第10話悩む卵料理
無事に今日の湯漬けは完売した。
少しずつ作る量を増やしているが、閉店する前に売り切れてしまった。
明日の分の量をよしさんと相談して決めなくては。
そろそろやすさんと時次さんが来る頃かな。
片付けながら卵をどう調理するか考える。
一品目は卵と大根の煮付けにしようかなって思ってるけど…ん~、後一品欲しいところ…。
考えてる間に片付けが終わってしまった。
ひとまず、卵と大根の煮付けを作ってしまうことにした。
米のとぎ汁を沸かしている間に大根の皮を剥いて、輪切りに切っておく。
米のとぎ汁を使うと大根に味が染みやすくなるっておばあちゃん言ってたっけ。
料理してる時っておばあちゃんの事よく思い出してるなぁ。
自然と笑顔になっている自分がいる、懐かしいからだろうか。
米のとぎ汁が沸騰したら大根と卵も一緒に茹でて、大根に火が通ったら、米のとぎ汁を捨て卵の殻を剥いたものと大根を鍋に入れる。
本当はお醤油とかだしで煮詰めたいけど今は味噌しかないので味噌を使う。
お醤油が欲しいと近頃ずっと思っている、味噌味も美味しいけど少し飽きてきたのが本音だ。
卵と大根が入った鍋に水、味噌を入れて沸騰したら落し蓋をして少し煮る。
味噌のいい匂いが部屋に行きわたる。
お腹がなってしまった。
ちょっと飽きてるけどこの匂いにはやっぱり勝てないな…。
少し煮たら火から鍋を移動して冷ます。
一度冷ますと味が染み込むらしい。
やすさんと時次さんが来たら温めて完成。
そういえば、時次さんから梅のおにぎり頼まれてたんだった。
全部一緒って言うのもつまらないし、梅のおにぎりを気に入ったんだったら、あれも好きかも知れないと準備する。
昨日作った梅のおにぎりとふきの辛味噌おにぎりを握っていく。
そして、昨日とは違うおにぎりを一つ作る。
もう一つは焼きおにぎりにしようかな。
現代でも休日に食べていた大好きなおにぎりだ。
まずは、玄米を用意して手のひらにのせる。
おにぎりの具を当初は梅にしようか悩んだけどよしさんお手製の味噌大根があったため、そちらを使うことにした。
やっぱり、焼きおにぎりの具は味噌大根だよね。
よしさんお手製の味噌大根を一口ぐらいに切り、一つ余分に切る。
余分に切った味噌大根を自分の口の中にほうりこむ。
「んっ、しょっぱ…。」
結構しょっぱいけど噛むと大根のうま味がでてくる、おばあちゃんの味だ。
ポリ、ポリこの歯ごたえもたまらない。
料理中の味見は料理する人の特権だね。
味見をしたら、おにぎりに味噌大根をのせて握っていく。
次におにぎりに塗る味噌を作っていくのだが、砂糖がないのでこちらを使っていく。
店の手伝いをしながら作った玄米甘酒!
よしさんにも手伝ってもらいながら作った。
材料の米麹は井戸の所においてあり、よしさんが持ってきてくれた。
誰が何のために置いたのかは不明だけどこのまま置いても悪くなってしまうのでありがたく使うことにした。
一瞬、井戸であったあの人のことを思い出したけど、まさかね…。
井戸で冷やしてある玄米甘酒を持って来て少し味見。
玄米の甘酒は初めて作るので不安だったため、もう一度味見する。
ちなみに、作ってすぐの温かい甘酒もよしさんと味見した。
初めて作るものって不安で何回も味見しちゃうんだよね。
「はぁ……。うま…。」
冷たいのは温かいのとは別の美味しさ、この時代に来て甘い物は初めてだ。
いくらでも飲めてしまう。
やすさんと時次さんにも飲んで貰おうと思っているのでここまでにしておこう。
気を取り直しておにぎりに塗る味噌を作っていく。
味噌と玄米甘酒を入れてよく混ぜて完成。
おにぎりに甘酒味噌を塗っていき竈の上に網を置いて焼いていく。
しばらくすると味噌の焦げの匂いがただよってくる。
何度も両面に甘酒味噌を塗って焼いていく。
これ、私が食べたい!
今日の主役のしそを海苔のようにおにぎりに巻いて完成。
このしそがいい活躍をする、この焼きおにぎりに巻くことでしそが主役にもなりえるのだ。
味噌のこってりとしそのさっぱりがいい相性なんだよね。
口の中を想像すると唾液がとまらない、あ~食べてしまいたい。
自分の欲望を抑えて、おにぎりの荒熱が取れたら笹に包んだ。
おにぎりを作り終えた頃にやすさんと時次さんがやって来た。
やすさんが家に入って来て、続けて時次さんも入る。
「邪魔するぜ。」
「お邪魔します。」
よしさんが出迎えてくれる。
私も台所からよしさんの隣に行き挨拶をした。
「いらっしゃい。」
「おつかれさまです。今日はよろしくお願いします。」
自然と体に力が入ってしまった。
そんな私を見てやすさんが大きく笑う。
「わっはははは。なぁに緊張してんだよ。そんな菜ちゃんに時次からおみやげだとよ。」
時次さんからおみやげって何だろう。
時次さんを見ると手に何か持っていた。
「帰り際に雉を捕まえて。良ければ。」
「時次のやつ、雉を見つけるや否や小石を一つ持って一発で頭に当てやがった。ありゃ~たいしたもんだね。」
やすさんがあの時の風景を思い出しながらうんうんと頷いて
捕まえてすぐに雉をさばいてくれたらしく、そのまま調理可能な状態だ。
雉って鳥だよね…。
もう一品どうしようか悩んでいたけど…。
現代でも子供も大人も好きだったあれでいこうかな。
「時次さんありがとうございます!大切に使わせていただきます。」
雉肉を受け取り、ありがとう~と心を込めて時次さんの両手を握り縦に振った。
「…っ喜んでくれてなりよりです…。」
時次さんは口に手を当て、目をそらした。
頬が少し赤いのはきっと…暑いからに違いないと自分に言い聞かせて、私は雉肉を持って調理場に向かった。
調理場から時次さんを覗くといつもの時次さんの顔に戻っている。
あれ、さっき見たのは私の勘違いかも…きっと本当に暑かったのね。
さてと、気合をいれて作っていきますか。
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