第143話 飛び立て、スペースゴッドタマル号

『ポイントが溜まっていましたから新しい装備を仕入れておきましたぞー』


「おっ、ありがたい!」


 持つべきものはラムザーである。

 魔人商店の双子もちょうど来ているので、この場で決済が完了したそうだ。


 買ったのは、蚊帳セット。

 蚊が飛び込んでこないようにして、安眠するためのやつね。


 それが、船を包み込むほどの大きさをしている。

 当然、たくさんポイントを使った。


 だが蚊帳で飛空艇を包むということは、守りが万全になるということでもあるのだ!


「ぐはははは! これでカトンボめいたスペピの攻撃など通らんぞ! 怯えろ、すくめ! ゲットされてポイント還元される恐怖を味わうがいい!」


「タマルが最近で一番悪そうな顔してる!!」


「スペピの連中、自分を正義なんて言ってるんだぞ? あんな星に廃棄物撃ち込むようなのが正義なら、俺が悪ということは即ち善だろ」


「ううーっ!? 難しくない?」


 観念論は難しかったか!

 ともかく、混乱する環境保護艦隊の中へと飛び込んでいく、スペースゴッドタマル号。


 浴びせかけられる、ビームっぽい集中砲火!

 スペースゴッドタマル号は今、爆発の輝きに閉じ込められた!


 だが!


「効かーんっ!!」


 ビーム全てを蚊帳で防いで、輝きの中からニューっと船首を覗かせる飛空艇なのである。

 宇宙船群は表情が見えんな。

 動揺してるとは思うが、ひたすら撃ってくる。


「骨次郎、ぶちかませ!」


『カタカター!』


『カタカタ!』


 応答する骨次郎の隣で、骨ボウズが元気にジャンプする。

 骨三郎キャノンが腕組みしながらキャノンをぶっ放す。こっちは虚仮威しキャノンだ。


「よーし、じゃあグラップルアームをやっちゃうか! スペースゴッドタマル号、リンク!」


 俺の主観が、スペースゴッドタマル号を後ろから見るTPS(サードパーソンシューティング)に切り替わる。

 どういう仕組で、このカメラはどこにあるんだろうな!

 考えちゃいかんな。


 ビームの中を突っ切った飛空艇は、生えている腕を蚊帳の隙間からニューっと伸ばして、その先にいた宇宙船を虫取り網で叩いた。


 ピョインッ!!

 宇宙船が消滅する。

 よしよし。


 アイテムボックスに宇宙船が登録された。


『新しいレシピが生まれた!』


▶DIYレシピ

 ※人工衛星

 素材:宇宙船


「ちょっと主観を船に戻すね」


「あっ、消えてたタマルが戻ってきた!!」


 ポタルが仰天している。

 さては、飛空艇を操作している俺は姿が消えてしまうのだな。

 どうやらあのカメラ視点は、まさに俺の視点だったらしい。


 トンカントンカン。


『オーウ! 今度のDIYはトゥービッグですねー! バッド、エレベーターよりはスモールですけどねー!』


『大きいものを連続して作っていたから、感覚がおかしくなりますなあ。トゥービッグなアイテムに、あちらは飛びつくとぅーびつくこともできませんからな』


「んっ!? 今ダジャレ言った?」


『言ってませんぞ』


 人工衛星が一個生まれ、それがスペースゴッドタマル号の周辺を高速で回転し始めた。

 まさかの、飛空艇を回る衛星軌道かよ!


 蚊帳だけでなく、衛星もビームを弾き始める。

 それどころか、角度を調整すると反射できるな。


 おっ、あっちで自分のビームを食らった宇宙船が轟沈し始めた。

 もったいないもったいない……。


 急カーブで突進して、沈みかけの船をゲットした。


『オーウ! 左舷からフォトントーピードでーす!』


「なんでフランクリンお前光子魚雷とか知ってるの!? うりゃっ」


 これはグラップルハエたたきで叩き落とす。

 飛空艇はなんか、蚊帳に包まれたことで外界の時間の流れと隔絶したらしく、亜光速とかマジ光速とかで動いているようである。

 つまり、光子魚雷も船と同じ速度で向かってくる普通の魚雷みたいなものなのだ。


 そしてグラップルアームの挙動は俺が虫取り網を振るう感覚でいける。

 この速度ならば、楽に目視して余裕たっぷりに叩き落とせるというわけなのだ。


 目視できる……?

 光学的観測は光によるからウンヌンカンヌン……。


「タマルー! タマルー!」


 おお、いかんいかん!

 ポタルの声で現実に呼び戻された。

 俺の姿は消えているので、甲板をペチペチ叩いているのだが、なんとなくそれで伝わるぞ。


 難しいことを考えたらいかん。

 スローライフサイドからSFサイドに引き込まれてしまう。

 ともかく、また戻って衛星を増やそう。


 人工衛星が二つになったよ!


 ここでようやく、環境保護艦隊は何を相手にしているかを理解したらしい。

 なにせ、向こうの船が二隻消滅したかと思ったら、同じ構造材を使った人工衛星が二つ出現したのだ。

 ビームも効かず、撃ち込んだ廃棄物は再利用される。


 詰みである。

 ガンガン近づいて、バカスカ宇宙船をゲットする。


 だが、飛空艇にも唯一弱点があったようだ。

 環境保護艦隊がワームホールみたいなのを展開して、逃げていくのだ。


 この全力撤退速度に追いつけない。


「やっぱり飛空艇では宇宙船の速さには達しないな」


 十二の人工衛星をぐるぐる回しながら、俺は考えた。

 だが、攻めのために進化することはスローライフではない。


 例えば人工衛星は、スローライフのために様々な利用、活用ができる。

 だが、飛空艇加速装置などを作っても、スローな使用は難しかろう。


『別にどんどん強くなってもいいんじゃないの? 話が早いじゃない』


「それはちょっと違うのだキャロル。スローライフはこの先も続いていく。つまり、そのスローライフの中で活かし、生活を豊かにするわけではないものは作っても仕方がないのだ。それに移動速度が早くなると便利になる。便利になりすぎると、だんだん生活はファストライフになっていく……! スローライフはその時、敗北してしまう」


『こだわる男ねえ。そんなことよりあたし、お腹が減ったわ! ご飯にしましょ!』


「おっ、そうだな」


 そういうことになった。

 しかし、二度も退けられた環境保護艦隊。

 そろそろ全力で攻めてくるのではあるまいか。


 その時が最後の勝負である。

 俺たちのスローライフが勝つか、邪悪な環境保護が勝つか!



▶DIYレシピ

 人工衛星

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