第110話一座の秘密9
足早に料理場に向かい、饅頭を食べにいく。
やっぱり作ったからには食べたい。
絶対美味しいはず!
「一個づつしか残らなかったけど、三等分して食べてみましょう!」
「お前…もうちょっと緊張感ないのか…。」
「俺も思った。」
だって仕方が無いじゃない。
乙女は甘い物には弱いのだから。
与一君だって好きなくせに…。
「わかりました。緊張感を持って私が一人でこの饅頭を食べましょう。」
「おい…。」
「ちょっちょっと!」
どうやら食べたいには食べたいらしい。
二人の反応を楽しんだ後に饅頭を三等分した。
「ではでは~、頂きます~!!」
まずは普通のあんこが入った饅頭の方から。
口の中にポンッと放り込む。
「素朴な…お味ですね。お豆のお味がします…。」
うん、想像通りのお味で何も感想が出て来ない。
一応お寺のリクエストした通りに作った小豆が入った饅頭。
ここに来る前に言ってくれれば砂糖や蜂蜜を使わないで甘く作る準備を孫次郎さんとしてたのに。
「中の味はまぁ…あれだが、この皮はいいな。餅に近い食感だな。」
「俺も皮は好き。」
餅米を使ったから皮はもっちり食感に仕上がり、皆からの反応がいい。
苦労したかいがあった。
明日は筋肉痛だろう。
「次はお待ちかねの干し柿入りの饅頭です~。」
きっと皆こっちの饅頭を期待しているはず。
かく言う私もそうだ。
三等分した干し柿入り饅頭を手に取り口の中に放り込む。
「ん~~!!これですね〜!!」
この甘い饅頭は私が知っている饅頭に少し近い味になっていた。
これはお茶が飲みたくなる。
「柿の風味、甘みが豆の味と良く合う。さっきのに比べると味に華やかさが出たな。」
「それにこの皮とも合ってると思う。」
「坊主わかってるじゃねぇか。」
孫次郎さんに褒められて与一君がわかりやすく照れる。
あら、あら、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったのかしら。
そんな二人を見てクスクス笑っていたら料理場にバタバタと足音が聞こえて来た。
「主人!主人はまだおられるか?!」
「はい、どうかなされましたか?」
只ならぬ雰囲気でお坊さんが入って来た。
私が作った饅頭で何かあったのだろうか。
心臓が大きく飛び跳ねる。
「広間まで少しよろしいですかな。」
「わかりました。」
そう言って孫次郎さんは広間に行ってしまった。
与一君と一緒に片付けをするが、呼び出された事が気になって中々すすまない。
「大丈夫だよ。師匠の料理で不味いって思った事ない。」
「ありがとう。」
与一君と一緒で良かった。
一人で居るより安心する。
しばらくすると孫次郎さんが帰って来た。
「どうでしたか?」
聞くのが怖いがやはり気になる。
「そんな心配そうな顔をするな。自分の作ったもんに自信を持て。」
「はい…。」
「褒められた。皆口を揃えて美味いって。だから作ったもんに自信持てっ!」
そう言うと孫次郎さんに背中を強く叩かれた。
「はい!!」
片付けを再開しているとバタバタと足音がまた聞こえて来る。
皆少し身構えているのがわかった。
やっぱりその足音の正体はお坊さんで私と目が合う。
「おぉ、まだおったか。そこのお前ちょっと手伝え。よろしいですな、主人。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます