第44話牛乳料理

男はいきなり大きな声で笑い始めた。

店のお客さんや与一君とよしさんもこちらを振り向く。


「ぷっはははははっ、いいだろう。ちょっと待ってろ。」


男はそう言って何処かに行ってしまった。

えっ、まだ代金貰ってない…。

与一君が私の側に近づく。


「あの男は?」


「あー、牛乳を取りに行った?多分ね。」


「それ…食い逃げじゃないか?」


それを言われると絶対違うとは言えない…。

しばらくすると男はちゃんと戻って来た。


「おい女、持って来てやったぞ。ほらよっ。」


男は来るなりひょうたんを投げつけて来た。


「えっ?うわっ、ちょっと待ってっ……。」


私はそれをよろめきながらも両手でキャッチする事に成功。

ひょうたんの中身は先程言った牛乳だろう。


「噂で聞いたがここの店は客が食材を持ってくればその食材で料理を作ってくれるのだろう?」


「ええ、そうです。」


「なら、それで作れ。作れたら牛の乳が売っているところを教えてやる。」


私が持っているひょうたんを指差す。

牛乳を使った牛乳料理か……うん、作れると思う。


「わかりました。作ります!」


私は男に頭を下げて料理場に向かった。

最初の一品は味噌牛乳スープを作ろうと思っている。

材料の準備をしていると与一君が来てくれた。


「店落ち着いているから何か手伝う。」


「ありがとう!!助かる。じゃあね、里芋剥いてくれる?」


「わかった。」


与一君が里芋を剝いている間に鳥肉を一口よりも少し大きめに切り焼く。

鳥肉に焦げめが付いた所で大き目に切った里芋を入れ火が通るまで焼き、きのこも軽く炒める。

この時点でとても美味しそうだが我慢。

隣からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


「もうちょっと待ってね。」


「っ!!!」


与一君の頬が急激に赤くなる。

どうやら私以外にも同じ事を思った人がいたみたいだ。

そしてこの料理の主役である牛乳を入れる。


「真っ白だ~綺麗~。」


ひょうたんから白い液がトクトクと落ち、大き目に切った食材を包み込む。

私が牛乳の美しさに魅了されていると横からひょうたんを奪い取られた。


「何やってんだよ、師匠!!それ、牛の乳じゃねぇか!」


「うん、そうだよ。」


「っっ!牛の乳は生血なんだぞ、飲むと牛になるって聞いた事がある!!」


牛乳って見かけないと思ってたけどそういう事だったんだ。

でもあのお客さんは普通に牛乳飲んでたけど…。

だから私が牛乳が欲しいって言った時、大笑いしたのかあの人。

牛乳美味しいのに勿体ないなぁ。


「でも牛乳の料理っていうのがお客さんの注文だから。作らなきゃ…。」


そう、お客さんの注文の為に作っているのだ。

疑いの目で私を見る与一君。


「師匠が食べたいからじゃなくて?」


与一君そんな顔で私を見ないでよ。

食べたいからではない…後で味見はするけどね。


「美味しいよ、牛乳。」


「飲んだ時あるのかよ…。」


飽きれながら牛乳が入ったひょうたんを返してくれた。


「まだ手伝う?」


牛乳に嫌悪感を抱いているみたいだけど手伝ってくれるかな。

楽しんで作って欲しいので無理強いはしたくない。

与一君は私から目をそらした。


「ん、弟子だからな。次は?」


「ありがとうございます。では、私がスープを作っている間にパンちぎって。」


「はぁ?」


与一君はすっとんきょうな声をあげた。

スープだけでは物足りないのでもう一品作りたいのだが、その料理には細かくちぎったパンが必要なのだ。

一応もう一度喋る。


「パンちぎって。出来るだけ細かくね。」


「はぁ?」


二度目のはぁ?がとんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る