第109話一座の秘密8

二人とも不満げな声を上げる。


「何で六十個から百二十個に増える!」


「たぶん…師匠の思い付き。」


孫次郎さんには怒鳴られて、与一君はあきれている。

孫次郎さんにもう一つの干し柿が入ったあんこをそっと出した。


「これは何だ?」


「あんこです。」


「こっちは?」


「あんこです。」


孫次郎さんと私をおいて与一君は黙々とあんこを包んでいく。

流石に説明しなくちゃね。


「こっちのあんこは素朴な味が楽しめるあんこです。どうぞ。」


一口食べるように孫次郎さんにすすめる。


「豆の味だな。塩がきいてる。」


「そうですね、塩を少し入れました。皮もあまり味がしないので味を少し付けました。」


「なるほどな。でこっちは?」


「どうぞ。」


今度は何が入っているか説明しないで干し柿入りのあんこをすすめた。


「柿か…。甘いな。」


「はい、私が知っている饅頭は甘いんです。だからこれは私が作ってみたかっただけですね!美味しいででしょ!」


「美味しいには美味しいが…。はぁ…百二十個って…。」


「早くやらないと終わりませんよ!次は蒸さないといけないので!」


黙々と作業している与一君を見習って私も頑張らないと。

あんこを包みつつ、次々と蒸していく。

この工程を何度も繰り返す。


「後はこれを蒸せば終わりだよ~。」


「夢に饅頭が出てきそうだ。」


「俺も…。」


私も夢にで出来そう。

でも何だかんだで終わりが見えてきたのでホッとした。

お寺だけあって竈が四つあったのは助かった。


指定されたお皿に饅頭を二種類置き終える。

その後、与一君より小さな子共が何人か来てそのお皿を持って行く。


持って行く手が震えていたのは気のせいだっただろうか。

お坊さんが料理場に入って来るや否や、与一君と私に向かって言う。


「おい、そこの小僧ども!二人手伝え!」


「えっ?わたしー」


「はい、わかりました。」


私が返事をする前に与一君が返事を返す。

続けて孫次郎さんも手伝うと言うが…。


「でしたら私も手伝います。弟子だけ行かせて粗相させる訳にもいけませんから。」


「あぁ、主人は結構です。二人いれば足りますのでね。」


「わかりました。頼んだぞ。」


与一君と孫次郎さんが頷き合う。

小さな子供達の後を付いて行きながら与一君に小さな声で言われる。


「俺から離れないで。それともっと男らしく。」


「はい…。」


自分が男装してるの忘れてた。

ここからもう一回気合入れなきゃ。


長い廊下を歩いて行くと大きな部屋に皆入って行く。

そこにはお坊さんと綺麗な着物を着た女性が沢山いた。


あれ?ここって女人禁制じゃなかったの?

もしかして私が男装する意味なかった?

疑問が残る中、饅頭を置く。


「ほう~、これが饅頭とやらか~。」


男の人はお坊さんだけかと思ったけど、この人は明らかにお坊さんじゃない気がする。

だからっといって私達のような平民でもない。

服装からしても明らかに違う。


「何だ?お前…。」


「えっ…あっ別に何でもございません。失礼します。」


私は急ぎ足でその場を離れた。

私の後から与一君が走って来る。


「離れないでって言ったのに!大丈夫だった?何かされなかった?」


「うん、この通り大丈夫だよ。早く戻って饅頭食べよう。」


「心配して損した…。」






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