第43話パンを作る(実食)

焼きたてパンの中は白く、温かい蒸気が空中に舞う。


「与一君、これがパンだよ。食べて見て。」


与一君にもパンを渡し一緒に試食してみる。

作法としては一口サイズにちぎって食べなきゃいけない所だけど…今回はかぶりつく!!


パンの皮は弾力があり、嚙めば嚙むほどパンの甘みがます。

少し硬く仕上がったけど成功かな。

与一君を見るとしかめ面でパンをずっと噛んでいた。


「…不味くはないけど、旨くもない。これ…いつまで噛めばいいんだ?」


あれ?まさかの不評。

よしさんにも食べて貰ったけど複雑そうな顔をしていた。

ここまでパンが受けないなんて…。

原因はパサつきと硬さみたい。

戦国時代ではあまりパンはうけないみたい。


ネットがあればどうすればいいか調べられたんだけどなぁ。

私が食べたいと思った時以外パンはもう作らないだろう…そう思っていたのだが…。


料理場で追加のご飯を炊いたりしている時、与一君が私の所に来た。


「師匠、客が呼んでる。」


「え?私を…?」


料理を運んでいる時に呼び止められる事はあるけど呼び出しは珍しい。


「どの人?」


「あの派手な着物の人。外の方にいるから。」


近頃、少し肌寒くなってきたので外で食べるお客さんはほとんどいないけど…。

外の長椅子に向かうと他のお客さんより派手な恰好をした男性が座っていた。

派手と言うよりもお洒落に近いような気がするな。


「お待たせしました。私をお呼びだと聞いたんですがどうかしましたか?」


料理の方に問題でもあっただろうか。

だが、まだ料理を運んだ形跡は無い。


「お前がここの料理を作っていると聞いたが本当か?」


「えぇ、そうですが。」


頭からつま先までをじろりと見られた。


「あの客と同じものを一つ頼む。」


店で湯漬けを食べている客さんを見てそう判断したみたい。

初めて来るお客にはこんな感じで注文してくる人は結構多い。

私を呼んだのも料理をする人をただ見たかっただけかもしれない。


「辛味噌湯漬けですね。少々お待ちください。」


辛味噌湯漬けを作る前におしぼりと白湯を渡した。

ちなみに、寒くなってきたのでおしぼりは温かいもの、水は白湯に変更してある。


「よかったらおしぼりは手を拭くのにお使いください。白湯は熱いので気を付けてお飲みくださいね。」


「待て、全て頼んでないが。」


サービスです、と言いたいところだけど通じないので…。


「店側の勝手なもてなしです。受け取ってくれると嬉しいです。」


男のお客さんはおしぼりを手にして優しく笑った。


「温かいな…。」


「では、辛味噌湯漬けも直ぐにお持ちしますね。」


料理場に向かい湯漬けの準備をする。

秋になり辛味噌の具もふきからきのこに変わり、たけのこ玄米もノビル(ねぎ)と辛味噌とは別のきのこに変わってきた。

ノビルときのこの玄米ご飯を器に入れ、きのこの辛味噌をご飯の上にのせたところにお湯をかけて完成。

秋仕様の湯漬けを男の元に持って行く。


「お待たせしました。湯漬けです。」


男に湯漬けを渡すと勢いよく食べ始めた。

食べると言うより飲むに近い。

私がその場から去り自分の仕事をしようと思っていたら直ぐに呼ばれてしまう。


「おいっ女!」


「あっはい。何でしょうか?」


「もう一杯頼む。」


食べるのが異様に早い。

湯飲みを見ると中が空っぽだ。


「はい、かしこまりました。白湯もお持ちしますね。」


「いやいい、俺にはこれがある。」


ひょうたんを持ちその場でゴクゴク飲み始めた。

口から白い液が垂れる。

あれは一体……。


「気になるか?」


「はい、それは何ですか?」


素直に聞くと男はニヤリと意地悪そうに笑い答えてくれた。


「牛の乳だ。」


牛乳!!!

この時代で見かけないと思ったけどここにあった!

今を逃したら聞けなくなる。


「あの、その牛の乳って何処に売ってますか!」


男は瞬きを二回ほどして私をじっと見る。


「これが欲しいのか?」


「はい!!」

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