第112話一座の秘密11
私の尻を撫でまわす権左衛門に私から声を掛ける。
「お酒…美味しいですか~?」
「美味いぞ~。菜蔵も飲むか?」
その言葉を待っていた。
「いいんですか!ではお言葉に甘えて!」
私もお酒をグイっと一気に飲む。
うん、これは中々美味しいお酒だ。
「いい飲みっぷりではないか。ほらほら、もっと飲め。」
「頂きます!その前に権左衛門様の器にもお入れいたします。」
男の器にはまだ少しお酒が入っていたが気にせずに入れた。
入れたからには相手も一口は口を付けなければいけない。
そうやって一緒に飲みながら相手を潰していく。
私が心の中で不敵に笑っていると、一人の綺麗な女性が近寄って来た。
「旦那~、すこ~しお話があるんだけどいいかい?」
「何だお菊か、今いいところなんだ。」
「ちょいと…ね?」
顔の表情といい、声といいあざとい。
綺麗な上にこんな頼み方されたらたまったもんじゃないよね。
女の私ですら可愛いと思ってしまった。
「はぁ、手短にすませろよ。少し待ってておくれよ菜蔵。」
「わかりました~。」
綺麗な女性は私にウインクをして男の人と広間を出て行った。
せっかく一気に酔わせて帰らせようとしていたのに。
自分の器に入っているお酒を飲もうとした時、またまた綺麗なお姉さんが近づいて来た。
「そこのお方ちょっといいかしら?」
「はい?」
そのお姉さんいきなり腕を掴むと、私を広間から引っ張り出した。
お姉さんとは思えない凄い力だった。
広間から離れると綺麗なお姉さんからいきなり低い声で怒られる。
「お前ここで何やってんだよっ!!」
それは私が知ってる声でもあった。
「えぇっ、太郎さんですか!?お綺麗ですね~。」
髪の毛も化粧も普段と全然違っていて気が付かなかった。
「声が大きい。今、五郎が時間をかせいでる。だから今の内に出て行け。」
「出て行ったら、太郎さんと五郎さんが怒られませんか?」
「大丈夫だ。心配するな。だから早く行け。」
本当に怒られないだろうか。
心配になるが、でもここからは私も早く出た方がいいと思っていた。
今度お礼をいっぱいしてあげよう。
「ありがとうございます。でも中に与一君がいるんです。その子と一緒じゃないと…。」
「…んっ。」
着物が引っ張られる方向を見ると、与一君がいた。
隣には同じ背丈ぐらいの可愛い女の子。
「こいつ、客一人一人を睨みつけてたから直ぐに外の奴だってわかったよ。お姉ちゃんも大変だね。」
「んんん?その声も聞いた時ある。」
「え~、まだわからないの~?太郎と一緒に会った事あるよ。もちろん女形の姿でだけど。ほら、惣菜まん食べたいって言ったでしょ。」
そこでピーンときた。
あの時の綺麗なお姉さんとあの可愛い女の子か!!
「いいからさっさと行け!お前も余計な事を喋らなくていい。」
太郎さんは隣にいる子を怒った。
何であの時言ってくれなかったのか気になるけど、それはまた今度聞こう。
「本当にありがとう。」
私は与一君と小走りで孫次郎さんが待つ料理場に向かった。
だけどそこには孫次郎さんの姿が無かった。
「一体どういうこと?」
孫次郎さんが先に帰るとは考えずらい。
「外に出て探してみる?」
「うん…そうだね。」
こういう時あんまり動き回っちゃいけないのはわかるけど、孫次郎さんを置いては帰れない。
与一君と一緒に外に出て孫次郎さんを探すが見つからない。
そして私達にもっとも恐れていた事が起こる。
「探したぞ!!小僧ども!!」
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