第3話
放課後、俺は教室の椅子に座って机にうつ伏せ状になっていた。
友達三人は先に帰っちゃったし、俺も早いとこ帰らなければならない。
下校時刻は既に午後6時を回っていた。
俺はずっと放心状態になっていて、昼休みの事で頭がいっぱいになっている。
放課後は瀬戸口麻夏を、惚れさせる為の実行を行う予定だったが、新の本命の人を惚れさせるなんて出来る訳もなく―――。
「どうしたら良いんだよ」
頭を抱えながらそんなぼやきが、俺の口から出る。
それを聞いている人が居るとは知らずに。
(紙切れ?)
顔を上げると瀬戸口麻夏が俺に視線を向ける事なく、昼休みの時と同じように一枚の紙切れを渡して来た。
『大丈夫?』
びっくりして彼女の方を見ると、クールに装いながら読書を始めた。
そういえば、俺は彼女に何の小説を読んでいるとか、好きな作家さんは誰とか聞いた事がなかった。
今まで瀬戸口麻夏を惚れさせる作戦ばかり考えていたからか、彼女の事は何一つ知らない。
それ所か、彼女とちゃんとした会話すらしていない。だから少しだけ彼女に、興味が湧いてしまう。
「何の小説読んでるんだ?」
さり気なく彼女に聞いてみた。これは彼女を自分に惚れさせる為とか、罰ゲームだからとか関係ない。
ただ単に、瀬戸口麻夏と……瀬戸口さんと話がしてみたいと思った俺の勝手な我儘だ。
「……」
しかし彼女は小説に目を移したまま、筆記用具からシャーペンを取り出すと、紙切れに文字を書いていた。
『ラブコメ』
もしかしてラブコメ好きなのか?相変わらず口を開こうとはしないが、続けて聞いてみた。
「どんな内容なんだ?」
「……」
「登場人物は?」
「……」
「えーっと、瀬戸口さん?」
「……」
またガン無視かよ!!
さっきまで会話を紙切れで返してくれて、少し浮かれていた俺がバカみたいだ。
瀬戸口さんから離れ自分のスクールバッグを手に持ち、教室を出ようとしたその時だった。
「……っ」
「え……?」
俺の制服を軽く引っ張ると耳元で何かを囁かれた。囁かれた内容は良く聞こえなかったが、少しだけ彼女が俺に笑顔を見せてくれた気がして、心臓が軽く跳ね上がった。
そのまま彼女は俺に背を向けると、教室を出て行く。
普段、無口でクールな女子だが、俺だけに見せてくれたあの笑顔が、目に焼き付いて頭から離れない。
好きな女子だからこそ、罰ゲームで告りたくないと言うあいつの気持ちが少し分かった気がした。
それに、このモヤッとした気持ち……。
俺は一人教室の真ん中で、呆然と立ち尽くしたまま彼女が出て行った廊下を眺めていた。
◇
翌日の昼休み、俺は新を屋上に呼び出し本当の事を全て打ち明けた。このまま新とギクシャクした関係なのは嫌だからだ。
例え殴り合いの喧嘩になったとしても、友達の縁を切られたとしても、隠し事だけはしたくない。
それに、新は俺の大事な友達であって親友だ。
「んで、お前はどうしたいんだ?」
「え?」
「瀬戸口さんの事、好きになったんだろ?」
「俺は……」
自分でも良く分からない。好きか嫌いかって聞かれれば、こないだの俺なら躊躇なく嫌いだと答えていただろう。だが、今の俺は間違いなく彼女に惚れている。
初めは罰ゲームとして、瀬戸口麻夏を俺に惚れさせるのが目的だった。
しかし今では、逆に俺の方が瀬戸口麻夏に惚れてしまっている。
あれ以来俺は、彼女の事が頭から離れなくなった。
これが恋としての好きなのか、クラスメイトとしての好きなのかは分からない。
だけど、新が瀬戸口さんに告白しに行くって知った時、胸がズキッと少し痛んだ。
もしかしたら、俺は既にあの時から、瀬戸口さんに惚れてしまっていたんだ。
「俺は……。瀬戸口麻夏が好きだ。無口でクールで、俺の事をすぐ無視するし、無視したかと思えば優しかったり、俺はそんな彼女の事が好きなんだ!だから、俺は……。俺は、罰ゲームとかじゃなく、本気であいつを俺に惚れさせたいと思っている!」
今更何を言ってるんだと自分でも分かっている。だけど仕方ないだろ?
気付いた時には、彼女に惚れていたのだから。
「それがお前の気持ちか?」
「あぁ、そうだよ!だからお前には負けたくないと思ったし、瀬戸口さんを渡したくもない」
「……」
俺がライバル宣言をすると、新は溜め息を吐いた。
「俺は既に振られたよ」
「……は?」
「瀬戸口さんから言われたんだ。釣り合わないと」
「紙切れで?」
「紙切れ?何の事を言ってるんだ?口に出してに決まってんだろ」
どういう事だ?新たには口に出して伝えたのか?俺、声すら聞いた事ないんだけど!?
「良かったなー。ライバル減って」
そういう新は俺の顔を見てニヤニヤしていて、正直言ってうざい。
「声返せ!」
「は?意味分からんぞ、お前。声って何だよ!」
「瀬戸口麻夏の声だよ!」
二人でふざけ合っていると、昼休み終了の予鈴が鳴った。慌てて二人で教室へ戻り、席へ座ると瀬戸口さんは自分の席でクールに読書を楽しんでいるようだ。
俺は難易度の高い女子を選んだものだ。
今まで振った男の数は計り知れなく、例えどんなイケメンだとしても、交際をお断りしているらしい。
もし瀬戸口麻夏を惚れさせる事が出来たら……。
は、初彼氏になれるのでは!
そして俺はまだ実行に移せていない、囁きボイスを彼女にあげようではないか!
俺は女子から良く、顔が良い、声がイケボ、スタイルが良いと言われてきた男だ。
こんな完璧な男を選ばないとは、彼女は損をしている。
今日の放課後こそ、彼女を惚れさせるぞー!
◇
「んー、入るか入らないか」
俺は今、図書室の前を往復20回行き来している。他の人から見れば俺怪しくね?
まるで彼女のストーカーのようだ。
実際ストーカーみたいなもんだが、彼女の事を意識しだしてからはなかなか行動に移せなくなった。
一緒に図書室に行くと言う作戦はどこに消えたのやら……。
帰りのHRが終わると彼女はスクールバッグを持って、さっさと教室を出た。
そして彼女の後ろを付けるように、俺も急いだのだが、彼女の足が速すぎて追い付けなかった。
でも場所は把握しているし、彼女を見失ったからと、慌てる必要はない。
息を吸って吐いて……。意を決して図書室の中へと入る。
俺の勘は正しかったようで、瀬戸口さんは今日も奥の椅子に腰を掛け、静かに読書をしている。
俺は彼女の読書の邪魔にならないよう、彼女の座ってる席を一つ空けて座った。
その時、彼女は俺が図書室に来るのを予想していたのか一枚の紙切れが台の上に置かれていてそれを読む。
『教室で話し掛けて来たら無視する』
はぁぁぁぁぁ!!?
何でだよ!!
『それと、私を惚れさせるのは10年早い』
な、何でバレてんだ!!
慌ててる俺を見て彼女は少しだけ笑った。
クールに振る舞う彼女を惚れさせるには、もう少し先のお話―――。
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ここまでお読み頂きありがとうございますm(_ _)m
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【完結】罰ゲームで無口なクール女子を惚れさせる事になった俺だが、ガン無視ってそれはない【短編1万文字以内】 天馬るき @tenma_ruki
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