第111話一座の秘密10

また手伝い?

さっきも手伝ったはずだけど。

孫次郎さんも少し違和感を覚えたみたい。


「申し訳ありませんが、片付けが残ってますので。」


お坊さんの頼みをやんわり断る。


「片付けは他の者に頼みましょう。ですからご主人は何もなさなくてよいです。何なら先に帰られても…。」


「弟子を置いては帰れません。」


凄く怪しい雰囲気だ。

私も出来る事なら早く帰りたい。

だけど、食い下がらないお坊さんと困っている孫次郎さんを見てじっとはしてられなかった。


「わかりました。わた…僕、手伝います。」


「おぉ、そうか。助かる。」


ちょっと手伝って直ぐに帰って来ればいい。


「おいっ!勝手に決めてるんじゃないっ!」


「大丈夫ですよ~。僕だって大人なんですから。」


孫次郎さんが怒るのも無理もない。

きっと帰ってきたらもっと怒られるんだろうな。


「だったら俺も行く。いいでしょうか?」


「まぁ…かまわん。」


勝手に与一君が名乗り出て一緒に手伝う事になってしまった。

私が口を出す暇も無かった。

私だけが行けば解決できたのに…どうして。


「お前ら、勝手に話を進めてるんじゃねぇ。」


「まぁ、まぁ、ご主人。心配する気持ちはよくわかりましたから。終わればすぐにでも帰らせるとお約束いたしますので。」


「本当だな。俺はこいつらが戻って来るまでここを動かないからな。」


孫次郎さんはお坊さんを睨む。

お坊さんは胡散臭い笑顔を浮かべていた。


孫次郎さんを置いて私達はお坊さんの背中を追うと、またあの広間にやって来た。


「よいか、そなたらは空になった器に酒を注げばよい。わかったか?」


「わかりました。」


「はい…。」


それって接待じゃない?

私は社会人だからそういうのは散々やって来たから、大丈夫だけど与一君は平気だろうか。


「お前はあそこの権左衛門様のお相手するように。」


あそこって…さっき私が饅頭を置いた人の所じゃない。

い、行きたくない。


「わかりました。」


「くれぐれも失礼のないようにな。」


「はい。」


仕方が無い頑張るか。


「俺は誰にお酌すればいいんですか?」


「あぁ、お前は誰でもよい。」


どうやら与一君は決まった人にお酌をしなくていいらしい。

それを聞いて少し安心した。

同じ人にお酌するのは気を遣うし、根性も我慢も必要になる。

そんな事させたくない。


「ほら、何をしている。さっさと行け。」


「はい。」


行く前にちょっと与一君と話したかったな。

与一君も何か言いたげな表情だったが、怪しまれる訳にもいかず私達はお酌をしに行った。


「失礼いたします。」


空になっている器にお酒を注ぐ。


「おぉ、やっと来たか。」


権左衛門と言う人はお酒が入っているからか上機嫌だ。

お酒を注いでも、注いでも直ぐに空になる。


私を見ながら飲まないで。

私はあなたの酒のつまみになった覚えはない。

どんなに嫌でも営業スマイルを崩す事はない。


「名は何と言う?」


「菜蔵(さいぞう)です。」


「ほうそうか、そうか。菜蔵は女子のような見目だな~。勿論良い意味でな。」


何かセクハラ受けてる気分。

きっと女子社員達の間で嫌われるタイプの人だ。


「よく言われますが、男ですよ~。」


「悪い、悪い。そう怒るな。」


そう言って男は私のお尻を人撫でした。

声が出てしまいそうなところを必死に堪える。

この人本当にセクハラしてきた!


「菜蔵は尻も柔らかいのう。」


「………。」


よし、決めた。

この人潰してしまおう。




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