第42話パンを作る

与一君が働き始めて数日。

与一君は私が思った以上に仕事が出来る子で、今では主戦力として活躍している。

私とよしさんの負担が減り、余裕を持って働くことが出来ていた。


「師匠、今日は何作るんだ。」


「今日はパンを作って行こうと思います!!」


そう、一週間かけて作ったドライイーストに変わる玄米酒種が遂に完成したのだ。

明治時代にこの酒種酵母を使ってあんぱんが生まれたとか。

これでパンが作れる!

今日の私はいつもよりテンションが高いので与一君も若干引き気味。


「パン?」


「そう、パン。まぁ、実際に作って見た方がわかると思うよ。」


説明がめんどくさかったわけではなく…どう説明すればいいか分からなかっただけ。



「まずは饂飩粉、蜂蜜、塩、油、玄米酒種を鍋に入れて混ぜる。」


手捏ねで混ぜていくが中々まとまらない。

生地が少しべたついている。


「与一君、饂飩粉少し足してちょうだい。」


「このぐらい?」


「うん、そのぐらいで大丈夫。」


粉を足す時に助手がいるとすごく楽だ。

両手がふさがっている時とか手が汚れている時とか大変助かるのだ。

与一君に饂飩粉を足してもらい、捏ねるといい感じにまとまって来た。


「生地が渇かないように軽く絞った布をかぶせて一旦放置。ありがとう、与一君。仕事に戻っていいよ。」


「っえ?もう終わり?」


おっと勘違いされちゃう。


「これは一次発酵って言ってね。生地を発酵させるために休憩させるの。わかる?」


与一君は小首を傾げる。

えーっと、昔の発酵を使った食べ物と言えば……そうだっ!


「そう、納豆!納豆を作る時、蒸した大豆を藁に入れて放置するでしょ、パンにはそれが二回必要なの。」


「へぇーそう言う事か…。」


良かった納得してくれたみたい。

生地の様子を見ながら仕事をしているとふっくらと大きくなった。

与一君に召集をかけてパン作りを再開する。


「空気を抜いてから丸い形にしていきます。与一君も丸くするの手伝って。」


「うん。わっ…餅みてぇ。」


確かに餅のような感触だよね。

丸パンにしようと考えているので丸い形にしていく。


「丸め終わったらまた濡れた布をかぶせて二次発酵。」


「じゃ、仕事に戻る。」


そう言って与一君は仕事に戻って行った。

私も自分の仕事をしつつもパンの発酵を見ながら作業する。

大体二倍に膨れた所で与一君をまた呼んだ。


「後は丸いパン生地に切れ込みを入れて後は窯で焼くだけ。」


生地に切れ込みを入れている時に与一君に突っ込まれる。


「何で綺麗に丸めたのに切るんだ?」


「えーと、均一に膨らませる為だったはず。」


「へぇ~。」


クッキーを焼いた時のように窯にパン生地を入れて焼いていく。

窯の中を覗くと徐々にパンが膨らんできた。


「…膨らんでる。クッキーとは違うんだな。使うものは大体同じなのに。」


与一君はこの前作ったクッキーと比べているようだった。

一つ材料が違ったり、材料が同じでも作り方が違うだけで別の料理になる。

本当に料理は奥が深い…。


パンが茶色の焦げ目が付いたら窯から取り出す。

パンの良い匂いが広がる。


私にとってはかなり懐かしい匂いだ。

パンの匂いすーっと鼻で吸って口ではぁ~とはく、朝に嗅ぎたい匂いですね。

見た目も私が想像した丸パンそのもの。


「嗅いだことないけどいい匂い…。」


与一君も匂いは嫌いじゃないみたい。


焼きたてのパンを割りちゃんと中まで火が通っているか確認してお待ちかねの実食タイムがスタートした。


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