第144話 星空に楽園を

 トウテツがやってきた。

 売り払った宇宙船はかなりのポイントになったので、トウテツからガンガン植物を買い込むのだ。


『ああ~。こんなに買ってくれる人初めてだよー。在庫が切れちゃったー』


 トウテツが嬉しい悲鳴を上げた。

 UFOの中には結構な数の植物があったようだが、全部宇宙ステーションに植えるために買い取ったからな。


「空気が無いがエーテルでも育つの?」


『この植物は大丈夫だよー。ただ、水は必要になるから川を引いてあげないといけないねー』


「なるほど」


 そうなれば、天地創造スキルの発動である。

 何もないところにツルハシを叩きつけると、水が吹き出す。

 これを、宇宙ステーションの表面を掘り進みながら川にしていくのだ。


「これ、どこから湧いてるんだろうねえ……」


「全く原理は分からないが、まあこういうものなんだろう」


『無から水を作り出す権能! 宇宙からの襲来者を打ち倒す強さ! なるほど、大いなるCが入れ込むのも分かる神だ』


 ダゴンが俺の作業っぷりを眺めながら、うんうん頷いている。


『最初はどうして自らの力を振るうのか、奉仕種族にやらせぬのか疑問だったが、一つ一つの行為があまりにも高度過ぎる。これは神である御身の力なくしては行えまい』


「お分かりいただけただろうか」


 ダゴン氏、とても理解が早い。

 協力もしてくれるようで、魔人商店で買い込んだ宇宙ビニールを天幕のように貼ってくれることになった。


 宇宙は大気が無いからな。

 この宇宙ビニールがその代わりを果たし、ここに生えた植物たちをビニールハウスで育てるような状況にしてくれるのだ。


「タマル様、差し入れです! 宇宙服のまま飲めるドリンクです」


「お、サンキュー」


 人間がドリンクを持ってきたので、受け取って飲む。

 おっ、ちょっと塩の入ったレモネードじゃん。

 水分補給に最適。


 遠くでシェフがドヤ顔をしているが、あの男、こんな爽やかなドリンクも作れるとは……。

 邪神は見た目によらないな。


「いやあ……しかし凄いことになりましたねえ。俺、てっきり魔人たちにすり潰されて人間は滅びるんだとばっかり思ってたんすよね」


 その人間は、川を引く作業を手伝いながら語る。

 天地創造スキルは俺だけでなく、ポルポルも加わる。

 だがポルポルは小さいので、ドローンに乗ったりする必要があるのだ。


 それだと高度の調整などが必要になる。

 ということで、もっと細かい調整が容易な、人に抱っこされた状態になるととても具合がいい。


『ピピー』


 ポルポルがご満悦だ。

 川べりを補強する石材みたいなのをザラザラ吐き出しながら、作業の順調さを楽しんでいる。


「それがある日、タマル様が骨をたくさん連れてやって来たじゃないですか。あそこから何もかも変わったんですよ。魔人侯が凄い速さで減って、真っ暗だった世界に光が差し込んできて、俺たちが生活できるようになって……」


「そうかそうか。俺が快適にスローライフするための余録だったろうが、お前らがまあまあ幸せに生きられるならよしだ。同じ鍋を囲んで飯を食った仲間だからな。守ってやるぞ」


「ありがとうございます! タマル様は魔人侯なんかじゃない。伝承にある神様ってやつですよ!」


「最近よく言われるようになって来た気がする。でも、邪神と呼ばれないのは初めてだな」


 悪い気はしない。

 こうして川を引き、宇宙植物たちは存分に水を吸えるようになった。


 こいつら、水が無くても平気は平気らしいのだが、そうすると極彩色の葉をつけたり、知的生命体を貪り食らう花を実らせたりするらしい。

 水を与えておくとそんな必要はなくなるので、平和的植物として共存できるのだ。


 木々が生え、花が咲き、果実が実り、川は流れ……。

 宇宙ステーションが楽園になってきた。


 川は宇宙ステーションを透過して虚空を流れるみたいになってたりするので、地上から見上げるとどんな風になっているのか気になるな。


『いやはや! 凄いことになってきましたな! これはもう、誰かが住めるのでは? ああ、空気がないからそこは問題ですな』


 ひと仕事終えたラムザーが帰ってきた。


「人間や魔人は呼吸できないが、邪神はいけるからな。ここはヌキチータにホテルかなにかを建てさせてだな。地上は観光して回る場所に特化させるのがいいのではないか」


『ほうほう、なるほど……。我には観光とかそういうのはよく分かりませんがな』


「俺と一緒に世界中旅しただろ。見たこと無い光景をたくさん見ただろ。ああいうのが観光だ」


『ははあ! そうしますと、観光というのはずいぶん物騒なものですなあ』


「魔人侯と戦ったり迷宮に潜ったりはしないぞ」


『ははあ、だとすると楽ちんなものですなあ』


 この落差よ。

 こうして、最終決戦前の備えはできた。

 いや、備えというか生活環境とか、観光地としての基盤を固めただけというか。


 だがよく考えても見ると……。

 俺たちの生活にいちゃもんをつけ、活動を妨害してきて責任も何も取らない連中に時間を割くことそのものが無駄ではないだろうか。

 もっとこう、身も蓋もないやり方であいつらに分からせを……。


 その時、俺の脳裏に電流が走る────。


「エーテルバスターキャノンぶっ放せばよかったじゃん」


 全てを解決する、まさに神の一手である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る