第9話卵事件
今日は一人で山に山菜採りに来た、よしさんは洗濯物を洗っている。
よしさんは私を一人で山に行かせたくなかったようだが、私もいつまでもよしさんに甘えていてはいけないと思い大丈夫だからと言って出て来た。
帰る途中でやすさんにあった。
やすさんの手に持つ籠の中には大量の卵がある。
「おはようございます。山に今から行くんですか?」
やすさんは私が帰る方向と逆の方向に向かっている様子だった。
この先は私がいつも山菜を採っている山だけど、卵を持って何をしに行くか気になった。
「おはよう、菜ちゃん。実はこれを捨てに行くんだよ。飼ってた野鳥が死んじまってよう。卵なんて持ってても食えんしな。野鳥は食べるがな。」
とやすさんは自分が持っている籠を持ち上げながら言った。
卵が食べれない?どうゆうこと。
「卵って食べないんですか?」
やすさんは頭をふった。
「卵を食べるなんてとんでもねぇ。鳥は神様の使いだ、その卵を食べると罰が当たるんだぜ。」
矛盾してないか…。
神の使いの鳥は食べて、卵は食べちゃダメってどうゆうこと。
やすさんいわく、鳥は鳥でも鶏のことらしい、やすさんの家にいた鳥は雉だから食べていいそうだ。
でも、その雉の卵はダメってどうゆうことだ、意味がわからない。
卵…美味しいんだけどな…。
卵食べたいなぁ、もらえないかなぁ。
「やすさん、その卵貰うことって可能でしょうか。」
「かまわねぇよ、こっちとしても捨てる手間がはぶけるからな。」
やすさんから卵が入った籠を貰い、急いで家に帰った。
卵が食べれるのが嬉しい、玄米と山菜しか近頃食べていなかったからね。
にやけが止まらない。
よしさんにやすさんから卵を貰ったことを話した。
「一体その卵何に使うんだい?もしかして食べるつもりかい。」
さすが、よしさん私のことをよくわかっていらっしゃる。
本当に美味しんだから、卵って万能ななんだからね。
「あははは…。はい、食べたいと思って貰ってきました。」
よしさんは驚いた顔をした後、ため息をついた。
「作ったら、ちゃんと私にも食べさせるんだよ。」
こっちの時代の人は卵を食べると罰が当たると考えている、なのによしさんに食べさせてもいいのだろうか。
「でも、罰が当たるって言ってましたし、私だけ…。」
私だけ食べますよ、よしさんに悪いしと言おうした時さっきよりも深いため息をおとす。
「何言ってんだい。私の娘が食べるって言ってるんだから、母親の私が食べなくてどうするのさ。」
喉の底が熱くなり、目から涙がボロボロ出てくる。
よしさんは困った子だねと私を抱きしめて、小さい子供をあやすように背中を優しくポンポン叩いてくれた。
私が泣き止んだ後に店の仕込みと朝ご飯の準備をした。
卵は今日の夜ご飯に食べようと考え、井戸の水で冷やしている。
こんなに暑いとすぐ悪くなりそうだったので冷やすことにした。
店を開店してすぐに、やすさんと時次さんがやってきた。
やすさんに卵の礼を言う。
「やすさん、卵ありがとうございました。」
やすさんが私が持ってきた水を一口飲んでから恐る恐る言った。
「あのようその件についてだが、俺があげた卵って食う気じゃないよな。」
図星を付かれ挙動不審になってしまう。
これは、嘘をついてもすぐばれてしまうと思い、はいと素直に答えた。
「ええっと、その、はい…。食べようと思っています。」
やすさんは頭を抱えてやっぱりかと呟いていた。
「普通は卵食べないのかとか欲しいとか言わないだろう。それでまさかなって思たんだが…。」
まずかったかな、でも本当に美味しいんだって、栄養も高いって聞くし。
それまで黙っていた時次さんが口を開く。
「どうして食べようと思ったんですか?卵を食べると罰が当たるというのは菜さんも知っていますよね。」
時次さんごめんなさい、そのことはさっき知りましたよ。
「その、昔食べたことがあってすごく美味しかったのでまた食べたいなと思いまして。あ、あと栄養も高いって本で読んだ気がします。たぶん…。」
これは言おうか迷っていたけど、さっき思った事を言うことにした。
「鶏以外の鳥って食べてもいいのに卵は全部ダメっておかしいなって思ったのと、卵を捨てるって行為の方が神様に失礼なんじゃないかなって思います。だったら、卵と鳥さんに感謝をして残さず食べたほうがいいんじゃないかと…。」
時次さんはなるほど…と納得しているようだった。
やすさんはそう考えると確かになとうなずいていた。
時次さんが微笑みながら大丈夫ですよ、と言いながら話してくれた。
「最近耳にした話なんですが、海から渡ってきた人がどこかのお殿様に卵を使った菓子を送り、大変喜ばれたとか。それから、少しづつではありますが卵が流通し始めているとか。」
ちょっとホッとした。
良かった卵使っていいんだ、卵のお菓子ってカステラのことだよねたぶん。
時次さんの笑顔って無表情から笑顔に変わるから心臓に悪いんだよね。
にしても時次さんすごく情報通だなと感心してしまう。
やすさんがよしっと言って膝を叩く。
「その卵の料理ってぇの俺にも食わしてくれ。」
えぇぇーと私が驚いていると時次さんも笑いながら私の分もお願いしますと言った。
「いつ、食べるんですか?」
時次さんも食べに来るんだ。
「今日の夜ご飯にしようかなと思っていたので、夕方に来てもらえたら嬉しいです。」
「夕方ですね、わかりました。」
時次さん今日すごく笑ってる。
そんなに卵料理食べたいのかな、気合いれなきゃな。
その後やすさんと時次さんはふきの辛味噌湯漬けを食べて仕事に行く時に、時次さんに止められた。
「あの、菜さん少しよろしいでしょうか。お願いしたいことがありまして。」
一体なんだろう。
「何でしょう。」
時次さんに手招きされたので近づくと私の耳に手をあて話し始めた。
「実は私の友人が昨日あなたが作った梅のおにぎりをまた食べたいそうで作って欲しいんです。できれば、内密にお願いします。」
時次さんの声と息が耳に当たる、くすぐったい。
何とか営業スマイルで乗り越えられた、良かった社畜で。
私が昨日おにぎりを作った相手ってよしさんとあの怖い人だよな。
時次さんってあの怖い人と友達なのか、ちょっと意外だ。
あの人に作ってあげるのはあまりしたくはないけど、時次さんのお願いだ仕方ない。
「はい、わかりました。では、夕方の帰りにお渡しできるようにしときます。」
「ありがとうございます。」
時次さんは深くお辞儀をして仕事場に戻って行った。
さて、まずは日中のお仕事を私も頑張らなくては。
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