 数年前に仕事を辞め、さらにはアキレス腱を子どもと一緒にやっていた剣道でブチッと気持ちよく切り、コロナもあってここ二年程引きこもりをしているわけだが、一人で家にいると、いろんな音が聞こえてくるのである。


 我が家は地方の都会ではない場所にあり、幹線道路からも一本二本離れた場所に建っている。ゆえ、日中は幹線道路を走る車の音や、家の裏の田んぼで作業する音などが聞こえはするが、基本、静かである。家の中は私が見逃し配信ドラマを見ている音がやめば、庭の木々が風でざわざわと音を立てるくらいで、それもまたその日の情景、音が奏でる我が家の庭はそれはそれで読書には最適なのだ。

 ゆえ私は、通販サイトでより快適な空間を求めて日々ネットサーフィンをついついしてしまう。読書するためのベストアイテムを探し、おお、これもいい、あれもいいと、ついついのめり込んで探してしまうのである。


 今の私はありがたいことに怪我の巧妙のおかげで無職。

 誰もいない平日昼間の自宅は間違いなく私の聖域だ。


 ママ友とランチ♪  などと外に行かねばお金を使うこともなく、(ママ友がほぼいないし、コロナだし・・・)光熱費を下げるために電気を最小限にすければ光熱費も上がらない。(静かに自分だけ生息していればいいのであれば電気などつけなくてもいい)家の中で静かに過ごすように生きているのが安心安全心地よいのである。


 だがしかしたまに、誰もいないはずの二階でゴトゴトと誰かがまさにそこで生活しているような音がする時がある。我が家は一階にキッチン、リビング、お風呂、トイレ、子どもと夫婦の寝室があり、二階は子ども部屋と屋根裏だけなのだ。子どもたちが学校に行っている時間に音がするのはおかしい。


 なんでそんな音がするのかと恐る恐る子どもの剣道で使う竹刀を持って二階に行ったことがあるが、あまりに怖くて、


 「いるって知ってるんだよ!出てこい!」


 と、大きな声を出して向かったら、どこにも誰もいなかったということがある。大きな声を出していたから逃げてしまったのか? と思い、何も言わずに、日中音が聞こえた際に私は勇気を振り絞り、竹刀を握ってそろりそろりと階段をゆっくり進み二階に行ったこともある。


 娘の子ども部屋をバーン! 誰もいない。

 息子の子ども部屋をバーン! ここもいない。

 息子部屋の隣にある屋根裏倉庫のドアを・・・・バーン! 

 屋根裏倉庫の日の入らない真っ暗闇の中、電気のスイッチをつけるが、やはり誰もいない・・・・。側から見たら、妄想にやられて一人恐怖を抱いて見えない敵と闘ってるちょっと痛い人だと思う。でも、その時の私は本気なのだ。


 あの、ひとりでいるときの、まるで誰もいない二階に誰かがいるような、ガタッとか、ゴソッという音は何なんだ!?


 私はある仮説を立てた。


 これはきっと誰かが私の家にこっそり住んでいるのかもしれない。と。我が家の作りは隠れる場所はあるし、家族が寝静まってから、その隠れて住んでいる人は行動するのかもしれない。そういえば、昨日二本しか飲んで無いはずのビールが、次の日四本飲んでいた残数になっていたこともある。明らかにおかしい。私は二本しか飲んでないはずなのに。なぜ?


 それだけじゃない。お手軽生春巻きサラダを作ろうと思って買っておいたカニカマもよく無くなっている。ハムもそうだ。明日お弁当がキャラ弁だからと買っておいたスライスチーズが全部なくなっていたのには、本当迷惑被った。キャラ弁の白の部分どうすんだ!? と。

 子どもたちに食べたのか?と聞いても、誰も食べたとは言わない。


 私の中にいつからかある疑惑が浮かんだ。


 「世に言う、これが小さいおじさんの現象なのではないか?」と。


 いやいや、冷蔵庫の中の盗み食いはうちの子ども、もしくは夫の犯行だろう。

 もしくは意識がなくなりかけた夜更の私か?

 

 では、あの私が一人でいる時の不可解な二階から聞こえてくる音は何なのだろうか?


 いやいや、それもうちの猫のものだろう。

 よく二階の子ども部屋で寝ているらしい。そうだそれだ! 小さなおじさんも、知らない誰かも私の家には住んでいるはずないさ。あり得ない!私のいつもの妄想だ。


 そう思っていた。

 

 そう思っていたのだ。


 今日までは。


 一泊二日の伊勢参りからの車の運転を、物凄い睡魔と戦いながら何とか無事に終え、一息ガレージでついた。あぁ、眠い、良かった無事に帰れてと、家族の後を追って家に入る。楽しかったねと言いながら、部屋着に着替えようとタンスのある寝室に向かって歩き始める私。


 ん?リビングの壁に設置されている床暖のコントローラーが黄緑に光っている。


 「あれ? 何で床暖房ついてるの? まさか? 消し忘れたか? ありえない! 誰もいないのに床暖房つけっぱなしとか! 」

 「え? いや、俺最後確認してちゃんと消したの記憶あるし。」と夫。

 「おかしいなー、床暖、確認したんだけどなー。見落とすなんてあり得ないんだけど。」とさらに続ける。

 「え? でもついてるよ、黄緑になってるもん。今つけたら赤色でしょ?」と言いながら私も出かける前に確認したしなと思う。夫婦二人でボケてることはまずないしなとも思う。


 「あー、出かける前に見逃したのかー最後私だったし。最悪。でもやってしまったことはしょうがないよね。あぁ、もう、本当バカ私。」と言いながら、すぐ近くの窓際のガラスゲージに住んでいるトカゲに話しかけた。


 「ペーちゃん、ドラちゃん、帰ってきたよ、寒くなかった? 大丈夫だった? バスキングライトちょっとだけつけてあげたほうがいいかな? 」


 その時、

 「ママ?」

 衝撃の事実をトカゲの購入者の息子が話し始めた。


 「あのさ、帰ってきて、すぐペーちゃんドラちゃん見たんだよね、そしたらライトついてて。

 絶対火事とか、俺危ないと思ってライト消してから旅行行ったんだよね、絶対ね、でも、帰ってきたらついてたの。お母さんが帰ってきてすぐにつけたんじゃないの?」


 私が最後に家の鍵をかけました。間違いありません。そして、バスキングライトは火事になったらいけないのでと、最後にもう一度確認しました。消してあることを。そして、今まさに最後にリビングに来たのはママ、つまり私ですよ?


 誰ですか? バスキングライトつけた人?


 たまに音を鳴らす人なんですか? 

 え? 

 まさか、床暖もつけてくれました? 


 「おかしいなー、床暖、確認したんだけどなー。見落とすなんてあり得ないんだけど。」


 夫の言った言葉もリフレイン・・・。



 我が家には、もしかしたら、世に言うところの小さなおじさん、もしくは、小さくないかもしれない誰かが住んでいるのかもしれない?



 怖すぎると思ったけど、帰ってくる時間に合わせて部屋をあっためてくれたり、トカゲちゃんたちを留守中見守ってくれるなら、ありがたいかもしれないと思ってしまう・・・・なわけないわ!


 子どもが寝た後の時間。つまり夫婦の時間を覗き見している小さなおじさんが、小さくない誰かがいるとしたら!? 

 あぁだめ! それR指定! かなりのR指定だから! 


 疑惑は続く。どこまでも。


 やっぱり小さいおじさんがいるのかなと真面目に考える2021師走。


 お伊勢参り旅行記を書きたかったのになと思いながら、それはまた今度ってことにして、高速と暗闇の堤防を走り続けた目の疲れを癒すためにお布団に沈んでゆくのでした。化粧をおとすこともわすれてね。

 



 

 


 

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