第104話一座の秘密3

明日って…。

もっと先の話だと思ってた。


「あんた…本当に大丈夫なのかい?」


「…何とかなる。」


本当に何とかなるのだろうか。

不安になってきた。


「やっぱり私も行きます。」


「駄目だ。」


孫次郎さんにキッパリ言われてしまった。

続けて初さんも言う。


「そうね…やめておいた方がいいわね。」


どうやら私がお寺に行くことは反対のようだ。


「どうしてか聞いてもいいですか?」


「若い娘が行くところじゃない。」


そのお寺は女人禁制なのだろうか。

でも孫次郎さんの言葉に違和感が残る。

私が首を傾げていると初さんが付け足すように言う。


「催しは夜で、しかもあのお寺あまりいい噂を聞かないのよ。この人が何とかなるって言うんだから信じましょう。ね?」


「はい…。」


私は罪悪感が抜けないまま、孫次郎さんと何度も惣菜まんを作ったのだった。

その日店に帰り、与一君を捕まえる。


「与一君、与一君ちょっと…。」


「何?」


「こっち来て、こっち。」


よしさんが居ない事を再度確認してから与一君にあのお寺について聞いてみた。

意外と与一君色々知ってるから。


「あぁ、おっとうが前話してたよ。そこが何?」


「噂ってどんなものがあるの?」


「怪しい人達が出入りしているとか。夜な夜な…ごにょごにょしてるとか。」


夜な夜なから声が小さくなり聞こえない。


「もう一回言って。夜な夜なのあとから。」


「っっまぐあってる…とか。」


顔を真っ赤にしてこっちを見ない。

私も釣られて私も顔が熱くなる。


「あぁ、なるほどね~。」


動揺していないように、大人の振る舞いを心掛けるが気まずい雰囲気が流れる。

与一君が顔を赤くしたまま強い眼差しで私を見る。


「その寺がどうしたの?行くとか言わないよね。」


「ちょっと気になっただけだよ。」


「そっか…。ならいいけど。」


与一君するどいなぁ。

ごめんね、嘘ついて。

私は明日へに向けて準備を進めた。

次の日の早朝になりある人が来るのを待つ。


「菜さん?」


そこに藤吉郎さんがやって来る。

信長様は来なくなってしまったが、その代わり藤吉郎さんが毎朝来るようになった。


「おはようございます。今日も藤吉郎さんが来ると思って待ってました。」


「俺を?わざわざすみません。」


「いいんです。私がしたくてした事なので。今、ご用意しますから。」


昨日から準備していた料理を持って来る。

こんな寒い日が続く日にはぴったりの料理だ。


「はい、煮込みうどんです。藤吉郎さん用に多めに作りました。」


「これは…!!」


本当は入れたいものがいっぱいあったのだが、それは材料が無いので断念して別のものを入れる事にした。

うどんの熱々お汁に浮いているのは、かき揚げ、きのこ、山菜、名前がわからない鳥肉(与一君からの頂き物)。

うどんも具材も二人前の量なので見た目の重厚感が凄い。


「本当に俺が食べていいんですか!」


「ええ、もちろん。温かいうちにどうぞ。」


「頂きます!!」


藤吉郎さんは嬉しそうにうどんをすすった。

それを見て嬉しい反面、罪悪感が私を襲う。


「この丸い柔らかいの美味しいですね!何ですかこれは?うどんとも汁ともよく合う。」


「ですよね、美味しいですよね。かき揚げって言うんですよ。今日のは野菜を饂飩粉で混ぜて揚げたものなんです。」


色んなかき揚げがあるけど、こういうシンプルなかき揚げって冒険した後に必ず戻って来るのよね。


「これは、本当に凄い!単体で食べれば口の中で衣がとろけて汁のうま味に油ぽさが加わり、野菜の甘みが…。とにかく旨いです!!」


「ありがとうございます。」


「単体で食べても旨いけどかき揚げを少し崩してうどんと一緒に食べても野菜のうま味、汁のうま味、油ぽさが相まってですね!」


「うん、うん。」


藤吉郎さんは私に一生懸命どこが美味しいか熱弁してくれる。

その美味しさ…昨日私も食べたので知ってます。

と心の中で言いながら藤吉郎さんの言葉に力強く何度も頷いた。


「凄く美味しかったです!今日の俺はお金持ってるんですよ!お代はいくらですか?」


「今日のお代はいりません。その代わり藤吉郎さんの着物をお借りする事って可能でしょうか?」


私は最初っからこの事を頼む為に今日藤吉郎さんを待って料理を振舞ったのだ。

全く酷い女だとつくづく思う。


「俺の着物ですか?それは構わないですけど。」


「この事信長様に言わないで貰ってもいいですか?後でちゃんと訳もお話しますから。」


「わかりました。この藤吉郎お約束します。」


藤吉郎さんは笑顔であっさり承諾してくれた。

少し驚きつつも感謝する。


「ありがとうございます。それで言いづらいんですが、今日の夕方までに貸して欲しいんです。」


「今日ですか。随分急ですね。わかりました。ひとっ走りして今取ってきます。」


藤吉さんは約束した通り、男物の着物を貸して貰った。


「これで…お寺に乗り込める。」


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