第41話与一弟子になる?!
今日もまた与一君がやって来た。
えーと、私の仕事を見せればいいんだよね。
裏口に立ったままの与一君を呼ぼうとしたら、与一君から近づいて来てくれた。
私の前でピタリと止まり、私の目を真直ぐ見る。
「俺を弟子にしてください。お願いします!」
やすさん!今朝の話と違いますけど!!
一人心の中で焦る私と、今だ真剣な眼差しで見つめる与一君。
うっ……はぁ~。
「弟子になるのは少し置いといて…。私の仕事見るとかどうかな…?」
「わかった。」
即答…。
ひとまず、弟子の件は保留にしてもらった。
でもこの状況いつもと変わらないような気がする。
後ろで立っていた与一君が横に来ただけ…。
「何か気になった事があったら聞いてね。」
「じゃ、これは…?あれは…。どうして…。」
おしぼりの事から料理の事まで私がやること全て突っ込まれてしまい大変だったけど少し懐かしくもあった。
会社の新人教育を思い出し笑っていたら与一君に睨まれてしまった。
仕事中にすみませんでした…。
まぁ、質問してくるって事は意欲があるって事だからいいことなんだけどね。
私と与一君を見てよしさんが微笑む。
「まるで、姉弟ね。若い人が増えると店が活気付くわぁ。」
「姉弟ですか。歳離れすぎじゃないですか?」
姉弟にしてはあまりに歳が離れすぎのような気がする。
「菜が二十四で確か与坊よんぼうは今年で…。」
「十四です。」
現代で言えば中学生くらいという事になる…という事は。
「ちょうど十離れてるって事だねぇ。少し歳が離れた姉弟って所で違和感はないね。にしても、少し見ないうちに随分大きくなって、おばさん気付かなかったよ。」
現代でも年の離れた姉弟は時々いるけど十歳も離れて少しって昔の常識は凄い。
背丈的に小学生ぐらいに勝手に思っていたから歳を聞いた時はびっくりした。
それから、与一君が私の仕事を一日中見る日々が続いた。
うーん、このままでいいのだろうか…。
やすさんにああは言われたけど、見るだけっていうのもなぁ。
横目で与一君を見ると真剣におにぎりを握る手を見ている。
何かしてあげたいと思うけど…よしさんに相談してみようかな。
やはりここはこの店の店主でもある年長者の意見を聞きたいところ。
与一君が帰った後によしさんに早速相談してみた。
「だったらここで働くってのは?」
「えっ、いいんですか。あっ、でもお金が…。」
確かにここ最近繁盛はしてきたが、お金に余裕があるかないかと言えば無いに入る。
もし、与一君が働くとなれば給料を支払わなければならないだろうが中々難しい。
「何そんな事気にしてるのかい?私に任せておきなさい。」
よしさんがそう言うならと思い任せることにした。
翌日になりよしさんが言っていた事が明らかになった。
「与坊次第だよ。ここで働くって言うんなら昼と夜のご飯を付ける。お金は払えないけどそれでもいいかい?」
「働きたい!!働きたいです!お願いします。」
与一君の眼差しは光に満ち溢れていた。
その案は私も考えていたけど、よしさんに言えなかった。
私の事も面倒見てくれているのにあともう一人いいですか?なんて言えなかった。
こうして、新しい従業員が一人増える事になったのだ。
与一君が私を力強い目で見る。
「師匠もよろしくお願いします。」
「し、師匠って何?!ちょ、ちょっと与一君!」
与一君は私の言葉に答えず、皿を洗い始めた。
よしさんは微笑ましそうに見ている。
ここ何日かで与一君が頼もしくなり、いつの間にか言葉に突っかかりが消えていた。
そして私の呼び方が与一君の中で師匠になってしまったのだ…。
師弟関係を結んだ記憶はないんだけどなぁ。
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