第102話一座の秘密1

いつ通り孫次郎さんのお店で働いている時だった。

思いがけない人が顔を出す。


「いらっしゃいませ…。ってどうしてここにっ!!」


お店に入って来たのは信長様だった。


「決まってるだろ。お前に会いにだ。」


「えっ…でもここでは私のお料理お出ししていませんよ。」


初さんに聞こえないように信長様の耳元でささやく。

ちょうどその場面を初さんに見られた。

あっ…何か嫌な予感。


「何だい!何だい!菜の良い人かい?」


「いえ、違います。」


そうキッパリ答えるがもう遅い。

この人も否定してくれれば誤解が解けるのに。

初さんは何だかとても嬉しそうだ。


「もう~隠さなくていいじゃないか。で、この子に何か用?って聞くのも野暮ね。お店はいいからちょっと話してらっしゃい。」


「いやでもー」


「いいから、いいから。」


初さんは私の背中を押してお店から追い出した。

店前に信長様と私が残される。


「………。あの…ご用件お伺います。」


早く話してお店に戻らなくては。

最近初さんの体調が落ち着いているけど油断はできない。


「ここでは話せん。」


信長様が近くでやっている一座を見る。

釣られて見ると踊っている女の子と目が合い、その子がニコッと笑った。

私も笑い返す。


「…知り合いか。」


「ええ、まぁ。お客さんです。」


「そうか…。」


そこから会話は途切れ信長様の背中を追って歩いた。

そして民家が少し残る場所になるとゆっくり話し始める。


「お前、さっき一座の奴らと知り合いだと言ったな。」


「はい。」


「今後は関わらない事だ。」


「それは…どうしてですか?」


急にそんな事言われても。

理由が知りたい。

私は信長様の言葉を待った。


「一座を取り仕切る権左衛門ごんざえもんと言う男。妙にきな臭い。だから近づくな。」


「ご忠告ありがとうございます。ですがそれは出来ないです。私にはー」


「お前の事情は知っている。このまま関わり続ければどうなるかわからんぞ。」


だとしても私はよしさんと太郎さんを一度でいいから会わせてあげたい。

二人共心の奥で会いたいと思っているはずだから。


「それでもです。」


「………。ではあと一つ忠告だ。もう惣菜まんだったか?あれは二度と売るな。」


そう言って信長様は去って行った。


「にんにくのお礼言うの忘れちゃった…。」


こんな雰囲気で別れたくはなかったな。

次会う時はどんな顔して会えばいいんだろ。

その後、信長様と会う事は無かった。




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