第105話一座の秘密4

その日もまたいつも通り孫次郎さんのお店に向かい、いつも通り仕事をした。


「じゃあ、私はこれで。」


孫次郎さんはさっきお寺に行ってしまった。

私も早く後を追わなくては。

急いで後を追うと丁度孫次郎さんが立派な建物の裏口に入っていくのが見えた。


「場所はわかった。後は…う~ん着物どこで着替えようかな…。」


あの僧侶さん女って事に執着してたみたいだから私が男装すればお寺に入れるのではと考え、貸してもらった着物。

そして孫次郎さんを手伝う事が出来るのではと。


でも着替える場所を考えておらず着替えが入った風呂敷をぎゅっと抱きしめた。

誰かに袖を引っ張られる。


「やっぱり師匠ここにいた。」


「与一君!どうしてここに?」


「昨日このお寺の噂聞いてきたでしょ。だから何となくそうじゃないかなって。」


私の腕を引っ張ったのは与一君だった。

驚いていると、与一君は私の袖を引っ張りながらお寺とは反対方向に歩き始める。


「私あのお寺に用があるの。お世話になっている人が私のせいでそこにいるの。だから離して。」


「嫌だ。」


「お願い!与一君。」


一生懸命お願いするも与一君は腕を離してくれない。

だからっといって振りほどくことも私には出来なかった。


「はぁ…、着替えるんでしょ?」


「えっ、どうしてその事を知ってるの。」


「風呂敷の中身少し見えてたから。俺ん家に行こう。まだおっとうも帰って来てないはずだし。」


自分の迂闊さが嫌になる。

そしてふっとよしさんの事が気になった。


「その事よしさんって知ってる?」


「たぶん知らないと思う。見えた時に結び直したから。」


「ありがとう…。」


当分与一君には頭が上がらなくなりそうだ。

与一君のお家で男物の着物に着替えてからもう一度お寺に向かう。


「与一君、ここまで本当にありがとう。私行ってくるね。」


「うん。いってらっしゃい…。」


お寺に入る作戦はもう決まってる。

裏口の扉を叩いて、大きな声で!


「すみませーん!!」


お寺の扉が開くとお坊さんが出てきた。


昨日お店を訪ねてきたお坊さんだったので顔がこわばる。

私の正体に気付きませんように。


「何だいったい。」


「孫次郎の弟子の菜蔵さいぞうです。師匠の手伝いにきました。」


「手伝い?聞いてないぞ。そこで待て。」


きっと孫次郎さんに聞きに行ったんだ。

孫次郎さんがこの名前で気付いて入れてくれる事を祈る。

少し待つとお坊さんが戻って来た。


「入っていいぞ。」


「はい!」


よし、侵入成功だ!

お寺に入ろうとした時にお坊さんにまじまじと見られる。


「お前…どっかで会ったか?」


「っ!初めて会ったと思いますけど~。」


やばい!早くこの人から離れなきゃ。


「ん?…後ろの奴も弟子か?」




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