第33話お寿司

お寿司が出来上がり皆の机に運ぶ。

皿の上には二貫づつ五種類のお寿司を並べた。

急な注文ということもあり今回はわさび無しで醤油だけ付けて食べてもらう。


四人分のお寿司を運び終わった時に、先程まで興味津々にお寿司を見ていたりゅうさんと目が合う。

なんだか今日はよくりゅさんと目が合う日だ。

もしかしたら何か必要な物などがあるかもしれないと思い自分からりゅうさんに声をかける。


「りゅうさん、どうかしましたか?」


「菜の分の料理がまだみたいだけど…。」


その言葉に思考が停止した。

えっまさか私もここで食べろって言ってるのかなこの人…。

気のせいかもしれないけど私だけ場違いのような気がヒシヒシ伝わってきている。

できればご遠慮願いたい、やんわり断ってみよう。


「う、嬉しいのですが今日はりゅうさんのお知り合い?も来ている事ですしご遠慮しようかな…と…。」


「あぁ、なるほど。このとらとかいう奴と食べたくないならそう言えばよかったのに…。場所を変えよう。」


りゅうさんはスッと席を立つ。

その言葉に私より先に次郎さんが反応する。


「なんだとっ…!」


次郎さんが私をを睨みつける。

いやいや、私言ってないです。

言ったのはりゅうさんですよ。

私の一言で修羅場になってしまった。

なんて声をかけようか困っている時にとらさんも便乗してきた。


「そうだったのか…ひどいな…。」


とらさんはニヤニヤしながらこちらを見る。

この人この状況を楽しんでる、絶対そうだ。

私は今度はこの場を治める事に専念した。


「とらさん!とらさんさえ良ければ一緒に食べてもいいですか!」


とらさんは楽しそうに笑った。


「あぁ、俺でよければ一緒に食べてくれ。お嬢さん。」


りゅうさんはその言葉を聞くとさっきいた場所に座った。

次郎さんは小さく舌打ちをした。


よ、良かった~~。

今日はドキドキしぱなっしだ、色んな意味でだけど。


それから急いで自分の分を用意し、皆が居る所に向かったのだが…。

なんと言う事でしょう。

私が座る所が無いのです。

いや、作りながら薄々気づいてはいたけどね。


机は長四角で横に二人しか座れないので私が座るとしたら縦の所しかないのだ。

これでは私が主役、誕生日席になってしまう。


実はこの机は私が頼んでやすさんに作って貰ったのだが今度もう少し大きく出来ないか聞いてみよう。

座る場所をどうしようか悩んでいると次郎さんがこっちを見てきた。


「こっちは腹減ってんだよ、早く座れよ。」


人差し指で主役席をトントンと叩かれた。


「すみません。お邪魔します。」


私、やっぱりそこに座るんですね。

そして、静かに食事会はスタートした。


りゅうさんは食事が始まると宣言道理、私の盃にお酒を注いでくれた。

皆がお寿司を食べてる中りゅうさんはお酒を注いでからこちらをじっと見ている。


この人私に何して欲しんだろう…。

りゅうさんの対応に困ってると時次さんが耳元で話しかけた。


「出来ればお酒を飲んであげて下さい。」


あっそういう事か。

一気にお酒を飲み干すと、りゅうさんは嬉しそうな顔をした。

そしてまた白い手が伸びて私の盃にお酒を注ごうとする。

時次さんがその手からお酒を奪い取り、私の盃にお酒を注ぐ。


「お酒もいいですが、菜さんが作ってくれたお料理も食べて下さい。」


りゅうさんは残念そうな顔をしていたが、お寿司を黙々と食べ始めた

私もやっと落ち着いてお寿司を食べれる。


最初は何を食べようか悩んだけど蒸し海老のお寿司から食べる事にした。

お醤油に付けて食べるの説明してない。

皆を見ると教えてないのに醤油を使っていた。

私の説明は必要ないみたい。


気を取り直して蒸し海老のお寿司を口の中に入れる。

噛むと身がプリッふわっとし、海老の風味が口の中に広がる。


玄米の酢飯だったけど美味しく出来ていて安心した。

そしてお酒を一口飲む。

至福のひと時とはまさにこのこと…。


皆さんは私が食べ終わる頃にには既に完食していて、お酒を楽しんでいた。

今日はおかわりしないのかな?

酢飯はお腹にたまりやすいとは聞くけどそれにしても…あんまり好きな味じゃなかったとか。

私がうーんと唸っていると次郎さんに話かけられた。


「黄色いやつってもうないのか…?」


「まだ…ありますよ…。食べますか?」


話かけられたけど、こっちを見ないで盃に入ったお酒を見ている。


「…食べる。」


「はい、わかりました。他の皆さんも食べたいお寿司があったら作ってきますよ。」


皆さんそれぞれ食べたいお寿司を聞いた。

りゅうさんは全部おかわり、時次さんは天ぷらお寿司セット(海老天お寿司、イカ天お寿司)、とらさんは赤貝の甘醤油煮のお寿司。


もしかして、私が食べ終わるの待ってくれてたのかもと気付いた。

ならばなるべく早く作ってあげよう。

お寿司を作り、出来上がったお寿司を持っていく。


皆の反応を見るチャンスだ。

さっきは自分もお寿司とお酒の虜になっていたので反応を見れなかったからね。

玉子のお寿司を注文した次郎さんは黙々と食べているけど、少しだけ口元が緩んでいるように見えた。


この人普段は怒った口調で怖いけど、ご飯食べた後は少し和らいでいるような感じがする。

今なら話しても答えてくれそうだ。

意を決して話しかけてみよう。


「甘いのお好きなんですか?」


「…別に…普通だ。」


甘い玉子のお寿司を選んでいるから甘党だと思ったけど違うみたいだ。

食べている時は話しかけやすいけどぶっきらぼうだ。

次郎さんの隣に座っているとらさんが楽しそうに笑う。


「はははっ、次郎?素直になれ。黄色いのも甘いが、この赤貝も甘じょっぱくて美味しいな。」


もしかして本当は甘いの好きなのかも。

よし、次郎さんは甘いのが好きだと覚えておこう。


「とらさんも甘いものがお好きなんですか?」


「確かに甘味も好きだが、実は貝が好きでな。赤貝を煮込んだものは食べた事はあったがこれは初めての味だ。この酸っぱい玄米ともよく合っている。この醤油をつけなくても貝自体が味が付いてるからそのまま食べれるしな。本当はあわびがあれば良かったんだが…。」


なるほど道理で赤貝の量が尋常じゃないはずだ。

そんでもって、貝の中でもアワビが好きということかな。

あわびなんて贅沢。

時次さんが頷き会話に入る。


「とらさんの言う通り赤貝も美味しいですが、この天ぷらのお寿司も美味しいですよ。いか天もこのもちっとした食感と天ぷらの食感が合わさって面白いですね。菜さんが前回美味しいと話してらっしゃったこの海老天は特にです。衣の食感もですがこの海老のぷりっとした食感がまた何ともたまりません。この酸っぱいご飯ともよく合う。」


時次さんは海老天が気に入ったみたい。

ご飯が酸っぱいからご飯腐ってるとか言われなくて良かった。

時次さんが会話に入った事でりゅうさんも混ざる。


「菜が作ったんだから全部美味しいよ。」


「あはは~ありがとうございます。」


結局その後皆で全種類のお寿司をおかわりしました。

私も時次さんととらさんのご丁寧な食レポを聞いたら食べたくなってしまい便乗してしまった。

準備した具が無くなり、お酒タイムになりつつあった。

りゅうさんが私に追加で注文する。


「菜、俺の梅干しあったら持って来て欲しいんだけど。」


「わかりました…。」


ん?梅干しどうするんだろう…?

次にとらさんが続けて注文する。


「あぁ、俺には塩と味噌を頼む。」


「わ…かりました。」


何故に調味料をこの人は欲しんだろう。

塩は枡の飲み口にのせて飲んだりするので分かるけど味噌と梅はどうするんだ。

とにかく調理場から梅干し、塩、味噌を持って来る。


「持ってきました。どうぞ…。」


私は彼らの行動に衝撃を受けた。

えっ、まじか!!

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